谷 好通コラム

2003年04月09日(水曜日)

684話 取った取られた

「取った取られた」という話が、商売の上で出ることがある

 

取った取られた、とは、盗った盗られたに通ずるのか
こんな話になると、お互いに、必ず感情的な話になってしまう

 

自分が持っているものが、不本意に人の手に渡ると
取られた、盗られたということになる

 

それが自分の所有物でもないのに
自分の商売に、他人が関わってくると
取られた、盗られたとなる

 

かの昔、私が21歳の時
初めて、ガソリンスタンドの所長をやらせてもらった
80坪程度のちっぽけなスタンドである

 

21歳といえば怖いもの無し
世間ずれしてもあまりしていない頃で
初めての自分の店を持たせてもらって、私は張り切っていた

 

その頃勤めていた会社は、新興の会社で
社長も若く、会社全体が血気だっていた

 

私が、所長として赴任した時
その店は、ガソリンの月間販売量30kl(30,000?)で
当時、世間のガソリンスタンドの平均月間販売量の半分程度であり
いわゆる弱小スタンドであった

 

そのスタンドの運営者がさじを投げて
私の会社がその運営を引き受け、その立て直しを私に託されたわけだ

 

私は、張り切った
近所のガソリンを使ってくれそうな建設屋さんとか、自動車屋さんとか
商売をやっている色々な会社に
猛然とセールスをかけた
「今、お宅が入れているスタンドより、2円お安く入れさせてもらいます。」
「洗車サービスさせていただきます。」
とか、とか
あらゆる勧誘の言葉を使ってセールスをした
自由社会なのだから
自分の店は、販売業なのだから
一生懸命、増販努力をすることは正しいことだと思っていたし
世間の人に、お安くガソリンを入れてもらおうというのだから
正しいことをやっていると信じていた
会社も、「かまわん、やれっやれっ」と
私を煽った

 

色々な会社にせっせと勧誘セールスに行ったが
なかなか取引にまでこぎつくことは出来なかった
長年の取り引きのあるスタンドから
大口の客を引き剥がすのは、簡単ではない

 

その内に、近所のスタンドから抗議の電話が掛かってくる

 

「いい加減にセールスやめなよ。
あんたが、安くセールスしても
こっちがガソリンの値段を下げさせられるだけで
結局、客は変わらないんだから、
値段が下がるだけで、みんな迷惑なんだから、やめろよな!」

 

と言う内容
私はショックであった
セールスに行くと
今にも取引を私のところへ変わってくれるようなことを言って
値段を交渉されるので
思い切って安い値段を出した

 

ところが
相手には、スタンドを変わる気持ちなど全く無く
ただ単に、今のスタンドの値段を下げさせるために
私に安い値段を出させたらしいのだ

 

悔しい

 

しかし、そうならそうで
絶対に客を取ってやると、しっつこくセールスの客先まわりをやった

 

かなりしつこくやったので
相手とも、だんだん親しくなってきて
ぽつぽつと客先が、今までのスタンドを変えて
「こちらに来る」と言ってくれるようになった
(昔は、法人はすべて掛売りで、燃料を入れるスタンドを決めていた。)

 

そんな客先が、だんだん増え
また、現金客も増え
1年後ぐらいには、30klだった出荷量が100klぐらい出るようになり
私は、鼻高々であった

 

それぐらいの頃になると
周りのスタンドが騒ぎ始め
組合のブロック会でも、問題として取り上げられるようになった
私は「人の客を取った=盗った極悪人」である
として

 

私は、客を増やすのは商売として当然であって
それが私の仕事であると思っていたので
何を言われても、それは負け犬の遠吠えだと勝手に思い
放っておいた

 

私が知らぬ顔をしているので
組合の人たちは本社に文句を付けに行くようになって

 

ある時
本社から年配の上司が私の店にやってきて
「今からペナルティを払いに行く」と言う

 

「ペナルティ?」
私には何のことだか分からなかった

 

その昔、組合では
「業界の繁栄のために、人の客を盗らないようにしよう
そんなことをやっていると、値段が下がるだけだから」
との申し合わせがあり

 

固定客が他のスタンドに移動した場合には
取ったスタンドが、取られたスタンドに“ペナルティ”を払う
平均月取引額1か月分であったり
悪質な場合には
2か月分であったり
とにかく、客を盗った場合には、盗られた先にお金を払うというもの

 

そんな取り決めがあることなど知らなかった私は
「あのお客さんは、僕が何十回も通って、
やっと気に入ってくれて変わってくれたんです。
ペナルティなんて払う理由ないですよ」
と、上司に食ってかかった

