谷 好通コラム

2005年06月16日(木曜日)

1193.洗車機が消えた日

シンガポールに到着した翌日の朝。
通訳をしてくれるガイドのAngさんとホテルで待ち合わせをして、
さっそく、シンガポールの洗車事情を見学に出かけた。

 

今回は急な話だったので、どこの店ともアポイントを取っていず、
いわゆる「突撃見学」で、どうなるかさっぱりわからないのだ。
ガイドのAngさんは、
そんな行動にぴったりのキャラクターの人で、
良く言えば“積極的”というか、“強引”というか、悪く言うと“図々しい”というか、
何があっても、絶対大丈夫、どんと来いといったタイプである。

 

タクシーで、ガソリンスタンドがたくさん有りそうなところまで行く。
シンガポールでは、洗車はほとんどガソリンスタンドの中で行なわれているらしい。
ここまでは、日本と一緒である。

 

最初に行ったのが、シェルのスタンド。
スタンドの左隅の方に、洗車機がすっぽりと入る大きさの建物がある。
下の土間を見ると、洗車機のレールをはずした跡が残っていた。

 

Angさんの言うには、
「前は、ここに洗車機が入っていた。
私はその洗車機で洗ったことがあるので、間違いない。」
たしかに、洗車機のレールの跡が土間にある。
しかし、今、その場所には、
何人かの東南アジア系の若者がいて、手洗いで洗車をしていた。

 

Angさんはズカズカと入っていって、
若者の一人を捕まえて、話をし始めた。
多分、「俺は、前にここで洗車をしたことがある。それで・・・・・」なんて感じなのだろう。
私達も(私と谷常務)も中に入っていって、色々質問をした。

 

※洗車場の中

 

 

が、その時、スタンドの事務所の方からオジサンが、
しかめっ面をして歩いてきた。
なにやらAngさんとやり合っている。ちょっと険悪だ。
あとで話を聞いたら、
「客でもないのに黙って入ってきちゃダメだ。見学なら、ちゃんと約束をしてから来い。」
ということらしい、ごもっともである。
素直に引き下がることにする。

 

一軒目は、追い返された。・・・・こんなことは想定内である。

 

二軒目に突入である。
今度は、エクソンのスタンド。
先程のシェルの店の道を挟んで正面にある。
Angさん、今度は店の前の歩道でやおら電話をし始めた。
どうやら目の前のスタンドに電話をしているようだ。
「何してんの?」と聞いたら、
「アポ、取ってるんだよ」と言う。面白い人である。
結局、電話が通じず、やっぱりズカズカと入っていくことにする。

 

この店では、店の奥のセールスルームの裏に洗車場があった。
昔は、ここに連続洗車機があったようだ。
その痕跡があちらこちらにあった。
洗車場には、若いリーダーのような人が色々話をしてくれた。Liepangさんという。
しかし、先程の店で追い出された経験があるので、
Angさんは、Liepangさんにこの店のマネージャーに電話をしてもらった。
「日本から洗車屋の人が来ていて、私はそのガイドをやっている。それで・・・・・・」
一生懸命頼んでくれた甲斐があって、
見学のOKをもらったようだ。

 

AngさんとLiepangさん

 

 

Liepangさんへの私の質問
「洗車は、1台いくらなの?」
『一台5(シンガポール)ドルから7ドル(約350円~490円)だよ。』

 

「何人働いているの?」
『24時間営業だから、2交代で今は全部で12人。』

 

「スタッフの給料は?」
『一日12時間で、50~60ドルぐらい。(3,500円~4,200円)』

 

「あなたは、もっともらっているんでしょ」
『へへへ・・・・。日本では、いくらぐらいもらえるんだい?』
「一日だと8時間で、7,000円~8,000円ぐらいかな~」
『お前はもっともらっているんだろ?』
「まあね。」

 

「一日何台ぐらい洗って、何台ぐらいワックス掛けしているの?」
『台数は言えない。だけど、(洗車屋同士の)競争が厳しくて大変だよ。』

 

話を聞いていたら、
お客様が1台やってきた。
黄色のベンツSLKで多分5年ぐらい前の型だ。
この店での洗車の段取りを見せてもらうことにした。

 

高圧スプレーガンで、前もって泥を落とす。

 

 

泡をかけてから、タッチアップ

 

 

泡を流してから、拭き上げ

 

 

日本を含めて、世界共通の段取りである。
特に変わったところは無い。

 

色々なことを親切に教えてくれたLiepangさんに、お礼と再会を約束して、
次の店に行くことにした。

 

すぐ近くにあったもう一軒のシェルのスタンド。
ここでは、大きな洗車機のためのスペースはあったが、なぜか撤去されており、
この店では洗車そのものを廃止してしまっているようであった。

 

 

次の店は、カルテックスの店。
ここでも、立派な洗車機用のブースがあって、
なぜか洗車機は撤去されて、そのブースの中で、
数人の若者が手洗い洗車をやっていた。
土間には自走式の洗車機の跡がある。

 

 

チラッとその作業を除いたが、ここでも、世界標準型の手洗い洗車であった。
特に変わったところは無い。

 

次の店に行った。
今度は、シェルである。
そして、とうとう洗車機を見つけた!

 

 

そう思って、近づいて眺めてみたら、
なんと、洗車機のブラシはすべて取りさらわれ、
その洗車機の残骸の中で、数人のスタッフが手洗い洗車をしているではないか。
洗車機に見えたのは「エアーブロー」だけの部分で、ブラシはすべて取り去ってある。
洗車機の中で人間が手洗い洗車をやっている。

 

 

「HAND WASH」とか、「NATURAL CAR WASH」の看板が目立つ。
みんな、なぜか手洗い洗車であることをデカデカと書いている。

 

ここに載せた5軒のほかにも、何軒かスタンドを覗いてみたが、
すべて同じような状況で、

 

ここシンガポールでは、
かつては、どのスタンドにも洗車機が設置され、
洗車機での洗車が当たり前であったのが、
どこかの時点を境目に、次々と洗車機が撤去され、
その洗車機が設置されていた建物の中で、
ミャンマーからの出稼ぎ労働者たちが、手洗い洗車をやっていた。

 

すまなくとも7軒のスタンドでは“すべて”そうであった。

 

ガイドのAngさんが言う。
「シンガポールには洗車機は一台もないよ。
昔はあったけど、洗車機は傷が入るので、みんなが文句を言ったんだ。
だから今は洗車機は全部無くなって、みんな手で洗っている。」

 

みんなが文句を言ったので、
洗車機が無くなったとは、ちょっと考えられない。
一体何があったのだろうか。

 

あくまでも私の想像でしかないが、
ひょっとしたら、
誰かが、自分の車に着いた洗車機でのブラシ傷に対する賠償訴訟を、
起こしたのではないだろうか。
そして、訴訟に勝って、かなりの賠償金を取ったのではないだろうか。
それを見たユーザーたちが、これは金儲けになると、
我も我もと訴訟を起こしてきて、大混乱になって、
それに音を上げたスタンドが、一斉に洗車機を撤去してしまったのではないだろうか。
これは単なる想像であるが、
西欧化されているシンガポールにおいては、あり得る話でもある。

 

国中のガソリンスタンドから、一斉に洗車機が消えてしまい、
その洗車機のための施設の中で、手洗い洗車がせっせと行なわれている。
ちょっとゾッとするような光景であった。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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