谷 好通コラム

2003年05月22日(木曜日)

714話 B767が消えた

また、飛行機に乗っている
12:05発、名古屋⇒福岡、昨日あわてて搭乗カウンターで予約したあれだ
機種はエアバスA-321
195人乗りの機体である

 

ちょっと以前までは名古屋⇔福岡の便の機体は
ボーイングB767がほとんどであった
B767は
234人座席の“B767-200”と
288人座席の“B767-300”があって
日本で一番よく使われている中型の機体である

 

それが前回のダイヤ改正から
今乗っているA-321
もう少し小さい166人座席のA-320
もっと小さい126~133座席のボーイングB737-500
そんなジェット旅客機としては小型に類する機体が
名古屋と全国の主要都市を結ぶ路線の中心機体となった

 

大まかに言ってしまえば
1機当たりの座席数が、ざっと250座席クラスから170座席クラスに
減った感じだ

 

国際線は今、SARS騒ぎで壊滅的な打撃を受けているが
国内線は、まだそれほどでもない
しかし、それでも減少傾向であることは間違いない
加えて
JAL日本航空と、JAS日本エアシステムの経営統合により
国内線での競争が激しくなることも違いない

 

競争に勝つためには
コストダウンが一つの大きな命題だ
人員数・人件費の削減、業務の効率化など
経費節減のための企業努力も必要だが

 

利益率の向上も大きな問題である
飛行機の運航による営業利益は

 

まず収入である
?運賃収入
から

 

そして経費である
?燃料費
?飛行機の減価償却、整備費などのランニングコスト
?パイロット、キャビンアテンダント
?空港使用料
?地上要員一般業務の人件費
?地上機材の償却、ランニングコスト
?集客のための広告宣伝費など、営業経費
?天下り族のための給料(いわば、監督省庁へのミカジメ料か)

 

などを引いたものが
営業利益となる

 

????については、機種を小さいものに変えても
経費の金額はほとんど変わらない

 

しかし
?燃料費
機種を小さなものに変えることによって大幅な経費削減効果がある
小さな機体=軽い機体=小さなエンジン
小さな機体を使っての経費節減効果は、ここが一番大きい

 

?飛行機の減価償却、整備費などのランニングコストは
小さな機体と大きな機体では、調達価格が大きく違うので、償却も減る
整備費は、小さな機体の方が点検箇所数と部品点数が減るので
経費削減効果出る

 

?パイロット、キャビンアテンダント
パイロットは、500座席以上のジャンボジェットでも
20人乗り程度の小さな飛行機でも
2人乗っていなければならないし
2人乗っていればいい

 

当然、ジャンボ機と小型機のパイロットでは給料は違うだろうが
いずれにしても2人が必要
キャビンアテンダント、いわゆるスチュワーデスさんは
大きな機体と小型機では人数がまるっきり変わる
小型機にすることによる経費節減効果はスチュワーデスさんの数が減らせる程度
その効果は思ったよりたいしたことは無い

 

?の空港使用料については、私はまったく事情を知らない
しかし、軽飛行機とジャンボが同じ使用料であることは考えにくい

 

そして
????については
小さな機体にすることによる節減効果にはほとんど関係ない

 

だから
機体の座席数が2倍になっても、コストは2倍にはならない
大型機であればあるほど、乗客一人当たりのコストは下がると考えてもいいのだ
逆に小型機であるほど乗客一人当たりのコストは高い

 

 

では
順序は逆になるが
?の運賃収入についてはどうか

 

使用機材を小型化すれば、当然そのキャパシティは小さくなる
しかし、乗客一人当たりの運賃は同じなので
大型機でも、小型機でも
その時に乗った客数によって比例した収入になるのだ

 

たとえば
「100座席の機体・A」と、「200座席の機体・B」があるとする

 

そして
・ある航路の運賃が1人1万円だとして
・その航路の機体・Aの運行コストが1航路50万円だとする
・ちょっと大型の機体・Bの運行コストは1航路75万円だとする

 

その航路に、200人の乗客が来た場合には
200座席の機体・Bは全員乗せることが出来
200人分の運賃収入200万円が得られる
収入200万円―コスト75万円=営業利益125万円

 

100座席の機体・Aは100人しか乗客を得ることが出来ず
みすみす、あと100人分の運賃収入を放棄するしかない
収入100万円-コスト50万円=営業利益50万円

 

200人の利用者があれば
より大型の機体・Bは、機体・Aの利益の50万円の2倍半、125万円を得る

 

利用客100人しか来なかった場合はどうであろうか
機体・A
100万円-50万円=50万円
機体・B
100万円-75万円=25万円

 

今度は逆に、小型の機体・Aの方が、大型機・Bの倍の利益が出ることになる

 

もっと利用客が少なく、50人しか来なかった場合は
機体・A
50万円-50万円=0万円
機体・B
50万円-75万円=マイナス25万円

 

要するに搭乗率によって、その運行の利益が決まってしまうのだ
たくさん利用客が来た場合のことを考えて
欲張って大型機を配備すると、利用者が少ないときには
搭乗率が下がって赤字になってしまう

 

しかし、ではということで
小型機を配備しておくと
繁忙期の稼ぎ時に、小型機ではキャパシティが少なく
ドカンと稼いでおくことが出来ない
この繁忙期での稼ぎが、閑散期の赤字を埋めていることを考えると
暇な時の赤字を少なくしようと小型機にしてしまうことによって
シーズンを通してのその路線の収支は悪くなってしまうことも考えられる

 

一番いいのは
繁忙期には、大型機を投入し
閑散期には、小型機でしのぐ
そんなことが出来れば都合がいいのだが
どの路線も、繁忙期と閑散期は同じような時季なので
そう調子よく機体繰りをすることは出来ない

 

航空会社が
効率のいい経営を目指した場合
どれぐらいの大きさの機体を、どのような構成で揃えるのかが
大きなポイントになってくる

 

だから
大きな需要が見込める路線
たとえば東京⇔福岡、東京⇔札幌など
いわゆるドル箱路線と呼ばれている路線には
すべての航空会社が
B747、B777など500座席クラスの超大型機をどんどん投入してくる

 

逆に
名古屋は、絶対的な客数が見込めないということになったのであろう

 

234人座席の“B767-200”と
288人座席の“B767-300”から

 

195座席のA-321
166座席のA-320
126~133座席のボーイングB737-500
170席クラスのMD-90

 

 

そんなジェット機としては小型に類する機体が
名古屋と全国の主要都市を結ぶ路線の中心機体となった

 

名古屋⇔新潟・帯広など
もともと客数の少ない路線は
20~50人乗りのビジネスジェットクラスの機体か、プロペラ機になっている

 

名古屋空港から“B767”が消えた
その代わりに、もっとキャパシティの少ない小型のジェットが来た
名古屋空港に対して
あらゆる航空会社が同じようなことをしてきた

 

名古屋の路線は
需要が少ない、あるいは減ったと
全航空会社が突きつけているわけだ

 

航空会社は
「名古屋空港」を「ローカル空港」と見切ったのだ

 

 

今、愛知県の常滑沖に、大型の中部新国際空港が建設中である
これによって空港としてのキャパシティが何倍かになる

 

小型機ばかりが発着する「超大型空港」になるのか
笑える空港として
世界でも珍しい存在になるに違いない

 

航空機の大きさと同じように
過剰なキャパシティは、すなわち赤字を意味する
その赤字を、多分、私たちが払っていくのであろう

 

このコラム
途中から
福岡からの帰りの飛行機の中で書いた

 

雲の間から夕日が見えた

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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