谷 好通コラム

2007年09月02日(日曜日)

1721.バカだからでしょ

これを書き始めた今、
岡山への新幹線に乗っている。
今日、岡山TIサーキットでスーパー耐久の第5戦の決勝が行われるのだ。
今年の我がチーム?17ポルシェはどん底である。
クラス1として走り、全戦完走はしているのだが、
完走したクラス1の車の中では常時最下位で、
格下のクラス2の車にも前を行かれることたびたびである。
最下位が指定席になっている車のスポンサーをしていても、
宣伝としてはむしろ逆効果であると、
社内でもたびたび指摘されるようになって来て、私も正直言って苦しい。

 

なぜ勝てないのだろう。
去年の一年間も全く勝てなかった。
それは、全チームの中で唯一我がチームが使っていたメーカーのタイヤが、
「どうしようもなく戦闘力が低く、
常に他チームに数秒の差をつけられていたから。」であった。
今年はタイヤも、他チームも使っているメーカーのものになっているが、
去年とさほど状況は変わっていない。
クラス1に参戦している6チーム中、予選は全戦クラス6位。
決勝も全戦、完走した車の内での最下位だ。
決勝で走っている時のタイムも、
ほとんど最下位のタイム。
それでも昨年に比べれば、
そのタイム差は3~5秒であったものが1~2秒に縮まってはいる。
唯一、SONAXからの要請でオーストリア人ドライバー「ノルベルト シードラー」を乗せた時、
前を走る同クラスの車よりも速く、ハイペースで追い詰めたことがある。
しかしシードラーはヨーロッパF3、F3000で何度も優勝しているドライバーで、
特別といえば、特別ではある。
とはいっても、車自体が持っている戦闘力自体が
決定的に低いということでないことは間違いなさそうだ。

 

今回の岡山TI戦。
金曜日の練習1本目わずか17周で、
エンジンがブローアップしたらしい。
そのエンジンはこのレースの前にオーバーホールしたばかりであり、
ポルシェエンジンのオーバーホールは、
ピストン、コンロッド、スリーブなどかなり部分を新品に交換するので、
実質的に新品のエンジンになったと言えるような大掛かりなものだ。
当然、費用も凄い。
そんなエンジンがわずか17周でぶっ壊れてしまったのだ。
ドライバーはエンジンが不良品だという。
オーバーホールを担当したCOXはそんなことは絶対ないと言い張る。
しかし、ロガーデータを見ればオーバーレブした形跡もないので、
どうもエンジン自体に問題があったと考えられるか。
しかし、とりあえずCOXがサーキットの持ち込んでいたスペアエンジンを借りて、
土曜日の予選にぶっつけ本番で臨むことになったのだが、
その予選で、今度はクラッシュをしてしまったらしい。
自走出来ないほどのダメージだったらしいのだが、
チームからの連絡はなく、
日曜日の決勝に出場できるかどうかも分からないまま、
とりあえず、日曜日の今日、岡山に向かっている。

 

何か歯車が狂っている。
チームの中のムードも今年は暗く、
インテグラで走っていたころのあの破天荒さもなくなった。

 

何かが狂ってきてしまっていて、
今どん底なのであろう。
どこかで、何か、復活のきっかけを掴まなくてはならないのだが。

 

しかし、決勝の前に
すでに最悪のスタートを切ってしまった岡山で、
かえって決勝ではいいことがあるのかもしれない。
それは奇跡に近いのかもしれないが、そう祈らずにはいられない。

 

 

・・・・
・・・・・
・・・・・・・
と、
ここから、決勝レースが終わって、
岡山から名古屋へ帰る新幹線の中で、再び書きはじめた。

 

レースは終わった。

 

結論だけ先に書くと、
予選のクラス1で6位、総合8位(クラス2が前に2台)でスタート後、
トップの車が500kmを走り終えた約4時間後にゴールとなった。
決勝ゴールの結果は、
予選クラス1で6位、総合7位(クラス2が前に1台)で完走である。

 

クラス1、6台中の6位は、
いつも通りと言えば、いつも通りであるが、
レース中のタイムは、
やはりクラス1の中では、
6位になるべくしてなったタイムではあったが、
決して話にならないタイムではなく、
クラス1の他の5台に拮抗したタイムで走れていた場面もあったところを見ると、
いま少しのセッティングを詰めれば、何とかなる気配があったことは事実だ。

 

惜しむらくは、
ピットインでの給油とタイヤ交換に要する時間がかかりすぎた。
1回のピットインで約1分数十秒ずつ、
計2回で2分30秒はロスをした。
このロスは、1ラップ以上の差であり、
たとえば、3位の車と同等のタイムを出して走ったとしても、
やはり6位にしかなれない大きなロスである。

 

しかし、この大きなロスがなかったとしても、
今回の走行タイムでは、やはりクラス1では6位でしかなかったのも事実である。

 

何をすればいいのか田中選手は解っている筈である。
今年は全戦完走であるし、
予選でのタイムも、前とかなり詰まってきている。

 

