谷 好通コラム

2004年04月25日(日曜日)

940話 バベルの塔より

陳さん「社長、話、聞いてくれますか?通訳の人もお願いします。」
私「えっなんで、陳さん日本語喋れるんじゃなかったの?」
陳さん「少しだけです。話が、出来ない。」

 

陳さんは車聖さんの社員。
展示会の手伝いをするように言われて、来てくれている。

 

車聖さんとは、
正確には「上海車聖商貿発展有限公司」という上海の会社だ。

 

中国でのKeePre販売総代理店になることと、
快洗隊の中国での本部になることを強く望んでいる。

 

会社もしっかりしていて、
社長のandyも大変勉強熱心であり好感を持ち、良い相手だとは思っているが、
932話に書いたように、
販売は「競争原理」が原則であると考えているので
私は中国での総代理店を作るつもりはなかった。

 

しかし、車聖さんの熱心な働きかけがあり、
しかも、近々に2軒の快洗隊の構築が進んでいることも評価して
“上海市での総代理店”という線で折り合おうと考えていた。
それも販売額を保障してもらう事が条件。
車聖による上海でのKeePre製品の販売目標金額を達成できれば
総代理店を継続するが、
未達成であれば、その権利は自動的に消滅するというきつい条件付である。
快洗隊についても同様。

 

話の概略が同意したとき、私はショーで手伝いを出してくれるように車聖に頼んだ。
そして、来てくれたのが“陳さん”
普段は経理の仕事をしていると誰かから聞いた。

 

陳さんは若い人を2人連れて、ブースを設営の時点から手伝いに来てくれた。
しかし、なぜか最初からもめた。
私は「ロゴがあれば貼ってもいいですよ」と言ってあったので
陳さんはロゴを持って来ていたのだが、
ロゴの下に社名も貼ろうとする。
「ロゴと社名はいつもコンビニなっているから」と言うが、

 

ブースにはバカでかいKeePreのロゴが入るが、
アイ・タック技研とは隅にチョロッと入るだけで、
そこに車聖さんの正式社名を入れたのでは、このブースは、
どう見てもその会社の主催になってしまう。
「このブースは私たちの会社が出しているものだ。
車聖さんの会社名を貼ったら、車聖さんのブースになってしまう。
会社名を貼ることはダメです。」
そう言ってたしなめた。

 

しかし、ブースが出来上がる頃、私がいない間に社名が張り出されていた。
私はカチンと来て
「さっき言ったでしょうが、社名は張るな!貼るならロゴも全部取ってくれ!」
かなりきつく言ったので、
陳さん達は、慌てて発泡スチロールで作った社名を剥がした。
「何だあいつら、タチが悪いな」

 

私はそれですっかり陳さんのイメージが悪くなってしまった。

 

次の日
ショーが始まったが、
押し寄せるお客さんたちに積極的に説明に行く陳さんと二人のスタッフたちに
「あなたたちは商品のことを知っているわけでも、
使ったことがあるわけでもない
説明は私達がするから、あなたは、パンフレットを配っていてくれればいい」
そう言って、彼らを邪魔にした。

 

ショー2日目
この日は、前日の二人のスタッフではなく、
若い女性スタッフが二人、陳さんと一緒に来た。
陳さん「二人とも昨日パンフレットで商品勉強しました」
と、そのうちに
一般の人達のための開場時間が来る30分も前に、
出展者と思われる人達が、私たちのブースに何人もやってきた。

 

今度のショーでは入場者が思ったよりも少なく、盛り上がっていなかったのだが、
私たちのブースだけは、びっくりするほど人が集まって盛り上がっていた。
だから、同じ出展者たちが開場前に、
どんな商品なんだろうと興味をもってやってきたのである。

 

その人達に、陳さんが連れてきた若い女性スタッフが、
がぜん説明を始めたのだ。
同じ出展者であるので、競合の相手もいる。
前日にそれを知った私たちは
ほどほどに対応することにしていたのだが、
それを知らない彼女たちは、嬉々として一生懸命説明する。

