谷 好通コラム

2013年07月15日(月曜日)

7.15.笑顔抜き「さわやか」の接客の秘密、その2

ハンバーグの「さわやか」の店員さんは、
自然に出てくる微笑はあっても
みんな真剣な表情で、
作ったようなヘラヘラした笑顔はまったくなかった。
私はそれを、むしろ爽やかに感じて、気持ちが良かった。

 

「さわやか」のハンバーグは本当に美味い。
独特のスパイスがよく効いていて、
独特の歯ごたえもあって肉を食べている実感がある。
私は「さわやか」のハンバーグが一番おいしいと思う。
しかも、安い。
だから、その繁盛ぶりはハンパではなく、
いつもたくさんの待ちの列が出来ている。

 

こんなに混雑しているのに、
お得な組み合わせで割安メニューがあったり、とか・・。
ご飯か、パンか。サラダのドレッシングは・・・。
ハンバーグにかけるタレの種類は・・とか。
焼き具合は・・とか。
一人一人に複雑な注文を取る。

 

女性スタッフは、
真剣な表情で、必要なことを、はっきりとした正確な言葉で
丁寧な口調で、
ほれぼれとするような正確さで、聞いていく。
しかも誰も、決して、あわてていない。
ジタバタと急いで歩いたり、焦った表情もない。
みなさん手際よく、淡々と働いている。

 

たまたまかもしれないが、
その店舗の女性店員さんは、付けまつげもなく、
ツメをけばけばしく塗っている人もなく、
みなさん薄化粧。
一生懸命に仕事をしているので、
顔が上気して、ほんのり赤くなっているのが新鮮だ。

 

接客に笑顔がないと言っても、
無愛想なわけでは決してない。
会話の途中で見せる自然な微笑が素敵で、
この人と、このお店の誠実さが内面からにじみ出てきているようだ。
ハンバーグのおいしさが、お店の誠実さと絶妙にバランスしている。
動きの良さと、はっきりした言葉使いは、
スタッフのしつけの良さと同時に、資質の高さを感じられる。
http://www.genkotsu-hb.com/

 

こんなに大繁盛店で、
たぶん圧倒的なリピート率を上げている「さわやか」は、
静岡県内だけに28店舗を運営している。
調べてはいないが、収益性の良い優良会社なのだろう。

 

なぜ、巨大マーケットの関東に出て行かないのだろうか。

 

「さわやか」の独自性を持った上質の味と、
あのスタッフさんたちの高い質ならば、
関東では圧倒的な人気が出て、
速いペースで成長し、何十倍もの規模のビジネスが出来るはずだ。

 

地方に行った時、その地域の素晴らしい店を見つけて
「東京に出ていけば、もっと大繁盛店になるのに、もったいない。」
と思うことが良くある。
「さわやか」なんかは、その典型だ。
静岡は関東に隣接しているのだから、
今の出店の延長線上で関東への出店はつながってしまう。
少なくとも、食材のデリバリーも横浜までならまったく問題ないはずだ。

 

それでも静岡県内から一歩も出ようとしていないのは、
何かよほど独特の考えがあるに違いない。

 

ここからは私の勝手な想像での話でしかない。

 

まず、この「さわやか」は、
営業コストが相当に高いと想像した。

 

ホームページ出ているタグラインに
「牛肉100%・げんこつハンバーグの炭焼きレストラン さわやか」とある。
これは牛肉を本当に100%使っていないと言えない言葉だ。
色々な種類の肉に脂身などを適当に混ぜて
機械的に造り上げてしまう焼肉チェーンの似非高級肉とは、明らかに違う。
現代のファミレスとか焼肉チェーンなどは、
材料費を安く済ませる技術と工業化が異常に発達していて、
原価率わずか10%で造ってしまっている外食チェーンも多いと何かで読んだ。
「さわやか」のハンバーグは、
外食の標準的な原価率30%をかなり越しているのではないだろうか。
私は素人なのでまったく解からないが、
あの、いつも変わらぬ美味しさから、勝手にそう思う。

 

 

