谷 好通コラム

2012年07月27日(金曜日)

トップダウンの功罪 その1

ひとつの経営スタイルとして
「トップダウン」型がある。
経営のトップ、社長・オーナーが一方的に命令を出して、
以下の経営陣を含めてすべての社員がその命令を忠実に実行していき、
すべての段階での「判断」をトップが行い、
その判断でまた新たな命令が発せられる。独断型の経営スタイルだ。

 

一時は世界一の総資産額を誇った西武グループの
昔、総帥であった「堤義明氏」がその例によく上げられる。
彼の言葉で有名なのが、
「君たちは考えなくていい、物事の判断はすべて私が行う」あるいは、
「頭のいい奴は要らない。考えることは全部私がする。」とも。
すべてトップが自分で判断して、命令し、
部下は、その命令を如何に忠実に実行するかだけであって、
とにかくしゃにむに働けということだろう。
そして、彼の言葉で言うならば、
「土日位きちんと休ませろという諸君は、うちの会社には要りません。」
ということだ。

 

このスタイルの会社は概して強い。
物事についての判断が早いし、
その判断が行動に移されるのも早い。
また一人の頭脳が考え判断するので、
その考えと判断に一貫性があって、ほとんどブレがない。

 

そして、一人の人間が発した言葉は、一貫性があるので分かりやすい。
社員の全員が同じ方向性を持って仕事に向かうことになる。
全員が一致して同じ方向性を持つとその会社の力は恐ろしいほど強くなる。
10人の人間がいて、それぞれ10の力を持っていたとすると、
10人とも同じ方向性にその力を発揮すると、
つまり同じ”ベクトル”を持つと、
10人×10=100のベクトルとなって突き進むわけだ。

 

ところが、
反対の方向性のベクトルを持つ人間が2人混じっていると、
その2人の反対方向の負のベクトルを帳消しにする為に、
2人分の正のベクトルを消費する事になって、
全体の正のベクトルは6の力に減ってしまう。
(6人×10) + (2人×-10) + (2人×10)=60
つまり、
2割の人間が反対方向にベクトルを持って力を使うと、
組織全体としては6割の力に激減してしまうという意味だ。

 

これは私も実感として良く解る。
全員が同じ方向に力を合わせてくれれば簡単に済んだ仕事も、
一部の人間が反対の方向にベクトルを持ってしまったばかりに、
無駄としか言いようのない力を使うことになって、苦労したことがある。
トップダウンで、いっせいに「右向け右っ」で号令を掛けてしまった方が
よっぽど楽だと思うこともある。

 

「まったく上の考えていることは、さっぱり判らないな。
自分の思ったように勝手にやってしまおう。」
などという言葉は、
堤義明氏が総帥であった頃の西武グループでは聞こえなかっただろう。

 

強いトップダウンの有効性は確かに有る。
しかし、その堤義明氏は、
「B型だけ厚遇にする。A型はどんなに仕事をしても冷遇する」
「A型は安く使うだけ使って捨てればいい。日本社会はB型が優遇されるべきだ。」
などと、意味不明のことも言っている。
堤義明氏はB型だったらしい。
私はA型だ。堤氏に言わせると私は捨てるべき人間のようだ。

 

かように、トップダウンの効能はあったとしても、
トップの考え方や価値観が、
いつも、すべて正しいということは絶対にない訳であり、
間違った考え方や行為がトップダウンで多くの人を動かせば、
大きな間違いを生み出すこともある。

 

堤氏は、西武グループの中で絶対権力を欲しいがままにし、
政界、財界に大きな人脈を持っていたが、
どこでどう間違ったのか、
インサイダー疑惑の主役として、
執行猶予付き懲役2年半の有罪判決を受けて確定している。

 

今はその名前を聞くことも滅多になくなっている。

 

トップダウンの権化のように言われた堤氏は、
その結果として、正しくはなかったようだ。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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