谷 好通コラム

2011年02月18日(金曜日)

2724.上海にて「90%が帰ってきてくれたよ」

中国での問題は、やはりコストの問題だ。
前話にあるように綿花の暴騰と人件費の急上昇で、
コスト的にかなり厳しい状況であり、
日本側としても現実的な対応を余儀なくされる方向だ。
中国からの仕入値段は、
円高ドル安(ドル決済だから)の恩恵と、
企業内努力をはるかに超した上昇となり、
日本国内での製品価格アップも、これ以降、避けられない情勢である。

 

もう一つ困ったことがある。
労働者が集まらないというのだ。

 

今までは内陸部に住んでいた労働者が、億人単位で
上海、大連、青島、広州、北京などの沿岸部の工業大都市に出稼ぎに来て、
住み込んで安い賃金で働いていた。
「大量の安い給料の労働者」
それが世界の工場と言われる中国の原動力である。

 

しかし中国での生産量が増えてくると、
圧倒的に多かった労働者の数にも限界があって、
どの工場でも安い労働力が欲しいが、
数を揃えるためには、ある程度給料を上げなければならなくなってきた。

 

中国の労働者はとてもクールで、
今働いている職場の給料よりも高い給料で他の会社から誘われたら、
簡単に変わってしまう傾向がある。
しかも、まとまった人数で移動してしまうので、
「ある日、会社の経営者が工場に出てきてみたら半分の労働者がいなかった。」
などと言う話も普通にあるという。
高い給料を出せば簡単に労働者を集めることが出来るが、
反対に、今より高い給料で他からお誘いが入れば簡単に引き抜かれてしまう。
そんな感じで、慢性的な人手不足と、
沿岸部大都市の工場での労働者賃金が釣り上がってきているようだ。

 

 

そうなると上海、広州など沿岸の大都市に工場を持っていても、
中国での「大量の賃金の安い労働者がいる」というメリットが減ってくる。
ならば、ということで、
企業は、まだ賃金が高くなっていない「内陸部」の都市に工場を造り始めた。

 

今までは、内陸部には工場などの働き口が少なかったから
沿岸部に出稼ぎに来ていた労働者たちは、
彼らが住んでいる近くに工場を造られれば、喜んでそこで働くので、
今度は、内陸部に「大量の安い賃金の労働者」のメリットが発生する。
すると、
内陸部に工場がどんどん出来始め、
働き口が内陸部に次々と出来て、
出稼ぎに来ていた労働者が、内陸部の自分の家に帰って来るようになった。
つまり徐々に出稼ぎに出なくなってくる。
特に、若い労働者は、出来れば”親元”に住みたい、親も子供を”手元”に置いておきたい。

 

数が少なくなっていく労働者を、
沿岸部大都市の会社が自工場にとどめるには、
内陸部よりかなり高い給料を出さざるを得ず、ますます給料が上がっていく。
それでも人手不足は解消されない。

 

 

先日、日本のテレビニュースで言っていた。
中国沿岸部に工場を持つ日本企業が、
去年の「春節(旧暦の正月)」で故郷に帰った労働者が、
半分以上も故郷から工場に帰って来ず、大変困った。
そこで、今年の春節は、
故郷の親に土産を持たせたり、
無事に工場に帰ってきたら「賞金」を出したり、
プレゼントを出したりする施策を打って、
「今年は何とかほとんどの労働者が帰ってきた」とニコニコしている映像が映っていた。
もちろん土産も賞金もプレゼントもコストとなって跳ね返ってくる。

 

中国は共産主義の国である。
共産主義とは、人民、つまり労働者が主役である体制だ。
「経済の開放」によって、実際の経済は資本主義と見分けがつかなくなり、
お役人の汚職や腐敗が揶揄されていても、
国の主役はやはり人民であることには違いない。
そんな国の中で、
経済開放によって大儲けした経営者たちは、
中国の「大量の賃金の安い労働者」のおかげで国際競争力を得、成功したのに、
その成功が、あたかも自分の能力だけで成功したように、
贅沢をして、それを自慢し、労働者たちに威張る。
「大量の安い労働者」は、それを見て強い反発を感じる。

 

中国は、国民の投票で直接議員を選ぶ、いわゆる民主的な選挙がないので、
その反発を投票という形で表現することが出来ない。
だから「暴動」という形で噴出することになるのだが、
中国では反政府的な活動、特に暴動は厳しく禁じられ、過酷に処罰されるので、
「反日」の抗議の形を取ることが多いとニュースで聞いたことがある。

 

「大量の安い賃金の労働者」が持つ「威張って贅沢三昧の金持ちに対する反発」が、
暴動にエスカレートすることを政府は極端に恐れているとも聞いた。
だから、労働者たちの賃金が加速度的に上がっていく現象を抑止しないし、できない。
それら加えて、沿岸部の大都市周辺の工場においては、深刻な人手不足。

 

その循環が今後、結果として
中国の「大量の安い賃金の労働者」という最大のメリットを
加速度的に減殺して行くのではないか。

 

今、上海では、
材料原価の暴騰と、
人件費の加速的な上昇に加えて、
“人手不足”に悩まされ始めている。

 

中国の製造業は「大量の安い賃金の労働力」が前提であるので、
工場の機械化よりも「人数」でこなすほうがコストが安い構造になっている。
だから多くの工場で機械化は進んでいず、
人手が集まらなくなってきていることで、
生産量そのものが制限されてきているのは、深刻な問題である。

 

中国の持っている「大量の賃金の安い労働力」のメリットが、
大きく崩れ始めていることを感じた。
これが一時的なものではないことはたしかだ。

 

しかし、ひょっとしたら、
これが内需の増大の循環であって、
中国の経済構造の進歩に繋がるものなのかもしれない。
あるいは、ひょっとしたら、崩壊に繋がるものかもしれない。
現在の中国での不動産バブルが膨らみきっている危険とあいまって、
いずれにしても、いずれは、ただで済まなくなる状況にあるのではないだろうか。

 

エントロピーの法則の一過程かもしれない。

 

中国、上海のタオル工場のタオさんに聞いた。
「工場スタッフの皆さんは、春節のあと、ちゃんと帰ってきましたか?」
「大丈夫、90%が帰ってきてくれたよ。」
と、嬉しそうな顔が印象的であった。

 

 

上海万博のあと、すごくきれいになった上海の街

 

 

一昨日の昼中部を出発して、昨日の12時、飛行機で上海から帰る飛行機に乗る。
ちょうど20時間の上海滞在であった。

 

 

経済絶好調、上海の浦東空港を離発着する飛行機は頻繁だ。

 

 

今日は、朝10時の飛行機で「福岡」にやってきた。
日本の空は気持ちがいい。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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