スタートは松永選手であった。
スタート直後、後ろのクラス3の車群で大きな事故があり、
4台が戦列から離れたが、クラス1、クラス2には影響なく、
3周ペースカーが入っただけで無事にスタートできた。
予選で前にいた2台のクラス2のランサーとインプレッサを順当に抜き、
クラス1では6位だが、総合でも6位に順位を上げた。
クラス2の車はターボ車なので、
予選の時はブースト圧を一時的に上げて走るので、クラス1を食うこともあるが、
決勝では耐久性の問題もあって、ブーストを下げざるを得ず、
やはり、クラス1のポルシェにはかなわない。

 

我が?17ポルシェは順当に6位で周回を重ねるも、
5位の?1ポルシェからは1周約1秒ずつ離されていく。
ドライバー交代も近づいた38周目時点で37秒の差。
しかし、ヘンリー・ホーがドライブする?1ポルシェがどこかでスピンしたらしく、
一挙のその差が3秒に縮まった。
4位の車とはまだ60秒の差があるが、
5位の車との接戦になること自体が珍しく、久しぶりにワクワクする。

 

45周目にピットイン。
5位の?1ポルシェとの差はまだそれほど開いていない。
松永選手から田中選手に交代し、
燃料補給と、タイヤを4本とも交換する。
緊張のピットワークである。

 

交代した田中選手がピットアウト、コースに飛び出て行く。
しばらくして、ピットのモニターを覗いていると、
おかしなことに気が着いた。
まだピットインをしていない車もあるので、
総合順位自体は11位ぐらいでおかしくはないのだが、
ほとんど同時にピットインした?1ポルシェと1分25秒ほども離れているのだ。

 

一体どうしたのかと考える。
「田中選手、コースに出て行ってすぐにスピンしてタイムロスをしたのか?」
ピットのスタッフに聞くと、「そんなことはない」という。
となると、
?1ポルシェがピットインの際に、
タイヤ交換を2本だけにして、あるいは給油量を少なくして
ピットインの時間を節約したのか?
しかしピットにいた他の人間に聞くと、
?1は間違いなく4本タイヤを変えて行ったらしいし、
給油の量も、燃費の悪いポルシェではピットインの度にほぼ満タンにしないと、
レースを走りきることはできないという。
ならば、私たちのピットインの作業が遅かったとしか言いようがない。

 

なぜ1分10秒も遅かったのか。
私には解らない。
しかし、そのことをピットの人に告げると、
「えっ、そんなに時間かかりましたか。」とは言うものの、失敗をしたという表情ではない。
たぶん、
多少時間がかかっても、
作業を確実に行うことを最優先にするような決まり事があるようだ。
スピードを優先して作業に何かあった場合の責任を考えている雰囲気がある。
一秒を争って勝つことより、
何事もないことを優先する形になってしまっているようだ。
これでは勝てない。

 

コースに出て行った田中選手は、
最初こそタイム的に2秒ほど遅かったが、
徐々にペースを上げ、コンスタントに周回を重ねていくが、
クラス1の5位である?1ポルシェとは、差が開いて行った。

 

一時間半弱、45周を走りきった田中選手がピットインしてくる。
3番目に走るドライバーは、また、松永選手である。
今回レースにはCドライバーがいない。
いろいろな事情があったのだろうが、
今回の?17ポルシェは40歳過ぎのオジサンドライバー二人で走りきるのだ。

 

降りてきた田中選手は憔悴しきっていた。
いつも暑い岡山TI戦は、今年はいっそう暑つかったのだろう。
降りてきて数分間、田中選手は一切の余裕がなく、
熱布と化したレーシングスーツを必死に脱ぎ、冷やした水を頭から何度もかぶり、
熱袋と化した耐火ブーツを、焦るように脱ぎ、靴下を投げ捨て、
足に冷水を掛ける。
1秒でも早く熱の元を体から取り去らないと、
本当に死んでしまうかのように、言葉もなく、必死に氷で体を冷やしていた。
ここまで憔悴した田中選手を見るのは初めてである。

 

二度目のコースに出て行った松永選手は、飛ばしに飛ばして、
2位、3位、4位、5位のクラス1の連中と変わらないタイムで走っている。
しかし、すでに5位の?1ポルシェとはフラップ近い遅れであり、
そこまで飛ばしても、もうポジションアップは望めないのに、
松永選手は飛ばし続けた。

 

やっと体を冷やし落ち着いた田中選手に聞いた。
「何で走るんですか?」

 

田中「バカだからでしょ。」

 

田中選手は年商十数億円の中堅運送会社の社長であり、
彼の考え方は非常に論理的である。
風貌とは逆に、びっくりするくらい知的な人間である。
そんな彼がレースに出る目的とは、論理的に考えた場合、どうしても答えが出てこない。
田中さんの「バカだからでしょ。」に、
私は「走りたいんですよね、ただ。」と言うと、
田中選手は笑っていた。
困ったことに、私にも、それが理解できる。

 

ゴールは、
そのままクラス1の6位である。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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