 

ちょっと手が空いた時に、私は彼女たちを呼び出した。
「君たちは、私たちの商品の事を知らない。
知らない者が、知っているように説明してはだめだ。
パンフレット読んだぐらいでは知っている内に入らない。
君たちが商品説明をすることは、一切許さない。いいね!」

 

彼女たちの表情がこわばった。

 

「しかし、あなたたちの熱心さ、積極性は立派です。
私たちのスタッフにも見習うように言った。ありがとう」
そう言ったとたんに
彼女たちの目が潤んだ。

 

そして、私達のスタッフには
「彼女たちは、とにかく売り込めと言われているのだろう。
陳さんが食わせ物なのかなぁ。
彼は、しきりに『私達が総代理店で、私達の会社を通して販売します』と言っているし」と話した。

 

陳さんと彼女たちは、言われたとおりに
説明にあまり出てこず、通行人にパンフレットをニコニコと配っていた。

 

ショー3日目
この日来たのは、陳さん一人。
「昨日、会社で会議をやって、私一人で来ることにしました。」と
陳さんはたどたどしく言い、おとなしくパンフレットを配っていた。

 

私はこの日、昼から、車聖の社長と会議をすることになっていた。
昼近くなって、
陳さんが私に話しかけてきた。

 

陳「社長さん、話を、聞いてくれますか?通訳の人もお願いします。」
私「えっ、陳さん日本語喋れるんじゃなかったの?」
陳「少しだけです。話は出来ません。」

 

通訳として励さんを伴って、
3人で舞台裏に行って話をした。
励さんの通訳
「アイ・タックさんに迷惑をかけて本当にすいませんでした。
私たちは、アイ・タックさんのショーに少しでも役に立つように一生懸命やって来いと
会社から言われて来ています。
昨日の彼女たちは、前の日に社長から商品のパンフレットを使って
特訓をやりました。私もそうです。
社長から、色々叱られましたが、何故叱られるのかよく分からないまま、
今日までやってきました。
本当にすいませんでした。」

 


「私は、陳さんが日本語が分かっていて、私が言うことも理解していると思っていた。
だから、なぜ“やるな”と言ったことを、無視してやろうとするのか、
腹が立っていた。
私の行っていることが分からなかったら、何故聞かないのか?」

 

陳さん
「すいません。何とか、一生懸命やらなければ思って」

 

その後、車聖の事務所に行って社長と話をした。
ショーでもめていることを社長はすごく気にしていて、
最初から、その話が始まった。
社長と話すときは、日本の商社であるミヤカワさんの工藤さんという
ベテランが通訳をしてくれる。

 

よくよく話を聞くと、
陳さんたちは、前もってアイ・タックの商品に対する勉強をしていて
特に2日目の彼女たちは、
前夜、急遽3時間の特訓を受け、
そのあとパンフレットの内容を全部、丸暗記したという。
そして、気合を入れてやってきたのだと言う。
1日目のスタッフの商品知識が足りないからと叱られたと思ったのか。

 

たくさんの話をして
誤解が解けた。

 

私達が車聖のスタッフに期待していたことと
彼らが持ってきた意気込みが、完全にすれ違っていたのだ。

そして、ほんの片言が話せるだけであった陳さんのことを
私はある程度日本語が理解できるものと思い込んで、抗議をしたり、説教をした。
それを陳さんは、その勢いに押されたのか
「ハイ、分かりました。」と言ってしまった。

 

そこから、すべてのズレが生じて
私は車聖さんに対しての信頼を失いかけていたし、
車聖さんも、アイ・タックの社長を怒らせてしまったので、
上海での総代理店の話は壊れてしまったと思い込んでいた。

 

 

言葉が違うことの壁は、思ったより大きいもので、
いくら通訳がいても、
日常の話では問題なくても、キチンとしたビジネスの話になると
「へ、に、を、は、が、」など助詞が少しでも狂うとまったく意味が違ってしまう。

 

