谷好通コラム

2003年01月01日(水曜日)

今日は元旦
朝起きて、おせちを食べて、会社にちょっとだけ行って
あとはゴロゴロ
テレビつけっぱなしの、ダラダラとした一日を過ごした
こんな一日は、多分一年の中でこの日だけであろう
何もしないのは、体に良くない
朝から何かを食べているような気がする

午前中に会社に行った時に気が付いた
会社の斜め向かいにある台湾料理屋さん｢福泉｣が、今日も営業していた

私たちがいつも昼ごはんを食べに行く店だ
特に私は、事務所にいれば
80%以上の確率で、ここで昼食を食べる

たしかに“年中無休”と書いてあったが
元旦までやるとはチョッと驚いた

今年の9月8日のコラム
「512話一人がいい場合」で書いたこの店では
料理の注文聞きから、配膳、片付け、会計まで“一人の女性”がやっている
厨房に2人の料理人
女性は、そのどちらかの人の奥さんなのだろうと想像した

多分、台湾人であろう
よく会うので、すごく親しいが、名前を聞いたことはない
だから、もちろん素性も聞いたことはない

午前11時から深夜1時までが営業時間で、14時間営業だ

一度だけ夜遅くこの店に入ったことがある
「夜はどんな人がやっているかな」
と思ったら
やっぱり、店内はあの人が一人だけで切り回していた
昼間とまったく同じであった

多分この人は、毎日
午前11時前に店に出て、深夜1時の閉店過ぎまで
働いているのだろう
そして、元旦も含めて年中無休なのだろう

｢一体いつ休むのだろう｣
思わず口に出た

この女性(名前を知らないのでAさんとする)は、すごいのだ!

日本語はほとんど喋れないが
「笑顔と一生懸命さ」だけで
まったく暇であった店を、見事に混雑店にしてしまっている
それは驚きの人なのである

この店は、経営者が一度変わっていて
以前の人は、注文をしても料理を間違うのは当たり前
ハッキリ言って無愛想であった
料理も、食べるたびに味が変わるいい加減なものであった
開店して直に、客の数はどんどん減り
やがて店を閉めた

そして少しだけ改装し、代わって店を出したのがAさんたち
料理自体、不味くはないが、特に美味いわけでもない
普通の中華料理
味はとりあえず安定していて、いつ食べても大体同じ

改装開店当時は、あまり客は入っていなかったが
あれから1年ぐらい経った今は
昼飯時には、座れないこともあるぐらいの大繁盛店になっている

そんな時のAさんは、店の中を小走りに動き通しだ
手際もいい
何より、笑顔がいい
いつもニコニコしているわけでもないが
なんかのポイントで｢ニコッ｣と自然な笑顔を見せる
それが実に感じがいいのだ

「大したものだなぁ」と、感心していた
「自然な笑顔が接客の基本なんだなぁ、やっぱり」とも

そのAさんが自分の生活のほとんどを、店に出ている
ホントに一体いつ休むんだろう

台湾から出てきて
一旗上げるために、多分、全財産はたいて店を出したのだろう
だから一日たりとも休みたくない
そんなところか

そこまで賭けてやっているから
お客さんが店に来てくれるのが、本当に嬉しい
笑顔が、ものすごく自然なのは
お客さんに、本当に感謝しているからだろう

思い出してみれば、18年前に商売を始めた頃
私たちも確かにそうだった
一人一人のお客様が、当たり前のように嬉しかったし
休みたくなかった
夜遅くまで店にいても、まったく苦にならなかった

「初心」というものを、Aさんから思い出させてもらった気がする

私たちは、今
マネージメントとか、労務管理とか、販売促進とか、企画とか
そういうものに気を取られ過ぎ
「お客様に感謝する気持ち」
この商売の原点を
つい、おざなりにしがちになっている

元旦に際して、わが肝に銘じる
「Aさんの笑顔が自分にあるか」
「お客様に対して、本気で“ありがたい”と思えるか」

元旦に際して
我が肝に、厳に銘じる

夏の頃、512話のために撮ったAさんです。