谷 好通コラム

2003年07月14日(月曜日)

753話 気が重くなる話

スカッとした気分になることがあっても
次の時にはすっかり気が重くなってしまうこともある
いいことばかりは続かないということ

 

社長って仕事
決して、いい事ばかりではないのだ

 

私は社長になってからもう約20年になる
20年前に独立したとき
部下はたった一人であったが、社長は社長
1万人の会社の社長でも、2人の会社での社長でも
社長は社長なのだ

 

だから「社長」っていうのは、そけだけでは偉くも何ともないのだ
しかし、20年前
はじめて“代表取締役”の名刺を作ったとき
私は、うれしくってしょうがなかった
ものすごく偉くなったような気がしたからだ

 

名刺を見ただけでは、どういう会社の社長なのか分からない
「たった2人の会社の社長」って書いてあるわけではないのだ
社長は社長

 

会社を作って、SSを開業してしばらくして
ゴタゴタが終わったころ
いっぺんやってみようと思っていたことを実行した

 

飲み屋さんに行って(女の子がいる飲み屋さんなのだ)
「社長の名刺」を出すのだ

 

「え~~ッ、あなたって社長なの?」
「すてき~っ」
なんて、言って見られたかったのだ

 

それで、どこの飲み屋さんに行ったか、どうしても思い出せないのだが
とにかく、どっかの繁華街の飲み屋さんに行ったことは間違いない
誰か友達と一緒に行った(誰と行ったのかも思い出せない)
いずれにしても、どっかの居酒屋で飲んで
酔って勢いをつけて
いよいよ飲み屋さんに行ったのだ
待望の、女の子がいる飲み屋さんに

 

しかし馴染みの店などあるわけが無い
慎重に、慎重に店を選んだ
店に入ってしまってから、そこがおばんの巣であったりしたら
目も当てられない

 

私はそのころまだ32歳
「社長なのっすてき~~」と行きたいわけだから
その相手がおばんでは、いかんである
一軒の店に入った、なかなかいい店である
(何がいいのか分かってもいないのだが)
若いお姉さんが隣に座って、みんなで酒を飲み始めた

 

そして、おもむろに“名刺”を出した
代表取締役の名刺である
・・・・・・
「はぃはぃ、ありがと」
・・・・・
だけであった

 

私は傷ついた
せっかく鼻高々で代表取・・・の名刺を出したのに
「はぃはぃ、ありがと」
だけとは

 

考えてみれば、「社長」なんて掃いて捨てるほどいるのだ
私のような
見るからに貧乏会社の社長なんかより
バブル真っ最中のそのころは
湯水のように接待交際費を使う大企業の社員の方が
よっぽど金払いの良い“上客”なのであったのだろうか

 

私はそれから、飲み屋で「社長、すてき~」なんてことを言われたいなどと

 

二度と思わなくなった

 

いい勉強をした
馬鹿な貧乏社長の、気が重くなる思い出である

 

 

もう一つ傷ついた話
会社を興して、すぐ銀行との取引をしなくてはならない
私は、知り合いに紹介してもらったO信用金庫に行った
信用金庫では、零細企業である私たちのお相手は、たいてい次長さん
融資担当の次長さんが窓口になる

 

O信用金庫の▽■次長
私のことを、かならず「大将!」と呼ぶのだ
社長とはどうしても呼んでくれない
「大将!お待たせしました。」
「一つ積み金定期でも始めてくれませんか、大将!」

 

私は、どうしてもこの「大将!」が、いやであった

 

「俺の会社、とりあえず株式会社なんだぞ、社長と呼べよ。大将って言うなよ」
と、銀行に行くたびに思って
とうとう、H信用金庫に取引を切り替えてしまった
アホなプライドを持っていたのだ

 

今考えても、顔が赤くなってしまうような
気が重くなってくる思い出である

 

肩書きで
本当の自分より偉く思われたいとか
お金持ちに思われたいとか、そんなことを思ったのは
自信の無い人が好んでブランド物を持ちたがって
自分の自信の無さを補おうとする
そんな、誰から見ても見透かされてしまうような、つまらないものであった。

 

肩書きとか、学歴とか
権威じみたもの
そんなものどっちでもいい
何を出来るか、何をしようとするのか、何が実現できるのか
それが肝心

 

権威じみたものといえば
印相印がある
印鑑は、ただ単に「サイン」である
本人だけが書ける「サイン」に対して
印鑑は、代理の人間でも
本人の承諾があることを証明できる便利なサインである
だから、分かり易く、ちゃんと読める印鑑がいいと思っている
その印を打った書類を受け取る人も安心できる
固有の印ならばそう簡単に偽造は出来ないし、やろうと思えば
どんなに複雑な文字にしたって偽造なんてやれてしまう
かえって、みんながはっきり読める字のほうが
偽造しにくいとの話を聞いたこともある

 

グチャグチャと、あとで取ってつけたようなウンチクをつけて
わけの解からない字にしてしまっている印鑑をありがたがるのは
私にはナンセンスとしか思えない

 

ましてや象牙を使うなんて自然保護の観点からも
とんでもないことで
自分の自信の無さを、そんなものに頼るのは
危険であるとすら思っている

 

私の個人の実印は
18歳のとき、18万円の中古車をローンで買うために造った印鑑
たしか3,000円のもの
34年以上何の不自由も無く
会社を始めてから何百回ともなく資金調達のための借金の
その書類に個人保証として、その印鑑を数限りなく押してきた

 

会社の印鑑だって20,000円ぐらいで作ったもの
何千枚もの小切手、手形、通帳からの出し入れ、申し込み書、契約書
そして、借金のための膨大な書類に印鑑を押してきた
多分、何万回も押してきたのであろう
印鑑の価値は
それを押す人間の目的の価値の高さが決めるものであって
印鑑に彫ってある文字とか模様が決めるものではない

 

 

そんなしょうもないものに
人から援助してもらった大切な起業資金の
かなりの部分を、しかもこそっと、使ってしまった馬鹿な・・・の例もあった
ずっと以前のことだが、まったく気が重くなる話である

 

 

私の名刺
今では、多くの会社がそうなってきたように
自分の会社のパソコンで作っていて、自由自在である

 

今まではみんなとまったく一緒の名刺を使っていたが
最近、使っている名刺
調子に乗って
キーパーのリーフレットに使っているCGの漫画の人形を
かわいかったので載せてしまった

 

 

社長の名刺としての権威がなくなってしまうのでは?
イエイエ
そんなことで無くなってしまう様なものなら
最初から無かったということですよ

 

スタッフ諸君、うらやましいだろ~~
藤内さんに頼めば、造ってもらえるよ。

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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