谷 好通コラム

2008年08月03日(日曜日)

1985. あればあったで慣れれば

快洗隊には必ず大きなテントがあって日陰で作業が出来る。
また快洗WingやBossがあって手洗い洗車の省力化が進んでいる。
商品的にはダイヤモンドキーパーはもちろんアクアキーパーも出来るし、
これらの作業はクーラー付きのブースで行われる。
決まった時間に9番と呼ばれる休憩時間があるし、週休二日もほぼ徹底している。

 

約10年前に快洗隊一号店がオープンした時には、
日陰は作ってあったが、
手洗い洗車を補助する機械もブースも何も無かった。
休みも四週六休であったが週に一回休むのが精一杯で、
その頃の快洗隊に一番必要なのは「根性」であったのだ。
昔に比べると今の快洗隊は働く人にずいぶんいい環境の店舗になっている。
しかし、この状態で働いているとそれが当たり前になって、
それを恵まれているとも思わなくなってくる。
しかし、それはそれでいいのだ。
いい環境になった分、品質がより上がって、
付加価値の高いサービスが提供されてしっかりと効率が上がり、実績が上がれば、
環境が良くなった意味が十分にある。
だから、今の実績は当時と比べるとかなり上がり、
生み出す付加価値の量も大きくなっているので、
仕事が昔に比べて楽(らく)になったわけではない。
待遇を改善し、作業効率を上げて、付加価値/人時を高め、分配を良くしても、
洗車やコーティングの作業自体は楽ではなく、
「しんどい」ことまでは解消できない。
「しんどくなく、楽で、稼ぎはいい。」は、無理なことで
それはやっぱり同じである。

 

今日も暑さが続き、名古屋は37℃と体温より高い熱暑となった。
こんな日の洗車は本当に大変です。

 

 

あればいいと思ったものが実現して手に入ったとしても
はじめは新鮮で、嬉しいし、楽になったと思うが、
時間が経って慣れてくると、
あることが当たり前になってきて、
あることの意味は忘れられ、あることによるメリットはなくなってくることもある。

 

 

昔、私達が子供の頃、
今に比べれば無いものばかりで、
今の水準で思えば貧しかったが、
今の子供が、昔の子供に比べて幸せであるかというと、必ずしもそうは思えない。
少なくとも、
今の子供が持っているものを、
その多くを昔の私は持っていなかったが、
昔の私が経験した子供時代は、今の子供が得られない経験がいっぱいあった。

 

有ることは、有ることで便利になり、いいこともいっぱいあるが、
有ることで得られたことに、直に慣れてしまい、
有ることが当たり前のことになる。
無い時には、有ることにとても意味があるように思えるが、
有り続けると、有ることに慣れ、当たり前になると、有る意味も無くなるようだ。

 

 

10年以上前の話。
三重県松阪市に行った時、
お昼、有名な「松阪肉」を食べてみたくて
路上に看板がいっぱい出ていた「松阪肉ステーキの▲▽金」に入ったことがある。
いくら有名な松阪肉と言ったって
5,000円も出せば、飛びっきりのステーキが食べられると思っていたが、
メニューを見てびっくり一番安いステーキでも10,000円以上で、びっくりした。
二人で最低でも20,000円!
これは困ったと思ったら、メニューの隅っこにハンバーグがあって、一人前3,000円位。
躊躇することなくハンバーグを注文したのはもちろんである。

 

先日、何年かぶりで松阪市に行った。
ちょっと時間に余裕があったので同行の酒部部長に「松阪肉の店行ってみるか?」
松阪肉が超ブランド肉であって、
べらぼうに高いことは10年前の▲▽金でよく知っていたが、
▲▽金が松阪肉を食べさせる店でもトップクラスの店であることを後で知って、
そこは避けなければいけないことを憶えていたし、
いざとなればハンバーグに逃げられることも経験していたので、
無謀にも「松阪肉食うか?」なんてことを言ってしまったのだった。

 

選んだのは、やはり路上の看板を見て「牛銀」。
▲▽金が「金」に対して、牛銀は「銀」なので、「金」より安いだろうと思ったからだ。
しかし、座敷に上がってメニューを見ると、
「松阪肉のすき焼き」松15,000円、竹12,000円、梅7,500円。
「松阪肉の網み焼き」松15,000円、竹12,000円、梅7,500円。
・・・・・冷や汗が出る。
メニューを隅々まで見るが、
頼みの綱「ハンバーグ」がない!
・・・・・
「ごめんなさい。」と素直に謝るか、
「あっ、急にお腹が痛くなった。」と仮病を使うか、
「こんな高けえもん食えるかっ!」と居直るか、
・・・・・・一瞬、どう逃げるか、言い訳が頭を巡った。
しかし、
いかにも高い店にいそうな品のいいオバサンの仲居さんに、
「さっ、どのコースにされますか?」とせかされ、
「ハンバーグはないんですか?」と聞けるような雰囲気でもなく、
「昼飯だから、あっさりと“梅コース”で・・・。」などと、
一番安いコースを言うのが精一杯であった。
しかし、それでも
一人7,500円、酒部君と二人で15,000円!・・ポケットマネー昼飯でだ。

 

で、7,500円の松阪肉はどうだったか。
たしかにうまい。
さすがに有名な超ブラント肉である。
松竹梅の梅でもさすがと思わされる旨さである。
肉は私達が普通に見るすき焼きの肉よりもずいぶん厚く切ってあるが、
霜降りだからなのか軟らかく、厚切りの分だけ味が濃く。うまい。
しかし、霜降りだけあって脂っこくて、
三口、四口、五口と食べていくに従ってだんだんクドクなってきた。
全部食べ終わる頃には、もうけっこうって感じ。

 

憧れであった超ブランド肉「松阪の霜降り肉」は、
うまくはあったが、しょっちゅう食べたいというものではなかった。
とてもたくさんは食べられない。
ましてや、7,500円も出して食べたいとは思わない。

 

私は思った。
「松阪肉」に憧れを持ったまま、
「吉野家」の牛丼を「うまい!」と、食べていた方が幸せであったかもしれない。

 

380円の吉野家の牛丼の並み盛は十分にうまい。私は大好きだ。
380円の牛丼がこんなにうまいのだから、
超ブランド牛である松阪牛の霜降り肉は
どんなにうまいのだろうと憧れていた方が、私は良かった。

 

 

無い時は、有る方が幸せだと思うが、
有るようになると、無くても良かったと思うこともある。
むしろ無い方が良かったと思うこともある。

 

昼飯に、うっかり失敗して、
7,500円/人のすき焼きを食べてしまい、その日、私は、後悔の固まりであった。

 

松阪肉の「牛銀」で、
一番安いコース「梅」7,500円を昼飯で食べることになってしまい、
恐縮する同行の酒部君。
妙にお坊ちゃんみたいに見えるのが何ともおかしい。
(酒部君って坊ちゃん刈りだっけ。)

 

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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