谷 好通コラム

2010年06月08日(火曜日)

2521.芦ノ湖から月夜に浮かんだ富士山を見た人

今日の朝、新幹線はA席に座った。
この天気では反対側に座っても富士山が見えないと思ったからだ。
横浜の日帰り出張である。

 

昨日、グァムから中部空港に帰る飛行機が朝早かったので、
現地時間の朝4時半、日本時間の朝3時半に起きた。
それでもそんなに眠くなかったのは、
前の日に信じられない程長時間寝たからだろう。
全部で15時間くらい寝ただろうか。
銃を撃ちにいく時間と、前話を書いている時間、夜飲んだ時間以外はすべて寝た。
「寝貯め」は出来ないものだと思っていたがそうでもないらしく、
いくら寝てもまだ眠く、目を閉じさえすれば眠れたのだった。
だから昨日の朝、
午前4時半にすんなり起きられたのだろうが、
中部空港から大府の本社に帰ってから、
妙に疲れを感じて、ほんの少しだけ仕事をして帰ってしまった。
無性に家に帰りたかったのだ。

 

一緒にグァムから帰ってきたスタッフ達の中には、
中部空港からまた東京や大阪に車で走って帰る人や、すぐに仕事にかかる人やら色々で、
自分は遊びから帰って来ただけなのに、
真っ先に帰ってしまうのは後ろめたい気持ちもあったが、家に帰りたかった。
正確に言えば、グァムにいた時から「家に帰りたい」と思っていた。

 

疲れてはいない。
だから、今日も朝早くまず東京に出かけたので、
午前5時半には起きた。それでも辛くはなかった。
だから疲れてはいないのだ。

 

 

そういえば、
上海などの中国や、ロス アンジェルスに通っていた頃、
海外に行くのはむしろ楽しみでもあったが、
ある時期、中国やロスのホテルに一人で泊まっている時、
無性に家に帰りたい気持ちになって
「ああ、うちに帰りたい。・・・・・ 帰りたい。」とベッドでつぶやいた事がある。
たまらなく孤独を感じたのだ。

 

あれは何だったのか。

 

中国とアメリカでの仕事は、
かなり力を入れ一生懸命やったのだが、
結果的には実を結ぶまでには至らず、思ったようには行かなかった。
だからそう感じたのだろうか。
出張先のホテルで一人言葉が通じない孤独だったのだろうか。
自分の身の回りのことを全部自分でやらなければならない孤独だったのだろうか。
自分の精一杯の努力が通じない孤独だったのだろうか。
たぶん、その全部が当たっているのだろう。

 

異国で言葉が通じず、仕事に限界を感じて、孤独を感じ、
普段やっていない自分の身の回りの世話をやらねばならない煩わしさに、
「ああ、うちへ帰りたい・・・」となったのだろう。

 

ならば、今回はなぜ、日本に帰ってから同じような気持ちが湧いたのだろうか。
よく分からない。

 

社員が増えて、お会いする人も増えて、縁を持つ人が多くなっても、
孤独を感じることがある。
気のせいかもしれないが。

 

会社というものは、それまでと違う次元に入って行く時、
新しい出会いがあると同時に、別れも起きて、
構成する人がある程度入れ替わる現象があると本で読んだことがある。
そんな時期が来ていたのか、何人かの人と縁が切れていった場面もあった。
むしろそんなことが因になっているのかもしれない。

 

 

かなり昔のことだが、
とても笑顔がきれいな人がいて、
その人がこんなことを言っていたことを思い出した。

 

「満月の晴れた夜、静岡から車で横浜に帰ることがあって、
時間もあったから、ついでだから箱根の峠を通って帰ったんですよ。
そうしたら、芦ノ湖付近で満月の明かりにボォーっと、
富士山が浮かび上がって見えたんだ。
鳥肌立つような美しさだった。谷さんも一度ぜひ見てみるといいよ。」

 

もう忘れかけていたその話を思い出させられたことがあって、
その人が長く信頼していた人との別れで、その人が感じただろう深い孤独感を想い、
新幹線の中で泣けてしまった。

 

人が一番つらいのは孤独なのだろう。
私はもちろん孤独ではない。
いつもは全く孤独どころか、たくさんの人との縁でとても幸せを感じる。
それでも、人はいつか死ぬ時が来て、
私も必ず死ぬ時がきて、
死ぬこと自体は怖いとは思わないが、
しかし、ひょっとして、死が永遠の孤独の世界であったら、
それはつらいなぁ。と思った。

 

帰りの新幹線、
そんなことを考えながら窓の外を見ていたら、
こんなに雲が多いのに、富士山の山腹が見えた。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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