もう一つコストの高さを感じるのは人件費。
彼らは明らかにパートさんやアルバイトさんとは違う。
「さわやか」のホームページでスタッフの募集要項を見て驚いた。
あそこで働いていた、真剣な表情で見事な接客を行っていたスタッフは、
ほぼみんな、4年大学の新卒採用のスタッフだったのだ。
採用実績を見ると静岡県内の大学が多い。

 

外食の常としては、
パートさん、アルバイトさんをいかに教育して、
来店客予想数によってこまめに人員の配置をマネージメントして、
1円でも人件費を削ろうとする姿勢とは正反対だ。

 

あくまでも資質の高さを求め、良き人材で質の高い店舗運営を目指す。

 

多くの外食店舗は、
乱立する外食産業の中で、
原料費を絞りに絞って材料コストを下げ、
研究しつくされた加工技術と、
セントラルキッチン化で加工費も削り、
と同時にアルバイト・パートさんの安い人件費での味の均一化もはかる。
接客も決まったセリフとマニュアルで均質化して、
徹底したローコストオペレーションで、安売りで勝負する。
ふんだんに使うことを奨励されているのは、ノーコストの笑顔。

 

外食ビジネスとは、コストとの闘いとも言える。
その外食の闘いの中で、
「さわやか」は、
原料費に金を使い、
資質の高い人材を、たぶん相当に高い人件費をかけて、
面倒かつ複雑なオペレーションを、
真剣な誠実さにあふれる接客を実現している。
だから、いつも満席でフル回転の営業で、
高コストを吸収し、採算を維持している。
そんなストーリーではないだろうか。

 

しかしこれは「さわやか」が寡占状態になった静岡の中で出来ることでしょう。

 

これが、静岡の何十倍ものスケールを持った関東の中の、
すでに強大な競合業者がびっしりの場で、
「さわやか」が新参者として進出し
誰もが認める美味い味と、
オペレーションの質の高さで勝負しても、
強大な競合業者は、対抗しようのない安値競争を仕掛けてくるだろう。

 

真心こめて880円の美味しい「げんこつハンバーグ」を提供しても、
そのすぐ近辺で、競合業者に298円でハンバーグを売り続けられたら、
苦しいだろうと思う。

 

高い原料費コストと、
高い人件費コストを背負って、
さらに静岡よりもうんと高い地代を払いながら、
「さわやか」が知名度で圧倒的である静岡とは違い、
他の有名なハンバーグブランドに溢れる関東で、
ほとんど無名の「さわやか」が、
美味い味と真面目な接客だけで”勝っていく”のは、
とても難しいと、「さわやか」の経営陣は慎重に構えているのかもしれない。

 

「さわやか」のホームページに、
日本一の「地域一番店」を目指す。と書いてありました。

 

日本の中では関東だけが、
人口が一方的に集中し続けて、
圧倒的な濃密なマーケットが存在するが故に、
関東以外の地域にはない異質な非日本的な文化が育った
特殊な地域だと思うことがあります。

 

関東が発祥で作られたビジネスモデルは、
地方ではなかなか通用しません。
濃厚なマーケットがあってこそ生まれ、通用するビジネスモデルは、
希薄な地域のマーケットでそのまま通用することは少ないのです。

 

地域で勝負するには、
ローコストと効率を極限まで追求するゲームのようなビジネスではなく、
本気で、本物を追求するビジネスがいいのかも知れません。
そこには、
うすっぺらな「作った笑顔」の接客なんて要りません。
作り笑いで、愛想笑いしながら話をされると、
気味が悪いだけで、
まったくその人を信用する気になれません。

 

 

だから、
「さわやか」には、関東なんか放っておいて、
ぜひ、愛知に進出していただきたいものと、切に願うものです。
私は地元で「さわやか」の「げんこつハンバーグ」が食べたい。

 

 

三日間いた娘と孫たちが帰って行きました。
みんなで並んで、選んで、食べて
「ここのハンバーグすごく美味しい。また、絶対、来たいよね。」と
また「さわやか」に、大人はげんこつハンバーグを、
子供たちは、少し小さめのおにぎりハンバーグを食べに来ることを約束しました。

 

 

※孫たちは
私が「バケ退治」のために買った巨大水鉄砲を、
嬉々として富山に持って帰って行きました。

 

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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