谷 好通コラム

2003年07月19日(土曜日)

758話 “差不多”その?

タオルのテストが終わって
会議室に戻り
陶さんが私に話をする
「私は、アイ・タックさんがこのタオルの品質のことで厳しく言って来てくれて
ものすごく勉強になった。
そして、良いタオルが出来たと思う。
作っていて、これは絶対売れると思ってきたし、
私達はこの品質を絶対守っていきたい。
安定した品質を守るために、綿は上海の北西にある○○省の△▲の畑で
一番良い季節に取れた綿花を、紡織工場にまとめて買い入れてもらうことにした。
その訳は・・・・・
染色は、意外と思うかもしれないが、吸水力にものすごく影響する要素で
染色工場の社長と特別の方法でやってもらうことにした。
その訳は・・・・・
・・・・・・・」

 

私は、この段になって値上げの交渉か
まとめ買いをするので、先金が欲しいとか・・
そんな話が始まったのか
いやだな~と思ったら、まったくそんな話ではなかった
値段は提示したそのままで結構
生産ロットも今のままで結構
支払条件も最初に決めたままで結構
そんな話ではなく

 

「私達は、今回のタオルのことで
関係する工場の社長達と、真剣に品質のことを話し合って
今までに無い安定した良いタオルを作ろうと、決心した。
絶対に良いタオルを作ります。
材料もいい物をまとめ買いをしたり、色々なリスクを自分たちで被った上で
良いタオルを作ろうと、みんなで決心した。
・・・・・」

 

銭金の話は一つも出なかった
良いタオルを作るという自分たちの決心を
切々と説明するのだった
陶さんは、まじめだけが姿かたちになったような人
その真剣な話に
最初、銭金の話が始まったと勘ぐった自分を恥じた
私は
「ありがとうございます」の言葉以外に他の言葉が無かった

 

みんなで食事に行くことにした
「染色工場の社長と、木綿の紡織工場の社長
それにダンボールの会社の社長達が来ているので、食事、一緒にいいですか?」
そう、陶さんが言う
「もちろんいいですよ」と私
3台の車に乗って、みんなで近くのレストランに食事に行ったのだが
なんと、その3社の社長とは
さっきのテストの時、野次馬だと思っていた人のうちの3人であった
3人の社長とも、ハラハラしてあのテストを見守っていたのである

 

食事会は豪華なものであった
レストランの一室を使って、私、熊沢、李さん、陶さん、副工場長
そして3人の社長の全部で8人
おいしそうな豪華な料理は全部で大皿で20皿は出た
(それでも、会計は600元、日本円で約8400円、一人1000円ぐらい。安い!)

 

ところが
豪華な料理を目の前にして
みんな、なかなか箸がすすまない

 

最初に話を切り出したのは紡織工場の社長“信さん”

 

「私達は、今回のタオルのことで、
陶さんから真剣な相談を何度も何度も受けました。
陶さんの真剣さんが私たちを動かしました。
タオルに使う木綿糸の原料の綿花は、採れる産地と季節によって
大きく品質が変わります。
陶さんが何とか安定した品質が必要だと、訴えるので
私は、○○省の△△の綿花をまとめ買いすることにしました。
かなり高いものになりますが、品質の安定にはそれが一番なのです。
普段はそんなことはしないのですが、陶さんの熱心さに負けました。」

 

「へぇ~~なるほど、」

 

「中国の工業製品には、“差不多”という言葉がつきまといます。
“だ・い・た・い・でいいじゃないか”。というような意味ですが、
これからの時代は、それでは通用しないことを私達は感じています。
安いだけではなくて、
良い物を作らなくては、世界に通用しないことを肌身に感じています。
私たちが国営の会社で働いていたころは
“日本人はうるさいことばかり言う。なんでそんなにうるさいのか”と
理解できませんでした。
品質に対する認識がまったく欠けていたという事です。
ところが、みんな独立して自分の会社を作って経営を始めてみると
その意味がよく分かってきたのです。

 

製品は、価格においての競争だけではなく
つまり、安いだけでなく
製品そのものの品質に競争力を持たないと
これからは勝っていけないということを。

 

安さだけで、お互いが争っても
取れなかった方はもちろん儲からないし
注文を取った方も、安い単価なので大して儲からない
どっちにしても儲からない
儲からない仕事ばかりしていたのでは、会社としての体力もつかない
これからの国際的な競争を考えると
安いだけでは、結局競争力が無いということになってしまうのです。

 

品質が高いものを作る力を
お互いに力を合わせて持っていこうと
陶さんが熱心に進めているこの「洗車のタオル」作りに
みんなが協力することになったのです。

 

目先の儲けは考えていません。
“高品質のものを作り出す”ことに、全力を尽くしていこうということになったのです。
その辺をぜひご理解いただきたいと思います。
“差不多”とは、決別したいのです。」

 

紡織工場の社長、論理明快な“沈(シン)さん”。
業界ではインテリで有名な方らしい

 

 

染色工場の“籟さん”

 

 

「私のところでも、染色について10倍の時間をかけて処理することになった。
それも、陶さんの品質品質という熱心さが
こんなものすごく手間のかかる仕事を私にさせたのです。
全員が一致協力しなければ
アイ・タックさんの要求するものは作れないと分かったからです。
もちろん、価格は今までの加工と一緒です。

 

ダンボールと、印刷工場の“陸さん”
「そうですよ。ホントにそうですよ。」

 

 

えらい事になってきたな~
俺は、洗車用のタオルがどうしても欲しいと思って
わぁわぁと注文を付け続けただけなのに
国際的競争力がどうのこうのとか、“差不多”との決別とか
みんなが一致協力してとか
知らんうちに、えらいオオゴトになっとる
こりゃ必死こいて、タオル売りにゃいかんなぁ
しばらくタオル屋か、俺は
いつの間に、俺は陶さんをこんなにモチベーションアップしちまったんだろう
えらい事になってきたなぁ~

 

そう思いながら
目の前にある豪華料理に、今手を出したら
ヒンシュク買うよなぁ
と、グルグル鳴っている腹の虫を抑えながら聞いていた

 

今、人口12億人とも、15億人とも言われている中国が
経済を開放し
それぞれがビジネスの鬼となって、世界を相手にするようになった
今までは、その国民性から
また、国民所得の低さ=労働力・製造コストの低さを武器に
安さで勝負してきた
“差不多”でビジネスを展開してきたが
これからは、品質でも勝負をすると熱心に言っている
それが、世界的ビジネスでの戦いに勝っていく唯一の方法だとも言っている
それが一部の人のことであるかもしれないが
そこに気が付いて
世界一の商売熱心を、品質の改善に力を注いできたら
日本にとって
中国は、いよいよ本物の脅威となってくるのかもしれない

 

自分の会社よりはるかに大きな会社の社長たちを
熱心さだけで動かした陶さん
思ったよりスゴイ人かも知れんなぁ
そんな風に思ったのでした。
そしてそこに、上海がますます好きになっていく自分があったのでした。

 

 

この話しは昨日のこと
その夜、私と李さんと熊沢でBANDOに行った
相変わらずのスゴイ人出と
素晴らしい景観であった

 

 

BANDOに付く直前の高層ビル街

 

 

上海港の向こう岸、上海タワーが美しい

 

 

今日は今日で、とっても意味のあることがあった
明日の飛行機の中で書かなければならない

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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