谷 好通コラム

2012年02月05日(日曜日)

2969.「先に、窓側の席のお客様をご案内します」

ただいま札幌千歳空港へ飛ぶ飛行機の中、
中部空港で「なるほど!」と思うことを聞いた。

 

JAL機に搭乗前のアナウンスで、
本日は満席の御予約をいただいておりますので、
ご搭乗の際の混雑を避けるため、
“先に窓側の席をお持ちの方をご案内します。これは初めて聞いたアナウンスで、
「なるほど、これはいいっ!と思った。

 

中部空港発着の国内線は、
通路が1本だけの比較的小型の飛行機が多く、
飛行機が満席かそれに近い時、
荷物を上の棚にしまう人や、
奥の窓側の席の人を入れるために、
先に座っていた通路側の席の人が一度座り直すなどして、
つっかえて搭乗に時間がかかる場合が多い。

 

今までは「後方席の方からご案内します。」が普通だったが、
私の経験上からも、たしかに窓側の客を先に乗せた方が絶対に早い。
間違いなく「窓側の席の乗客から先に機内に案内する」のは正解である。

 

私は、月に何度も飛行機に乗り、
ほとんどの場合「窓側の席」に座る。
1万m上空からの景色はその時によって変幻自在に変わるので、
楽しみで仕方がないから、窓側に座る。
増田君のように「飛行機や新幹線に乗ったら1分以内には“寝てしまう”」なんて、
もったいないことはしない。
それでも、機内が混雑しているだろうなと思う季節・曜日・時間の便では、
窓側ではなく、通路側の席を取ることがある。
窓側席に座る時に、先に通路側や真ん中の席の人が座っていると、
その人に一度立っていただかないと、窓側の席には座れない。
それに私は席に座る時必ずカバンの中からPCを引っ張り出すので、
余計に時間がかかってしまい、
後ろの人に迷惑がかかるので、あえて通路側席を取ることが多い。

 

だから窓側の席を持っている乗客を先に機内に乗せると大変効率的になる。
実感としてそう思う。
後方席の乗客を先に乗せるのは、
一見、理にかなっているようで意外とそうではないのは、
実体験を繰り返しているとよく分かるはずだ。

 

今日は満席のJAL機であるが、
たまたま私は窓側後方の席を取っていたので、
「先に、“窓側の席”をお持ちの方をご案内します。」のアナウンスで、機内に先に入り、
非常にスムーズに席に座ることができた。

 

これはいいなと思って、男性の客室乗務員(CA)に
私「この窓側からというのはいつからやっているのですか?」
CA「はい、最近からです。」
私「これは、グッドですね。」
男性CAは、すごく嬉しそうな表情で
「ありがとうございます。」
その感じから思っただけでしかないが、これは上位下達の指示というより、
社員スタッフからのアイデアで、みんなのコンセンサスを得た決定であろう。

 

私は「これは、JALは復活するぞ。」と、非常に嬉しく思った。

 

※ここから札幌のホテルで続きを書く。

 

 

もう十数年前になるだろうか。
昔のことである。
JAL日本航空がJAS日本エアラインを吸収合併する以前のことで、
私はJALの飛行機に乗ってどこかに飛んだ後、
着陸して飛行機から降りる時のことだ。
この時の飛行機はB-767-300、二百数十人乗りの中型機である。
観光客らしき初老のオジサンが、女性の客室乗務員(CA)に話しかけた。
オジサン「この飛行機は大っきいね。こんな大っきな飛行だと安心だね。」
CA「はい、ありがとうございます。」
続けて小さい声でCA「でも、これが一番小さい機体なんですよけど。

 

この頃、JALは名実共に日本を代表する航空会社で、
バブル真っ盛りでもあり、航空旅客は増加する一方の時代だった。
巨艦巨砲主義のように、最新鋭かつ世界最大のB-747-400をずらっと並べていた。
3クラスで350人以上、エコノミーのみのモノクラスならば500人近い大型機だ。
他にはDC-10、などの準大型機ばかりで、
たしかにこの時の飛行機、中型のボーイング767-300はJALの中では一番小さかった。
とにかく当時のJALは大型機ばかりであったのだ。

 

だから、
せっかくおじさんが大きい飛行機だから良かったと喜んでくれたのに、
この飛行機は一番小さい飛行機だと言い、
つまらないプライドを出して、オジサンを少しの意味もなくがっかりさせた。
あの頃のJALは、「誇り」と「驕り」をごちゃ混ぜにしていたのではないだろうか。

 

だからJALは、
バブル以後の時代の変化に、まさに恐竜のごとく、適応できなかった。
低迷する景気の中での激しい競争の時代になって、
航空業界も大量輸送から少量多目的地輸送の時代になっても、
ボーイング747-400「ジャンボ」を大量に持っていたJALは、
大きな旅客数を見込めない路線にまでジャンボを運行させるしかなく、
ガラガラのジャンボを飛ばし続けた。
ただでさえプライドのカタマリであり、
とんでもなく高い給料取りであったJALスタッフが、
ガラガラのジャンボを飛びし続けたのだから、黒字など出るはずがなく、
国策会社でありながら、不沈戦艦のごとく絶対に潰れないと言われながら、
いとも簡単に倒産した。

 

あれから何年経ったのか、
没落した貴族のように、
JAL国際線の花形であったスチュワーデスさんが、
ほんの1時間の国内線でけなげに超一流の笑顔と接客をしている姿に感動して、
しばらくの間、JALをひいきにしていたが、
JALの路線がどんどん減って不便になったので、
自然にANAを多用するようになっていた。

 

すでにJALにジャンボは一機も残っていない。
すべて売却された。

 

頭の固い年寄りから
若い柔軟な社員が力をつけてきていたのだろう。
過去にはANAの後追いしか出来なかったJALが、
預けた小荷物を出口でタグの照合していたのをを、JALがANAに先行して撤廃した。

 

小荷物のタグの照合回収は、
世界中で日本の国内線だけがやっていたのではないだろうか。
私が見たことがないだけなのかもしれないが、
無駄で意味のない行為であった。
それをJALがANAと一緒にやったのではなく、
ANAに先んじて撤廃したのは「おっ、JALもやるじゃん」と好感を持っていた。

 

今回の「先に、窓側の席をお持ちの方をご案内します」は、
いまだに巨大な図体のJALが、
倒産を経て、やっと身軽になってきたのかといよいよ思わせた出来事であった。

 

またJALをひいきにしてしまいそうな予感がする。

 

 

乗客を見送る男性CA。
この飛行機のCAはもちろん女性のCAも含めて、
フレッシュさを感じさせる素晴らしい接客であった。

 

 

特に今日のフライトは、
メリハリが着いた気持ちのいい操縦であり素晴らしかった。
千回飛行機に乗っている者として、本当にそう思った。

 

 

しかし、この飛行機は「JAL本体」ではなく、
子会社の「JAL EXPRESS」であった。
若々しい変化は、末端から始まるものなのか。
しかしいずれは巨大な本体にまで必ず伝播するはずだ。
若い者や小さなものから学べるだけの謙虚さがJAL本体にあればだが。

 

 

JAL機は十数年前に行なったCIで
尾翼全体が日の丸を象徴的にデザインしたものであったが、
日本らしい謙虚さと品を感じさせず、私は好きではなかったのだが、
元の丹頂鶴をモチーフとしたこの尾翼のマークにJAL全機が変わるらしい。
私はこちらのほうが好きだ。
日本らしい品がある。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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