特に中途半端にしか相手の言葉が分ない人は、
相手の行っている事がきちんと分からないまま、思い込みで物事を進めてしまい
とんでもない方向に行ってしまう事もある。

 

誤解が解け、
そういう目で陳さんを見ていると、
本当に一生懸命、コツコツと仕事をしているのが分かる。
陳さんは表情が豊かな方ではないので
誤解してしまうと、そのコツコツさがずうずうしさにも写ってしまう。
見方が変わると、
随分違って見えるもので
私は、急に陳さんが好きになって、何度も握手をした。
涙がこぼれそうであった。
何がどうしたのか分からない陳さんは、変な表情で笑って握手を受けていた。

 

言葉が分からないまま、誤解が進むと
決定的に、お互いの理解をなくしてしまうことだ。

 

 

どこかの神話で「バベルの塔」と言う話がある。

 

その昔、世界中の人間達は共通の一つの言葉で暮らしていた。
戦争も、争いごともなかった。
ところが、世界の人がとんでもないことを考えた。
神様が住む天空に行って見ようと、うんと高い塔を作ろうというのだ。

 

高い塔を作って、天空に行き
神様と一緒になろうとしたのだ。

 

人間達は、バベルの地に集結して、塔を作り始めた。

 

最初は、「そんな事は出来っこない」とタカをくくっていた神様たちであったが、
人間たちが一致協力して作り始めた塔が、どんどん高くなってくると、
神様たちは不安になってきた。

 

そこで神様は、ちょっとした悪戯を人間達にした。
人間たちの話す言葉を、民族ごとにバラバラにしてしまったのだ。
人間達は、今まで誰と話をしても同じ言葉なので理解し合い一致協力していたが、
神様の悪戯で、お互いに言葉が通じなくなってしまった。

 

言葉が通じなくなったら、あちらこちらで争いごとが始まった。
相手の言っている事が分からないので、
皆が勝手なことをやり始め
お互いのやっている事の利害が食い違ってきて、
腹を立て、暴力に訴える者まで出てきて、やがて戦争まで始まった。

 

それから人間たちの共通の目標であったバベルの塔の建設は
あっという間に崩壊したのは言うまでもない。

 

やがて世界中から集結していた人間達は、
バラバラになって、かつて自分が住んでいた所に帰って行き、
争いの時代が始まった。

 

 

こんな話を思い出した。

 

言葉が違うから、相手が理解できずに、
誤解が誤解を生んで、
憎しみを生み
殺してしまえと、短絡する。
戦争ってこんな風にして始まるものなのか。

 

車聖さんの社長と話し合いをする前に
陳さんが話しかけてきてくれて良かった。

 

私と、大好きな友達である“陳さん”

 

 

バベルの塔以来、人間は別々の言葉を話してきたが
今では勉強をして、2ヶ国語を話すことが出来る人がいっぱいいる。
言葉が通じない違う文化を結びつける彼らは、
神様の悪戯を克服した“平和の使者”である。

 

自腹で好意で上海まで来てくれた“励さん”。
通訳として、説明スタッフとして大活躍。なくてはならないメンバーであった。
いつか恩返しをしなくては。
中国語と日本語を話す。

 

 

自分の仕事をホッタラカシにして、ずっとショーで、
通訳と、説明をしてくれた。頼さんがいなかったにショーは成り立たなかった。
中国語と日本語を話す。

 

 

このショーの主役、李さん。
このショーが、彼女の上海での新しい世界を開いてくれるだろう。
中国語と日本語を話す。

 

 

頼み込んで来てもらったSONAXの吉村さん。
英語担当である。
本当はドイツ語がペラペラなのだが、英語も話せるすごい人。
ドイツ語と英語と日本語を話す。

 

 

片言の日本語しか離せないが、
それでも、もうちょっとで2ヶ国語族になれそうな陳さん

 

 

最後に上海の新しい事務所で、反省会。
我社の荻野部長と増田は、帰りの空港で中国語講座の本を買っていた。

 

 

途中でワイシャツが無くなって、
寒いのに半そでシャツを着て震え上がる
日本語しか話せないデブ

 

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