谷 好通コラム

2010年08月18日(水曜日)

2587.八月十五日終戦の日の新聞記事

8月15日は戦争が終わった日。
終戦記念日なのか、
敗戦記念日なのかという議論があるが、
この日の意味は、
戦争に負けたか勝ったかとは関係なく、
不幸な戦争が終わったことだ。

 

戦争の始まりは、経済とか権力、宗教など色々な要素が重なって起きるのだろうから、
一括しては何とも言えないが、
戦争が、誰一人として幸せにすることなく、
すべてのあらゆる人を不幸にすることだけは間違いない。
戦争で金儲けをする人すらも同じく不幸なのは、
泥棒が盗んだ金で幸せになった試しがないことと同じだ。

 

 

戦争が不幸なのは、
戦う人が被害者と同時に加害者でもあり重なり合って存在しているところだと思う。
戦う人すべてがお互いに「殺さなければ、殺されるから、殺す。」であり、
自分が相手を殺すという加害者になる理由は、
自分が相手に殺されるかもしれないという被害者であることが前提になっている。

 

いつも自分の中に「絶望的な被害者」としての意識の上に、
だから「容赦なき加害者」になる「鬼」がいるということだ。

 

敵を殺す「鬼」になるのは、
敵という「鬼」が自分を殺すかもしれないからであるが、
しかし自分が「鬼」になった時点で、
たとえ相手が自分を殺すはずがない人間であっても、
「鬼」になっている自分は、
平気でその人間を殺すことが出来るまでの「鬼」になってしまうところが
戦争の本当の恐ろしさのような気がする。

 

 

平和な時であれば、普通の市民である当たり前の人間でも、
自分を殺す「鬼」すなわち敵のいる戦場において、
誰でもが自分が「鬼」になって、
殺すべき敵ではなくても殺せる「鬼」になるのだ。

 

自分の戦争体験を話す人のほとんどが
自分がどんなに惨くつらい経験をしたか、むごい場面を見てきたかを話し、
その悲惨な被害体験は多くの人の共感を呼ぶ。

 

しかし、
8月15日の朝日新聞朝刊にあった記事はその反対であった。
中国のある戦場に元々住んでいた平和な住民と自分を含む日本軍の鬼の話だった。
愛すべき自分の赤子を守るために、
鬼からの残酷な陵辱を受けてもなお生き、
なのにその挙句、うるさいというだけで、鬼に子供を崖に投げ落とされ、殺され、
すぐに後を追って崖に身を投じた母親の無残な話を、
自分が戦場において、自分も鬼の中に鬼として存在した体験の話であった。

 

とうてい考えられないような残酷な仕打ちをした「鬼」の中に自分もいて、
その中で、自分も「鬼」であったことを告白している。

 

その体験、加害者の一人であったことを告白しても
自分が非難される可能性はあっても、
自分にとって何の利益があるわけでもないのに、
自分という普通の人間が、鬼になってしまう恐ろしさ。
その戦争の本当の恐ろしさを伝えることだけを目的に、
話をし続けているという。

 

私はその人を本当の意味で勇気のある人だと思った。
普通の人である自分が鬼になったことを伝えることで、
本当の意味で戦争の恐ろしさを伝え、本当の意味で戦争を憎み、
本当の意味で平和を願う無私の人だと思った。

 

戦争の恐ろしさは被害の大きさと残酷さであることは間違いないが、
もっと恐ろしいことは、
普通の人、ただの人、その誰もがその残酷な仕業をなせる「鬼」になってしまうこと、
それが本当の戦争の恐ろしさなのだなと思った。

 

被害を受けたくないから加害者になる。
それは平和な世界でも日常的にあることで、
そのことが、実は、戦争の「根」なのかもしれない。

 

「鬼」は私の中にもいる。
確かに私の中にも「鬼」はいる。
誰の中にも必ず「鬼」はいる。
もしその鬼が、いつ自分も殺されるかも知れないような極限の中にあったら、
私の中の「鬼」も、本当に「鬼」のような残酷なことをするかもしれない。

 

八月十五日、終戦の日。
戦争は決して過去のものでもなければ、他人事でもなく、
戦争は、自らの中に確かにいる「鬼」が引き起こすのであろうことを、
身の毛がよだつ思いで、理解できた。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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