谷 好通コラム

2004年06月24日(木曜日)

982話 中国で日本就職

前の話で、
インターネットでスタッフ募集をかけたら、
たくさんの応募があり、特に中国での勤務を希望する中国人がすごく多かった。
という話を書いた。

 

中国での応募者が全体の半分以上であったことを、
インターナショナルな時代になってものだと感心したが、
応募者と実際に話をしていくうちに、いろいろな事が分かってきた。
中国を希望する応募者は、
そのほとんど、というより全員が
日本での採用、を希望しているということ。

 

つまり、日本語を喋れるスタッフとして、日本の会社に採用されて、
中国に派遣される(中国で働く)という形を希望しているのだ。

「日本の会社に、日本で採用される」という部分にポイントがある。
つまり、日本の給与規定のもとに採用され、
日本の給与水準で給料をもらい、
そのまま、物価水準と給与水準が10分の1程度でしかない中国に勤務し、
中国に住んで中国で生活をしたいということ。

中国の給与水準は、大学卒で1500元ぐらいと聞いた。
日本円に直すと20000円ぐらいのもの。
また、5000元つまり65000円以上の所得があれば、
中国では“富裕層”と呼ばれ、特別な存在だ。
そんな人は人口全体の約10%であるという。
やはり、中国の所得水準は日本の10分の一といったところか。

 

たとえば
「中国の人が、中国の会社に、中国で就職すると2万円の給料だが、
たまたま日本に留学していて
日本で、日本の会社に就職して、中国の支店などに派遣してもらって
中国でそのまま20万円の給料を貰おうということ。」

 

これを、あり得ない話であるが
たとえば
日本の10倍の所得水準の外国Aがあるとして
反対のケースで想定すると
「日本においては、22歳の大卒が平均20万円程度の水準であるが、
給与水準が約10倍のその外国Aに留学していて、
卒業後、その外国Aにおいて、外国Aに籍のある会社に採用された。
当然、日本の所得の10倍の200万円/月の給料をもらう。
そして日本の支店に派遣されて、日本で働く。
結果として、大学を卒業したばかりの若者が、
日本で月給200万円で働き、
優雅に暮らそう。」ということと同じだ。

 

日本に住んでいてこんなことは考えられないが、
これが中国においてならば
こんなことが出来るのか。
できっこない。はずである。
「ラクして儲けよう」の典型だ。

 

中国での商売は、物価が低い分、どうしても安い商売になりがちで、
そこから得られる利益もその物価の低さに比して小さなものになる。
たとえば、洗車で言えば、普通の水洗い洗車が10人民元(つまり130円)だ。
中国では水道代とか人件費はいかにも安いが
しょせん売値が130円なのだから、
それ以上の利益にはなりっこない。

 

私の実感として、
商売の単位あたり利益の大きさは5分の一から3分の一が精一杯である。

 

商売の利益単価が小さいのに、
人件費だけ日本並みに出していたのでは商売になりっこない。
中国での商売は、消費者の購買意欲は大きいが
所得が低い分購買力は低く、
利益単価も低い。
低い経費、低い人件費があって初めて成り立つ。
当然のことである。

 

中国でのビジネスにおいて、日本並みの所得での現地での雇用は、
どう考えてもあり得ない。
あるとするならば、
その人が、商品の知識、技術力、
折衝能力、当事国における特殊事情の習得、
ビジネスに通用する正しい語学力、
海外拠点を自律的に運営できるマネージメント能力、
つまり
「その地において、日本の会社を“代理”(又は代表)できる能力」を
持っている場合であろう。

 

中国語と日本語が話すことが出来ても、
それは、付加価値として特別なものではなく
能力の一要素であるだけである。
特に、生活レベルでの語学力しかない場合、
ビジネスの場においては、ほとんど役に立たないといってもよく、
安易な翻訳は、ビジネスの相手に対する誤解を招くことになって、
かえって障害となる場合すらある。

 

“日本の会社を代理することが出来る能力”があれば、
日本の会社に代わって活動するのだから、
日本の会社を基本とした報酬を得ることも当然であるが、
ただ単に中国語を話すだけでは、
会社を代理するわけではなく、
日本の会社のビジネス活動の中での通訳というコストでしかなく、
コストであるならば、
そのビジネス活動が行なわれているその場の所得水準で
報酬が支払われるのが当然である。

 

ある日本の若者が、中国に留学していて
中国にビジネスを持っている日本の会社に就職を希望した。
そして、中国で働きたいと。
「働く場所が上海であったとしても、日本人が、日本の会社に就職して、
給料をもらうのだから、日本の給料が欲しい。」と言ってきた。
「仕事に対する能力は、会社に入ってから教えてもらう。」とも。

 

「物価の安い上海で、
日本の会社の会社に入って、
物価の高い日本の給料を貰いたい。
その高い給料を貰う根拠となるべき能力は、
高い給料を貰いながら、会社から教えてもらう。」
そう言っているのと同じだ。

 

今、日本は中国ブームの真っ盛りである。
とりあえず中国に行ってビジネスを始めなければ、乗り遅れてしまう。
そんなムードだけで、
たくさんの会社が、闇雲に中国に出かけていっているような風潮がある。

 

そのような、「誰でも彼でも中国、中国」のムードの中で、
理に合わない「中国での日本への就職」が、
現実にあることも事実のようだ。
そんな、不合理な就職を盲目的に受け入れているような会社は、
コストとして、中国でのビジネスに勝てる訳はなく、
当然のように敗退していくに違いない。と思った。

 

日本人であること自体にはプレミアはない。
中国人でも、日本語を話すこと自体には大したプレミアはない。
日本の会社のビジネスを代理できるだけの優れた能力があってこそ
日本での水準の報酬を得ることが出来るはずだ。

 

「日本での採用になりますか? それとも現地採用ですか? 給料はいくらですか?」
それだけにしか興味のない「中国での日本への就職」応募者に
私は、まったく興味が無い。

 

上海の車聖さんのお世話をしている日本の商社にお勤めの工藤さん。
中国語はペラペラで、ビジネスにも精通している。
ベテランであり、力のある商社マンである。
こんな方でも、上海常駐はなかなかさせてもらえない。と言っていた。

 

 

中国語が話せるだけの「中国での、日本への就職希望者」、世の中そんなに甘くないと思うよ。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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