このコラムの副題「はじめの一歩」は、漫画の題名からとったものではない。

私の息子の名前は「北斗」という。
その昔、彼が生まれた時、
名前を考えたわけだが、
ちょうどその頃、私は「畑正憲・通称ムツゴロウ」に心酔していて、
彼の書いた本はすべて一冊残らず読んだ。
畑正憲はテレビに出るようになってすっかり有名になったが、
本当は物書きで、昔から多くのエッセイを出している。
彼の文書は素晴らしく、私は彼の本からたくさん影響を受けた。
その畑正憲が無人島暮らしをしている頃、
彼の弟・三喜雄（？）が色々な面で彼を助けていて、
その息子の名前が「北斗」であった。
その名前にあやかって、我が息子に「北斗」とつけたわけだ。

ところがしばらくたって、「北斗の拳」というボクシング漫画が人気になって、
とうとうテレビアニメにまでなってしまい、
「北斗」という名前は、その漫画から取ったものだと思われるようになってしまった。
自分の息子に漫画から取って名前をつけたと思われるのはイヤであったが、
つけられた本人はもっとイヤであったかもしれない。
でも、「北斗」という名前そのものは、私も気に入っているし、
北斗自身も気に入っているようで安心している。

二年ほど経って、今度は長女が生まれた。
名前を考えた。
「兄弟仲良くして欲しい。
お兄ちゃんが北斗だから、妹は星子にしよう。
兄弟二人で“北斗星”で、これはいいじゃん。」
オフクロに相談したら、
「そんなふざけた名前じゃ、あまりにもかわいそうだよ。
星子・セイコじゃなくて、聖子・セイコにしたらどう？」と言われ、
ここは、娘が生まれて一番喜んでいたおふくろの気持ちを入れて、
娘の名前を「聖子」とした。
たしかに、お兄ちゃんと妹合わせて北斗星～子なんて、
本人たちにとっては情けなかったかもしれない。

それから一二年経って、
テレビに「松田聖子」なるアイドル歌手がデビューした時、
「え～～っ聖子？　この子、売れないといいなぁ～。また北斗の二の舞だよ。」
そう思ったのだが、
意に反して松田聖子はトップアイドルになってしまい、
娘の名前を言うたびに、
「谷さんは松田聖子のファンなんですか？」と言われるようになった。

「うちの聖子は、松田聖子がデビューする前に“聖子”ってつけたんです。
息子が北斗という名前で、畑正憲の・・・・・・、それで・・・・・・」
と、またいちいち説明しなくてはならなくなったわけだ。

そして、二度あることは三度あるという。
約６年半前、会社にホームページを立ち上げた時、
コラムの表題を考えた時、
なにをするにしても、
毎日毎日がスタート・第一歩であって、
連続した時の流れの途中なのではないという自分の信条から、
「はじめの一歩」と名前をつけた。

しばらくたって、「はじめの一歩」というボクシング漫画があることを知った時、
それが、私のコラムが始まったあとから出来たものなのか、
その前からあったものなのかは知らないし、
「また、やっちゃった。」とは思ったが、
いまさら引っ込めるのはイヤだったので、そのまま続けている。

しかし、さすがに今度は、
「谷さんのコラムの名前は、ボクシング漫画から取ったんですか？」
とは、みなさん言わない。
内心はそう思っているのかな？と思うこともたまにはあるが、
私自身はずっと忘れている。

今日は全国的に「入学式」らしい。
新しいスタート・はじめの一歩である。

今までの事は今までの事。
昨日までの事は、昨日の経験として、
その蓄積として、今日を支えていることは事実であるが、
昨日までの事に束縛されることはない。
今日からの事は、今日からの事として、
新しいスタートなのである。

毎日新しい日が始まる。