谷 好通コラム

2011年10月20日(木曜日)

2896.10万匹もの蟹が大集団で脱皮する訳

先日、NHKのBSだと思いますが、
たまたまとても感動的な自然記録の映像を見ました。

 

 

オーストラリアのメルボルンに近い海で、6月、
満月の二日前から10万匹に及ぶ『蟹』の大集団が出来る現象があるのだそうです。
「グレート・スパイダー・クラブ」というクモガニの一種で、
日本の固有種であり世界最大のカニ「タカアシガニ」に近い種類。
しかしグレート・スパイダー・クラブは体長20cm程度の
名前の割にはそれほど大きな蟹ではありません。
一見して花咲ガニか、足の短いズワイガニ(越前ガニ又は松葉ガニ)みたいな蟹です。

 

普段は深海に棲んでいるのですが、
この時期になると、深海からぞろぞろと浅瀬に向かって歩いてきて、
はじめは何百匹単位の小集団だったのが、
それがある地域に集結して、
1m、2mと折り重なって群がり、なんと10万匹もの大集団になるのだそうです。

 

普段、バラバラで暮らしていた動物が集団を作る場合、
すぐに思いつくのが「繁殖のため」で、
広い海原で異性を探すよりも、
みんなで集まってしまえば集団見合い(今で言えば合コンかな)状態で、
繁殖が効率よく出来る効果がありますが、
しかし、このグレート・スパイダー・クラブの場合は違うようでした。

 

(NHKのホームページより)

 

 

『集団脱皮』のために集まっているのです。

 

カニは硬い甲羅で身を守っていますが、
その硬さゆえに、大きくなろうにも硬い甲羅が邪魔で体が大きくなれません。
だから、甲羅の中で成長して、甲羅の中で圧力が上がり、
ある程度の圧力になると、甲羅を脱いで、二回り大きな体に膨らんで出てきます。
その時にはすでに次の甲羅が新しい体の表面に用意されているのですが、
まだ硬くはありません。

 

脱皮後は体全体がブヨブヨと肉と同じ様に軟らかい状態で、
甲羅のまま食べてしまうことすら出来ます。
一般にも「ソフトシェルクラブ」と呼ばれて、
「渡り蟹のソフトシェル」は「から揚げ」が中華料理屋さんなどで食べられます。
フランス料理やイタリア料理でも見たことがあります。
私はベトナム料理屋で一度だけ食べたことがありましたが、
とても美味しかったことを憶えています。

 

脱皮した直後の蟹は甲羅ごと食べられてとても美味しいのです。
それは自然界の中でも同じようなことで、
脱皮後の蟹は硬い殻がブヨブヨで、何の防御も出来ない状態なので、
あらゆる動物の餌食になる存在なのです。
小魚すらつついて蟹を食べている様子は哀れさを感じさせます。

 

甲羅が硬くなるには一週間ほど掛かるとテレビで言っていました。
蟹にとってはとても危険な時期と言えるでしょう。
特に脱皮直後の何時間かは、まともに動くことも出来ず、
自ら逃げることすら出来ない「エサ」そのものです。
グレート・スパイダー・クラブは、
その危険な脱皮を10万匹規模の大集団で一斉に行なうのです。

 

ブヨブヨのエサ状態の弱い蟹は、もともと天敵のエイに食われるのはもちろん、
オットセイや、海鳥、魚やヒトデにすら食われます。
まさに「カニ食べ放題」状態です。

 

しかし、小さな地域に集まっていれば
いくら敵が集まってきたとしても、
その地域にいるだけの敵の数であり、
大集団になっている蟹は、決して食べつくされることはありません。

 

これが、広い地域に散らばって脱皮すれば、
広い地域にいる多くの敵に、個別に攻撃され、
生き残る確率はむしろ減るのです。
大集団を作るのは、脆弱になる脱皮時に生き残る確率をむしろ上げるためなのです。

 

弱い魚の代表である「鰯」は、
いつも大集団を作っています。
何万匹もの鰯を、
何匹かのマグロやカツオ、カジキなど襲っても、
食われる鰯は、何万分の何百匹の確率であり、
個別に食われる確率よりもうんと少ないわけで、
自分より大きな肉食動物に食われる運命の弱い動物は、
イカとか、秋刀魚とか、ニシンとか、
大集団を作って生活しているものが多いのはそんな理由です。

 

「個は死んでも、群れとしては生きる」そんな生き方の姿なのでしょう。

 

しかし、ならば、
わざわざ敵の多い浅瀬なんかに集らず、
敵の少ない深海に集まれば良さそうものですが、
それにはちゃんとした理由がありました。
この蟹は、脱皮に「潮の流れ」を利用しているのです。

 

脱皮中に、脱皮しきれず死んでしまう蟹も多いくらい、脱皮は大変な作業で、
この蟹は自力だけではなく、海水の流れを利用して脱皮をするのです。
そのために潮の流れの速い浅瀬に来て、
しかも潮の流れが最も速くなる干満差の大きい「大潮」の時期、
つまり「満月」に集まってくるのだそうです。

 

集まってきた蟹は、
満月で浅瀬の海が明るくなってくると、
自分の飛び出している目玉がかゆくなってくるのか
自分のハサミで、目玉をコチョコチョと触りだします。
すると、それが刺激になって、脱皮ホルモンが出るのだそうです
それが大集団を作っている蟹が、
大潮の海水の流れが速い時期に、一斉に脱皮を始めるメカニズムみたいです。
じつに面白いですね。本当に面白いですね。
私は感動してしまいました。

 

(NHKのホームページより)
※硬い殻から出てきた新しい体は二回りも大きい体です。

 

 

脱皮は、硬い殻で体を守っているカニが、成長するためには避けられない宿命です。
「会社」というものにおいても、
成長が一つの宿命ならば、
硬い殻のまま成長する事は出来ません。
一回りも、二回りも、大きくなる時、
殻の内側で成長しようとする圧力を閉じ込めているのが「硬い殻」ならば、
その「殻」を脱ぎ捨てて、内なる成長の圧力を開放し、
内なる力が持っている大きなスケールで
新たな殻を形成しなければならないのでしょう。

 

先日、NHKでグレート・スパイダー・クラブの脱皮の記録映像を見て、
そんなことを思いました。

 

今日は福島県会津磐梯で、
第10回キーパープロショップ研修会の第一回目を開きました。
テーマは、知らぬまに自ら作ってしまっている「予断」と「思いこみ」という
「硬い殻」を自ら脱ぎ捨てることです。
持っていて当然と思っていた硬い殻を破ると、
とんでもないスケールの自分があったことを発見した
素晴らしい人たちのことでもあります。

 

※江戸屋燃料の社長が来ていただいていたので、
少し話をしていただきました。

 

 

長い長いロードのスタートです。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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