谷 好通コラム

2004年12月20日(月曜日)

1080.痛くない歯医者サン

「シンマ!」って声を聞くと、ビクッとなる人も多いと思う。
「シンマ」とは、歯医者さんの使う麻酔注射。

 

痛みを伴う歯の治療を行う時に、歯茎に注射を打ち神経を麻痺させるやつだ。
この注射“シンマ”が痛い!
というより、これを打った以降は神経が痺れて、何も痛みを感じなくなるので、
この“シンマ”を打つ時が、治療の中で一番痛いことになるのだ。

 

歯医者さんに行くのは、大抵歯が痛くなって我慢できなくなった時。
だから、治療をする時点ですでに痛みがひどいので、
そこに注射をするのが痛いのは当たり前なのだ。

 

私は歯医者さんは、名古屋・守山区の堀田歯科に決めている。
ここ以外の歯医者さんには絶対に行かない。
ここのシンマは痛くない。

 

 

私は若い時だらしなくて、
朝、顔を洗ったりするのが面倒で時々サボったりしていたことがある。
だから歯ブラシをしない時もあったわけだ。
今考えると、ゾッとすることだが
特に、家を出てひとり立ちした時は、自分に強制する人がいなくなって、
余計にひどくなった時期があった。

 

だから虫歯もひどい時期があって、
歯医者さんには、しょっちゅうお世話になっていたのだ。

 

だから、「シンマっ」と歯医者さんが言って、
注射が持ってこられると、
ギャーというほど痛い瞬間がやってくることをよく知っている。

 

何度も引越しをするたびに、通う歯医者さんも変わった。
そのたびに歯もボロボロになっていた訳だが
五年前、とうとう最後の時が来た。

 

その頃には虫歯の治療を繰り返して、
あれもこれも、どの歯も差し歯になったりしていた。

 

そんな頃、仕事上の事故があった。
快洗Jr.を、レールを使ってバン車に押し上げるとき、
手が滑って、快洗Jr.が滑り落ちて来て、まともに顔に当たったのだ。
それも“口”にJr.の角が当たって、
何本もの差し歯がバキっと折れてしまったのだ。
(痛そうでしょう、そう、めちゃくちゃ痛かったのです。)

 

差し歯が折れるような事態になると、
もう「入れ歯」にするしかない、
そう覚悟を決めて、その頃通っていた歯医者に行ったら、
やはり、「入れ歯を作りましょう」となった。
観念してしばらく通って、入れ歯を作ってもらったが、
口の中に異物が入っていることは、本当に苦しいことで、
一時的にでも、人生に絶望的になったものだ。

 

そんな私に、
「いい歯医者さんがいますよ。」と教えてくれたのは、
当時、アイ・タックの経理を担当していてくれた“安藤さん”というおばさん。
ご自分のご亭主が、堀田歯科という歯医者さんで
「インプラント」という治療を受けて、ものすごく良かったと言う。

 

インプラントとは究極の歯の治療で、
人口の歯を、顎の骨に植えてしまうものなのだ。

 

半信半疑で行った堀田歯科。
外見は木造で、何の変哲も無い歯医者さんなのだが、
とんでもなく技術の高い歯医者さんで、
たとえば、今までの歯医者さんでは1時間以上かかったような抜歯でも、
あっという間に5分で終わってしまう。

 

ここへ来る前に悪い歯があって、
前の歯医者さんが一時間がかりで取りきれなかった歯を、
「ついでに」と言って、たった五分で取ってしまったのだ。
まるで、魔法のように。

だから、インプラントという現代の歯科医療の最高峰の手術でも、
それほどの苦痛も無く終わってしまった。
(麻酔が覚めてからは、しばらく、かなりしんどかったが)

 

インプラントは、治療が終わったあとは最高で、
まったく自分の歯と同じであって、快適そのもの。
健康保険が効かないので、かなり高いが、
その仕上がりは、
まるで生まれ変わったような快適さである。

 

何でも、日本全国にインプラントの研修のための施設が40箇所あって、
そのうち22箇所が大学病院で、
残り18箇所のうちの一箇所が、
この堀田歯科の中にある愛知インプラントセンターなのだそうだ。
それだけ高い技術が、この何の変哲も無いような歯医者さんの中にあったのだ。

 

そういう意味では、本当に私は運が良かった。

 

今日、久しぶりに堀田歯科に行った。
疲れがたまったのか、インプラントではない自前の歯が腫れたのだ。

 

隣のインプラントにまでその腫れが伝播したら大変だと思って、
今日の朝、電話をした。
「今日、明日と院長先生は海外に出張していて居ません。
他の先生になりますが、されでも宜しかったら、来て下さい。」と言われる。
堀田歯科で、私はまだ、院長先生以外に見てもらったことはない。

 

どうしよう。

 

でも、今日の午後から大阪を皮切りに、3日間の出張に出なければならない。
しょうがないので「それでも結構です。」と言って、
朝、堀田歯科を訪れた。

 

見てくれたのは、若い先生。
と言っても、私がここへ通い始めた頃から見かけていた先生で、
見覚えのある先生だ、

 

それでも、私は恐怖であった。
いつもの堀田先生ならば、
あの口調で、「お~お~、こりゃ腫れとるねぇ~」と、とっとと治療してくれて、
その間、私は、ひょっとして痛みが来るかもしれないと、
身構えていればいい。
たまたま、ほんのちょっとズキっと痛い時があっても、
“うぐぐぐっ”と、ちょっとオーバーに、でも小さく、うめいて見せると、
「痛い? そりゃ痛いでしょ。そりゃ、ちったぁ痛いよ。痛いことしたんだから。」
と、痛かったことをすごく納得してくれる。
これは治療を受けているものとしては、ものすごく安心なことなのだ。

