谷 好通コラム

2001年05月31日(木曜日)

第128話 でっかい入れ物

昨日、セルフスタンドと快洗隊を併設している店を
取材に行った
そこの責任者が面白い事を言っていた

 

彼は、ガソリンスタンドを指導教育する立場で
すばらしい実績のある人
その彼がはじめてセルフ給油の店にたづさわって
今までの普通のガソリンスタンドでは
経験できなかった事を、経験したと言っている
(詳しくは6月20日発行の「キーパータイムス」に特集)

 

その一つに、お客様に対するイメージが変わったというのだ
彼曰く
「普通のガソリンスタンドでは
お客様が車に乗った状態で接客する
だからお客様とその車でワンセットのイメージを持っていた
セルシオに乗っているあの人
ベンツに乗っているこの人という具合で
高級車に乗っている人は
なんとなく怖い人のように感じていた

 

それがセルフの場合
お客様は必ず車を降りてきて、自分で給油をする訳なので
その人を見るようになって
どの人もどの人も“普通の人”に見える
どのような車に乗っているかどうか関係無く

 

その人を見るようになったら
みんな“ただのイイ人”だった

 

セルフの店で
逆に
接客の原点に戻れたような気がする」と言う

 

 

車という入れ物が
それに乗っている人のイメージまで、変えてしまっていたのだ
思い当たる事がいくつもある
入れ物は、それに入っている物のイメージに大きな影響を与える

 

昔、権力者は
権力者が権力者であるが為に
自らが権力たらん事を演出する事が必要であった
自分が「ただのオッサン」ではない事を
世に示し続けなければならないのだ

 

だから必要も無い「でっかい城」を造ったのだと思う
城は元々、砦であったが
平地にそれが造られるようになった頃から
その砦としての役割は失せてくる
勿論、あんなものに住んでいた訳でもない
城の脇にある「御殿」に住んでいた

 

領主つまり城主、お殿様
重臣、家老
上級武士
中級武士
下級武士
そして平民
その上から下への権力構造は、その社会を支えるものであった
その象徴が「でっかい城」
でっかいものは、権威と恐怖を感じさせる

 

権力構造の上部に位置する人も
最下部に位置する人も
裸にすれば“ただの人”
実際に裸にして、頭を坊主にして、並べてしまえば
絶対に見分けがつくものではないと思う
殿様だからといって、特別な「オーラ」が出ているわけではないだろう

 

権力構造は絶えざる戦いの結果として出来あがったもの
だからその権力者そのものに
人として、何らかの特別な価値があるわけではない
それは頂点から上級、下級までの権力者に同じ事
だからその権力構造を維持する為には
戦いを続けるか
それとも「権威」を創り出すこと
「でっかい城」は、その為に必要だった

 

「でっかい城」にいる殿様は
平民とは別種の存在
権威ある特別な存在であると思わせる必要があった
その権威と恐怖を根拠として、権力構造が出来あがっていた

 

 

恐怖とは「見えざるもの」に対する感情
だからかの昔
権力者は軽々しく姿を下層のものに姿を見せなかった
恐ろしいまでに「でっかい入れ物」にいる「見えざる存在」は
権威であり、恐怖であった

 

徳川時代は、情報手段が極端に乏しかった事に加え、
鎖国と関所によって情報を恣意的に遮断して来た
「見せない」「知らせない」ことと
首切り、はり付け獄門など“極刑”を「見せつける」事などによって
権力構造を維持してきた
情報操作は、権力の基本

 

現代は、それが全く通用しなくなった
みんなが、ほとんど「何でも知っている」
どんな偉い人でも
「ただのオッサン」であり、「ただのオバさん」
で“も”ある事をバラシ続ける
情報によって、みんなが、何でも「知っている」
「知る事」によって
見えざる事による「恐怖」「虚空な権威」が極端に減った
この事が実は、民主主義というものかもしれない

 

それがまたIT革命によって
別次元の情報時代に突入しようとしている
今までは、マスメディアなど大変高価な手段によってしか
広く、速く情報を世に伝える事が出来なかった

 

それがIT革命によって
誰もが、均等の機会を、インターネットの中で持つ事になった
当然、まだまだインターネットは少数派もものであり
これから将来的にも
情報手段の“一つ”でしかないだろうが
ひとつでも、すべての人が均等の機会を情報手段として持った事は
やはり革命的な事であろう

 

エントロピーの法則を引用するまでもなく
この方向は不可逆性であり、留まることは無い
すべての人が、すべての人に、何でも情報を発信できる
その事が、ビジネスのチャンスでもある

 

「見えざること」が「恐怖」につながり「権力」を創り出し
「知らない事」とよって「敵」を造り、「戦争」が始まるという悲劇も
無くなっていくのかもしれない
たぶん平和のためには劇的に役に立つだろう

 

しかし、世の中から権威が喪失していく時に
権威あるいは道徳による歯止めがなくなっていくときに
人間は、自らを律する事を強く求められていく
どれだけの人が「自立した個人としての平和」を維持できるのだろうか
また、虚空の情報も無制限に流される
本当の情報と、勘違いさせる為の情報を見分ける事が出来るだろうか
前話のごとく
かえってその事にも不安に感じる

 

しかし、良きにしろ悪しきにしろ、流れは不可逆的であり
後戻りは無い
どうなっていくのだろうか

 

人は案外、こういう事がかえって不安になり
逆に、違う意味での「お城の殿様」を求めていくのかもしれない
ナチズム・全体主義の盛りあがりの兆しを含め、不安も残る

 

もう一つ「でっかい入れ物」が最近多い
「居酒屋!」

 

 

でっかい入れ物、それも物々しい立派な入れ物
張子の虎のように、そんなものに権威は感じないが
お城のようにでっかい
たいそうな建物の中での200円の串カツも良い
平和で良い

 

(今日は書いているうちに止まらなくなり
文章がべらぼうに長くなってしまいました。
で、昨夜は途中でつい寝てしまい1日遅れの投稿になりました。
ホントにシンプルな文章に戻らなくてはイカンと、反省しております。)

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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