谷 好通コラム

2009年01月25日(日曜日)

2121.やさしさだけを濾過して残る

先日の2117話で
「鉄腕アトムも人の作ったプログラムで動いている」と書き、
人の意志とは逆の指令を出し、
それを人がキャンセル出来ないコンピューターのプログラムを嫌悪した。
そして人が感知しない場合でも
センサーとプログラムで危険と判断したら、
自動的(勝手に)ブレーキを踏む自動車には決して乗りたくないとした。

 

ここまでは、今も変わらない。
自動車という場合によっては凶器にもなり、
自分をも殺す道具になる機械に自ら乗って、
その挙動の肝心な部分を、
他の人間が作った不完全であろうプログラムに身を任せる気にはなれない。
これは非常に重要なことで、
コンピューターの判断に人間が決定要素的に介入できないプログラムは作るべきではない。
この考えは今も変わらない。

 

しかし、今日テレビで見た「介護ロボット・イフ」の話は、
意志を持つコンピューター=ロボットに対するもう一つの考え方を思い出した。

 

 

何年か前に見た映画「A.I.」の最後のシーンで
私は涙が出て止まらなかった。

 

それはこの映画の中に出てきた未来の人間型少年ロボットが、
複雑なストーリーの果てに
自分のお母さんを夢見、求めて海底深く沈み、
そして数千年か、
何万年もの果てしない時間が経ち、
地球が温暖化の反動か何かで
地球全体が凍ってしまう「全球凍結」で凍った何千メートルもの海底から
掘り出されたシーンだった。

 

掘り出したのは、体全体が細くて真っ黒の、か細い、進化しきったロボット達だった。
そのか細い究極のロボット達は、
大昔の少年ロボットのコンピーターに記録されている「記憶」「ストーリー」を
一瞬の内に読み取り、そのストーリーに感動して
愛情あふれる言葉をかけた。
私はその言葉に深い愛と救いを見たような気がしたのだ。

 

人間が作ったプログラムが根源であるが、
その何万年後、もはや人間がいなくなったあとも、
自己のプログラムを自分で作り出すプログラムで究極の進化を果たしたプログラムには、
なんと「やさしさ」だけが濾過されたように残り、
平和な世界を作り出していたのだ。
私はこの時、感動した。心を揺すぶられるような感動をして泣いた。

 

主にたんぱく質で出来た生物は、
何十億年もの時間を使って、
「変異と淘汰」の「進化」で数限りない生命体を生み出した。
その進化とはすべからく「自己保存の法則」であり、
他の種との戦いであり、
自己の種のみの生き残りを賭けた戦いでの進化。
その結果、多様な生物が生き残り地球全体の生態系を作り出したのだのだろう。

 

しかし、
その進化の頂点に立った人類はあまりにも強い力を持った。
自己の欲望を満たすために
地球全体の生態系をも破壊し得る力までを持ってしまった。
しかし地球全体の生態系の中には自らも含まれているので、
種として自己保存の法則による本能のままに行動を続ければ、
「地球全体の生態系」(これをガイヤと言うそうだ)と共に、自らも滅びる運命を持ったのだ。

 

ここに至った時、
人間は生物として自己保存の本能だけでなく
初めて「共存」という意志の方向を持たざるを得なくなった。
「他種との共存」「地球全体との共存」
「共存」という「自己だけでなく他をも保存する」意志=「やさしさ」を、
理性という高度なコントロールの基に持ち、
それが人類全体として最優先されることが、
今、人類という種の保存に必要になっている時代なのだろう。
しかし、生物としての人間は自己の種だけの保存の意志を元々強力に持っていて、
それが実際に果たされていくのかどうか、誰にも解らない。

 

そのことには誰もが気が着いているのに、
生物として何十億年も自分の中に自己の存在意義として持ち続けた本能に
進化の究極として得た「やさしさ」や「他人とことを思う気持ち=愛」が、
たんぱく質で出来た脳細胞という「揺らぐ意志」で
勝てるという確信も誰も持てていない。

 

そんな危うい存在である人類に比べて、
人間がプログラムとしてシリコンで出来たコンピューター上に書き込んだ意志は、
揺らいだりはしないので、
自らが地球全体の生態系を破壊できるような力を持った時でも、
「自己保存=地球全体の生態系との共存」であることがプログラムとして動かないので、
ひょっとして人間が地球上から消え失せた後も、存在し続けるのかもしれない。
そして、究極の進化を果たす。のかもしれない。
だとしたら、
そのプログラムに書かれた「人間の意志」は、
人間は生物として消滅したとしても、
プログラムという形ではあるが、人間が書いた意志は
やさしさだけをろ過して残るプログラムとなり、
「魂として生き続ける」ことになるのではないか。

 

現世の人間の体を魂の仮の宿と考えるならば、そんな論理もあり得るのではないか。
自分の魂が、人間の肉体にではなく、
シリコンの回路であるコンピューターに描かれたプログラムの中に生きていたとしても、
それはそれでいいのかな。

 

あの「A.I.」は、そんなことを描いていたのではないかな。
それで、魂が震えるような感動をしたのではないかな。あの時。

 

 

久しぶりに長い時間を持ち、
テレビを見ながら、そんなことを夢想した。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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