 

今日は、ここに来はじめてから初めて堀田先生ではない先生に治療を受ける。
バリバリに緊張した。
それを分かっているのか、この若先生、
終始ニコニコして、
「あ~、これは確かに腫れていますね。
ちょっと、穴を開けて圧力を逃がしておきましょう。
ずいぶん楽になると思いますよ。それで直ると思います。」

 

そして、シンマ!である。
堀田先生のシンマは痛くない。
不思議なくらい痛くない。
でも、私は堀田先生以外のシンマの痛さを知っている。

 

体にぐっと力を入れて構えた。
見覚えのある、ピストル型の注射器、“シンマ”が口の中に入った。

 

あれ?
プチっとも痛くない。
それどころか、シンマがどこに打たれたのか、それすら分からない。
あれれれれ?
そう思っている間に、切開まで終わって、
まったく!痛くもなんともない内に、治療が終わってしまった。

 

オーバーではなく、何処が、どうされたのか、まったく分からないうちに
すべてが終わってしまった。

 

「へぇ~~~、こりゃ堀田先生より痛くないや」
と、堀田先生に失礼なことまで思ううちに全部終わった。

 

そういえば、この歯医者さん。
院長である堀田先生以外に若い先生が何人かいて、
ズラッと6台ぐらい並んだ治療台で、いっぺんに何人もの患者が治療を受けている。
なのに、
「痛い!」とか、「ぎゃーっ」とかの痛みに対する悲鳴も、
あるいは、
「ちょっと静かにしてください。治療が出来ません。」とか
「そんなに動かないで!」とかの叱責の声も聞こえてきたことがない。
いつもは、自分の治療に神経が行っていて、そんな事にも気がつかなっかったが、
今日は、自分が若先生にやってもらって、
まったく痛くなかったのに驚いたので、それに気がついた。

 

 

私は、歯科治療についてなんの医学的な知識もないので、
とやかくは言えないのだが、
現代の歯科医療は、シンマ一つをとっても、
極細の針で、しかも電動で少しずつ麻酔薬を投入する最新の器具があって、
それを適切な知識を持って、高い技術を持って使用すれば、
歯科医療から「痛み」を追放できるものなのかもしれない。本当は。

 

肝心なことは患者の痛みに対して、共感を持って、医療に当たり、
その実現として、
最新の器具をいち早く導入し、もっとも高度な医療知識を常に更新して、
最高の技術の研鑽に励む。
その必要性を、患者の痛みの中に共感として見出せるかどうか
そういうことではないだろうか。

 

たとえば、
「治療は商売の一つ。痛かろうが、痛くなかろうが、どうせ患者の痛み。
医療の点数は同じ。儲けも同じ。」

 

そんな風に考えている医者がいるとしたら、
その治療は、多分、ものすごく痛いのだろうと思う。

 

この堀田歯科での、痛くない歯科治療は、
患者の痛みに対する共感から作られているものなのだろうと思う。
純粋にCSの実現である。

 

私の商売で言えば、
お客様との「車がきれいになる喜び」を共有すること。

 

 

もう一つ思ったのは、
この堀田歯科は、その技術、知識、器具、考え方のそのすべてが、
堀田院長先生という特に秀でた人の中にとどまらず、
一緒にいる若い先生にまで、
キチンと伝達されていることだ。

 

優れたプレーヤーは、優れた指導者とは限らない。
自分でやることには絶対の自信を持って、すばらしい成果を出せるのに、
その技術と知識の伝達は苦手であり、ちっとも自分の部下を育成できない人もいる。
そして、そのことが、
「若い者はちっとも出来ないが、俺はこんなに出来る。」と
自分の優秀性を示すバロメーターだと勘違いしている場合すらある。
一言で言えば、自分勝手なのだろう。
あるいは、自分が追い越されるのが怖いのかもしれない。
つまり、“弱い”ということであろう。

 

本当に優れた者とは、
自分の持っているものを、すべて惜しみなく、後から来た人に伝えていくものだ。
たとえ鬱陶しがられようと、もっともっとと伝えようとする。
自分が追い越されるかもしれないことなど、
なんとも思わない。
むしろ、それを喜びとすら感じる。
そんなものではないだろうか。

 

今日、堀田歯科の“若い先生”に、
痛くないシンマで麻酔をされて、
気がつかないうちに終わってしまう堀田先生のような治療を受けて、
そんなことを思ったのでした。

 

そういえば、
「今日は、お酒は控えてくださいね。」と若い先生が言っていた。
が、
すっかり痛みが引いて快適になった私は、
つい、谷常務と大阪のお好み焼きやで、生ビールを3倍飲んでしまった。

 

私は悪い患者である。
最高のCS医療も、悪い患者までも救えないのだろう。
いまさら反省しても遅いのだが。

 

http://www.ff.iij4u.or.jp/~hotta-dc/

 

ページのトップへ ページのトップへ

  • 最近の記事

  • プロフィール

    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

  • カレンダー

    2024年4月
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    282930  
  • リンク集

  • 過去の記事

  • RSS1.0

    [Login]

    (C) KeePer Giken. All rights reserved.