谷 好通コラム

2004年10月10日(日曜日)

1035.言い出せない自分

先日、名古屋⇒新潟⇒大阪⇒名古屋と、
スーパー日帰り出張をやった時
自分自身に対してちょっとショックなことがあった。

 

私は飛行機に座る時、
いつも、パソコンとデジタルカメラをカバンから出して、
座っている間中パソコンを叩いているか、カメラで空なんかを撮っていることが多い。

 

新潟で萱場さんから元気をもらって、
午後、新潟空港から大阪までの飛行機に乗った時、
パソコンは出したが、たまたまカメラは出さなかった。
特に理由があったわけではなく、たまたまである。

 

飛行機の席はいつもの(1A)、一番前の窓側の席である。
私は身障者手帳を持っているので、
チェックイン当日、カウンターで「一番前ありますか?」と聞くと、
ほとんどの場合(1A)をくれるのだ。
この席は、前の人がいないので、
シートを倒されてパソコンを打てなくなることがないので大変助かる。

 

飛行機はMD-90、2列席と3列席があって、1Aは3列席側。
半分ほど空いていたので、隣の席1Bはいなかった。
一席空けて1Cに、体のすごく大きな外人さんが座っていた。
2mはあろうかというデカイ体の外人さんは、すごく優しいお顔をしていた。
飛行機が飛び上がって、上空に来てからパソコンを打ち出す。

 

しばらくして『白山』上空に来たとき、
窓の外に、素晴らしい光景が広がったのを見つけた。

 

山々の所々に雲が纏わりつき、
その上空に薄い層になった雲が、何層にもなって、
日の光が何層もの雲から、木漏れ日のように筋を描いている。
それが空全体に広がっている。
こんなきれいな光景は初めて見たものであった。
「これは、写真に撮らなくては!」すぐにそう思った。

 

しかし、カメラはカバンの中で、
天井の手荷物入れにカバンは入っている。

 

通路に出て、手荷物入れからカバンを出せばいいのだが、
1Cに座っている大きな体の外人さんは、眠っているようだ。
眠っていると言ってもこの外人さん、飛行機が怖いようで、
さっきは本を持つ手が少し震えていた。
眠りは至極浅いはずだ。
「I,m sorry」と言って、ちょっとだけ席を通してもらえばいいのだが、
一瞬ためらってしまった。

 

「まぁ、いいかっ。しっかり自分の目に映しておこう」
と、自分に言い聞かせて、
というより、自分に言い訳を言って、
「I,m sorry」という言葉を飲み込んでしまった。

 

そして、空の珍しい美しい光景を、窓に顔をくっつけて見ていた。
すごくきれいだ。
「写真に撮りたい・・・・」
やっぱりそう思って、
「I,m sorry」の「ア」の口をするのだが、
声が出ない。

 

いつもはこんなことはないのだが、
この時は、口を「ア」にするだけで、「I,m sorry」の声にならない。

 

何度もそんなことをしているうちに、
窓の下の光景がどんどん変わる。
どんどん変わったその光景も素晴らしいものだった。

 

5分経ち、10分経ち、
考えた。
「私は最近おかしい。
やればいい事を、『だけど・・・』と自分に言い訳を言って、やらない事がある。
躊躇するようになっている自分に、『これはイカンな』と思うが、
ちょくちょく、そんなことがある。
今だって、
写真を撮りたいくせに、
『I,m sorry』と言えばいいだけなのに、
ためらう理由など何もないのに、
『まっ、いいか』なんて、自分に言い聞かせている。」

 

「私は、自分が行動を起こすことに対して、
自分で言い訳を言って、
行動を起こさない、
などということを、しない人間であるはずであった。
すべきと思ったら、何のためらいもなく、自分を動かすことが出来るはずであった。」

 

それが、なぜか『言い出せない自分』になっている。

 

「今年になってから、大きな事が続き
与えられるチャンスも、いまだかつてない大きなものになっている。
私の一つの行動が、相手により大きな影響を与えるようになって
行動を起こすことに“ためらい”を感じるようになったのかもしれない。」

 

そんなことをごちゃごちゃ考えているうちに、
飛行機が高度を下げ始めた。
新潟⇒大阪は、たった1時間の空路なのだ。

 

外の素晴らしい光景も、
山が消え、それでも、光の筋はまだ少しだけある。

 

このままでいいのか?

 

何も考えずに
「I,m sorry」と小さな声で言った。

「言わなくっちゃ」と、自分の中でいろいろ考えてはいけないのだ。
何も考えずに、ふっと言ってしまえばいいのだ。

 

体の大きな白人の外人さんは、すぐに閉じていた目を開けた。
やっぱり目を閉じていただけで、眠っていたわけではなかったようだ。

 

そして、少し動いてもらって、
手荷物入れのカバンからカメラを引っ張り出した。

 

すぐにカメラをセットして窓から続けていっぱい写真を撮った。

 

いっぱいいっぱいシャッターを押した。

 

本当はもっとすごい光景が、さっきまであったのに、
それでも、何とか取れた写真には、光の筋が少しだけ写っていた。
「I,m sorry」って言って良かった。

 

 

「やらずにする後悔」よりも、
たとえ失敗しても、「やってする後悔」の方が、はるかにいい。
そんなことをしみじみと思った。

 

大阪、伊丹空港に着陸するために、
伊丹上空を通り過ぎて
はるかに南にある関西空港よりもっと南まで下がって、
西に大きく回って、
ものすごく大回りして、伊丹空港に着陸したのには驚いた。

 

 

翌日、部長会議。
私はこの話をした。

 

翌々日、つまり昨日、
10月9日は、全体会議。
全国から30余名の営業スタッフが集まってくる。
台風22号が名古屋・東京を直撃するであろうと天気予報が言っていて、
よっぽど、
全体会議を中止した方がいいか、とも考えたが、
グチャグチャ考えるより、「とりあえずやろうっ。」と
集合中止の指示を出さなかった。

 

予報によれば、
午後名古屋に再接近し、午後6時ごろ東京を直撃する。
やってくるのは、920hPaの今年最強の台風。
今回の全体会議は、猛烈な嵐の中での会議になるはずであった。

 

会議は白熱する場面もあり、
あっという間に夕方になった。

 

 

休憩のたびに外を見るが、暴風になるはずの天気は、
ただの雨で済んでしまい、
夕方には日が空を朱に染めるほどあっけなかった。
台風は名古屋にたいした影響を与えなかった。

 

結局、台風の影響で、
仙台組と、東京組が、飛行機の欠航、JR.の不通で帰れなかった。
そこで、みんなで飲んだ。
楽しかった。

 

台風に脅かされた全体会議。
でも、やっぱりやって良かった。

 

やって良かった。

 

 

多分、生まれて1、2週間で拾われて、
生きているのが不思議なほど痩せていた子猫「チビチビ」が、
すっかり大きくなって、
人を見ればじゃれてきて、すぐに手や足を噛む猛獣になっている。
かわいい。

 

拾って来て良かった。育てて良かった。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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