谷 好通コラム

2012年08月29日(水曜日)

続・酒の話、桜の花見でジャンケン

 

もう一つだけ酒の話を。今度は汚い話ではない。
もちろんきれいな話でもないが、汚くはない。

 

24歳の時、八事の噴水から三年後のことである。

 

私は高校を卒業してすぐに入った会社を辞めて、
次の会社で一つのガソリンスタンドの所長をやっていた。

 

春。
スタンドのスタッフと他の店のスタッフも一緒に、
名古屋の鶴舞公園に、夜、桜の花見に出かけた。
鶴舞公園は花見の名所、
それも夜桜見が盛んな場所だった。
夜桜見といえば当然酒、夜の闇と華やかな桜の花が酔いを誘う。

 

私たちもしこたまビールと酒を買い込み、近くの居酒屋で酒の肴を仕入れて、
すでに陣取らせてある鶴舞公園の桜の木下で酒盛りを始めた。

 

一時間もするとお酒もすっかりまわり、
私たちも周りも歌えや踊れやのドンチャン騒ぎ。
花見の名所だけあって人出も多く、周りはぎっしり。
ラッシュアワー並みである。
そうなると、もう、自分のところも人のところもゴチャゴチャになってきて、
隣でドンちゃん騒ぎをしていた若い子達のグループと混じってしまった。
もう一緒に騒いで、まるっきり仲間内だ。

 

そのうち、その若い子の一人が「ジャンケンをしましょう。」と言い出した。
勝負事はからっきし弱いくせに、嫌いなほうではないので、
「よしよし、やってやろうか」と、立ち上がって
ジャンケンをする事になった。

 

最初は、お互いの酒のつまみのウィンナを1本賭けてジャンケンをしていたが、
当たり前のようにエスカレートしていく。
それでもお互いに懐はさびしく、金はなかったので、
現金が飛び交うようなことはなかった。
しかし、ウィンナがお互いの缶ビールになったりしていって
そこまでは私も順調で、ウィンナやビールを若い子たちから巻き上げていた。
ついには、
お互いが着ているシャツや、バンドまでがジャンケンの賞品になってきた。
その辺から、私の勝負運が尽きてきて、負けが込んで
いつまにか、シャツ、腕時計(超安物)、ズボンのバンド、ズボン、
ほとんどお金の入っていない財布、靴と、
次々に負けて取られてしまった。

 

向こうの子も、そんな物をもらってもしょうがないので、
私がほとんどパンツ一丁になった時点で、
「もうやめましょう。シャツもズボンも全部返します。」と、笑う。
すでにべろんべろんに酔っ払っていた私は、
それが気に入らなかった。

 

「ばかやろう。男が勝負して取られたもんだ。
何でおめえみたいな若造に、お情けで返してもらわないかんのだ。
ばかにすんじゃねえよ。ばかやろう。」
とタンカをきった。
これが向こうの若い子にカチンと来たらしい。
特に言葉の両端に「バカヤロウ」が二回もついたのが腹が立ったらしい。

 

「ああ、俺だってこんな薄汚ねえのなんかいらねえから、
あんたがいらねえんだったら、捨てるさ。」
と、私の服やらなんやらを全部近くの池に捨ててしまった。
ただ酔っ払いの私は、それを唖然として見ているしかなかった。

 

まだ四月になったばかりの頃、
夜はけっこう寒い。パンツ一丁では、
いくら酒を飲んで酔っ払っていても、冷えてきている。
池に入っていって、
自分のズボンやら、靴やら、シャツを取りに行くのはつらい。
あまり憶えていないが、
一緒に行ったスタッフに少しだけ服を借りて、泣く泣く帰った。
どうやって帰ったのかは憶えていない。

 

ただ、家に帰ったら、連れ合いが泣いて怒ったことは憶えている。

 

酒は楽しい。飲んで騒ぐのは最高に楽しい。
酒は男の勲章、男は酒を飲んで何ぼである。
男は酒飲んでバカ騒ぎするごとに大人になっていく。
なのである。?

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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