 

上司は困った顔をしている
たたみかけるように
「商売敵にお金を払うなんて、絶対おかしいですよ。
今まで、がんばってセールスした僕は、一体なんだったんですか」
と食い下がった

 

上司いわく
「世の中には、理不尽なこともあるんさ
組合から追い出されるのは、会社としても困るし、
ここは、金でカタがつくんだったら、その方がいいんだよ
君も歳をとれば、判る時も来るって」

 

と、ニコニコ笑って
商売敵のところへ何十万円かの小切手を持っていった

 

私は、悔しくって悔しくって
しばらくの間、その上司と口も利きたくなかった

 

 

時は過ぎ
私が23歳になった頃
そのちっぽけなスタンドでの実績UPを買われて
「本社スタンド」の所長に抜擢された

 

そのスタンドは、軽油をたくさん売っていて月に1200kl
ガソリンも200klぐらい売っていた

 

今の時代は、セルフスタンドなどがたくさん出来て
ガソリン200klぐらいでは、全然たいした数量ではないが
28年前の当時、200klは大きな出荷数量のスタンドであった
加えて軽油が1200kl
名古屋市内のスタンドでは、最大級の店であった

 

そんな店の所長を任された私は、鼻高々以上の有頂天

 

そんな時、お客を取られたことがある
たいした数量の客先ではなかったが
それを取った相手が、自分の会社に燃料を卸している会社のスタンドA
スタンドAからして見れば
うちはお客であり、流通の関係で言えば「親子の親」に当たる

 

親が子供の客を取るなどとんでもない話
私はスタンドAの所長を呼びつけて
猛然と抗議をした
「冗談じゃない、子供から客を盗る親がどこにいるですか」

 

私より20歳くらい年上の、スタンドAの所長は
「だって、お客さんが、うちで燃料を入れたいと、向こうから言ってきたんですよ
お客さんは、あなたの店のサービスが気に入らないって
はっきり言っているんです。
それでも断れますか?」

 

その言葉は、私の怒りに火をつけた
自分の店のサービスが悪いから、客が盗られた?

 

「そんなこと、いちいち聞いていたら、どんな客でも盗れるじゃないですか
私が、あなたの客を盗っても
あなたの店のサービスが悪いと客が言っていた、と言えば
私は、あなたの客を盗ってもいいんですか?!」

 

自分が若いので舐められているのではと
被害妄想もあったのであろう
私は、大きな声で怒鳴りまくった

 

スタンドAの所長は困って
後日、私の例の上司に相談した

 

そして、上司は私に言った
「あんまり意地になっても、いい事無いから
いい加減に折れてやりな」

 


「じゃあ、ペナルティ取りましょうよ」
上司
「あのスタンドは、うちの親にも当たる会社なんだから、そんなこと出来んよ」

 

私は、21歳のときのことと全く逆のことを言ったのだ

 

そんなことがあって
私は、客を取った取られた
盗った盗られたという話には、何が正しいのか
正しくないのか
あるいは正しい事なんて無いものなのか
さっぱり分からなくなってしまった

 

客は、その店の所有物なのか
はたまた、客がどの店に行って何を買おうが客の自由なのか

 

一般的には、もちろん後者であろう

 

しかし
かつての大昔のガソリンスタンドでは
「客を盗った盗られた」「ペナルティだ」などと
そんな奇妙なことが公然と行われていたのである

 

今では、どのガソリンスタンドで、どのお客様が燃料を入れようと
誰も文句など言うものはいない
たくさん売れている店が
あるいは高付加価値を生み出して、きちんと利益を上げている店が
お客様からの高い支持を受けている店として
高く評価される

 

商売としては当たり前のこと

 

しかし、閉鎖的なマーケットの中では
「盗った盗られた」が起きることは、狭い商売であるがゆえに
死活問題になることもある

 

必ずしも、自由だ自由だ、では済まない事も多いのだ

 

そのケースによって
事情が複雑であろうが
「取った取られた」は、永遠に私を悩ませるような気がする
頭が痛い

 

 

昨日の夜遅く札幌に入って
一日中、札幌で仕事をした
今はその帰りの飛行機の中

 

少し元気が無い

 

実は、カメラを札幌のファミレスに忘れてきてしまったのだ
くやしい~~~
だから、今日は写真を載せることが出来ないのです (-_-;)

 

札幌は雪が降っていて、大変寒かった
北海道はきびしい
決して舐めちゃいかんとしみじみ思ったのです。

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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