谷 好通コラム

2006年07月17日(月曜日)

1437.早くゴチャゴチャに

引越しも三日目を迎えて、
荷物はすべて新しい倉庫、トレセン、事務所に運び終えている。
あとは片づけをするだけで、のんびりとした一日になった。

 

朝早めに出社したら、倉庫にはもう責任者の山内課長がやってきていて、
大きな新しい倉庫がうれしそうに、元気に挨拶をして来た。

 

 

前の倉庫に比べて、新しい倉庫はわずか1.5倍になっただけだったので、
荷物が全部入ったらどんな様子になるだろうかと心配していたが、
立体の棚が効いているのか、
まだまだ余裕たっぷりで、ほっと安心をした。

 

 

出荷業務のスタッフ諸君も、新しい倉庫がよほどうれしいのか、
出荷事務所の中を土禁にしてしまった。
ほほえましいというか、なんというか。

 

 

本社事務所の方も、かなり片付いてきて、
もう、普段の仕事を始めつつある者もいる。

 

しかし、私は一日ちょっと浮かなかった。
事務所は広くなって、
余裕たっぷりになり、部署ごとの机のカタマリの間も隙間が随分ある。
私の机の後にも空間がかなりある。

 

それが、なんとも落ち着かないのだ。

 

今までのように、狭い空間を迷路のように机をギッシリと並べて、
窮屈にくっついている方が、うんと落ち着く。
余裕の空間など、どうも、自分達には似合わないようで、
気持ちが落ち着かない。

 

そう思っているのは私だけかもしれない。

 

 

本当は、
働く場所は狭い過ぎるくらいがちょうどいいし、
人は少な過ぎるくらいがちょうどいい。
その方が会社が活性化していて、活き活きしているはずなのだ。
そういう意味では、この会社はけっこう理想に近かった。
それを私はうれしかったし、何の不自由も感じていなかった。

 

日頃の口癖で、
「人間が多すぎると、会社・店は腐ってくる。
人が多くなって、一人でやれることを二人でやるようになると、
その仕事の効率が落ちるだけでなく、
仕事の質までが落ちてくる。
人は少な過ぎるくらいが一番効率が上がるし、
適度な緊張感が、仕事の質を高く維持する事になる。
人は少ない方がいい。
同じ意味で、会社も店も、狭過ぎるくらいがちょうどいい。」
そんなことを言っていた。

 

ところが、そんな一番いい状態とは、
その規模を維持するなら、最も良い状態に違いないのだが、
例えば会社の規模を、
本気で大きくしようと考えるならば、
「入れ物」「容量」を一度大きくする必要があることも事実なのだ。

 

あるレベルになると、入れ物の小ささが規模の成長を阻害する。
人の数についても同じ事が言え、ある時点で一度人数を余分なところまで増やす必要がある。
人が一人前に育つまでにはかなり時間がかかるので、
大きくしたい規模に合う人数にまで、
先行投資として、余分な人を抱え込む必要があるのだ。

 

広すぎる空間。
仕事の量に比べて、多過ぎる人数。
非常に危険な状態であるが、
その危険状態を、成長のたびに一度は通過しないと成長できない。

 

ちょうど私たちの会社は、そんな状態に差し掛かっている。

 

今回の新しいトレセン、倉庫、事務所、宿泊設備は、
より大きな成長にために、より大きなキャパシティを求めて造った物であり、
決して余裕を持つために造ったのではない。
しかし、入れ物を大きくしたことによって、
結果的に出来てしまった余裕が、
会社における緊張感とハングリー精神を蝕む事になりはしないかと、それが怖い。

 

特に事務所については、
新しいきれいな事務所になることで、“高級”にでもなった気になる。
新しい建物を造ったのは、
きれいな空間が欲しかったわけでも、余裕が欲しかったわけでもない。
ただ単に大きさが欲しかっただけ。

 

成長の過程で、広過ぎて、余裕のあるきれいな空間があったとしても、
それは過程の中の一時的な現象であるだけであって、
本当は、たちまちの内に
狭くて、こちゃごちゃとした雑な雰囲気の事務所になってくれることが、
私のもっとも望むところなのである。

 

だから、ほとんどの事務机を新品にすることもなく、
今まで通りの仕事が出来る古い机、椅子、棚をそのまま使う事にした。
私の机も、倒産同様に去ったある会社の社長が10年以上前に中古で買った机を、
引き上げてきたポンコツの机、
多分20年近く前の古いて汚い机を、またそのまま使う事にした。
お上品で立派なきれいな物などは何もいらない。

 

新しいきれいなものは極力買わない。
ほとんど何も買わない。
そう決めた。
きれいさなど、全く必要ない。
バリバリと仕事をして、スピードを上げて、一刻も早く、
倉庫も、事務所も、トレーニングセンターも、宿泊施設も、
狭くてごちゃごちゃにしなくてはならない。

 

新しいきれいで立派な事務所を造って、
何か勘違いをして、
会社をつぶした経営者をたくさん知っている。
その轍だけは踏むわけには行かない。

 

だらしなく汚して汚くなるのは、最低だが、
無用にきれいにしたがるのはスピードが落とすだけ。
お上品に仕事場を使って、スピードを落としてまできれいにしているのも最低である。
激しく使って、汚くなるのが最高なのである。

 

そういう意味で、私は、この事務所が早く狭くなり、汚くなるのが待ち遠しい。
空間に余裕があって、
広過ぎて、
人が多過ぎて、
お上品にきれいである、
そんな危険な状態を一刻も早く通過しなくてはならない。

 

広くなってしまった事務所で、もっとも効果的、効率的な伝達方法は、
メガホンであった。
私は、こういうのが好きである。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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