谷 好通コラム

2004年06月06日(日曜日)

971話 お金を使うこと

買い物でお金を使うのは楽しい。
お金を使って好きな物を買うのは、誰だって好きだ。
一度でいいから、心行くまで好きな物、欲しい物を買って、散財をして見たいものだ。
そんな風に思っている人も多いだろう。

 

自分のお金は、自分の好きなように、自分のために使えば良いのだから、
どのように使うか考えているだけでも楽しくなる。

 

消費でお金を使うという事は、
自分の欲望、物欲、所有欲、快楽、生存欲を満たすために、
お金を費やすことと言える。
お金が無くなって、多くの場合、物が残り、サービスの恩恵(楽しかった)が残る。

 

一般的に、お金を使うことは楽しいことだ。

 

買い物などをしてお金を費やすということは、
自分の“欲求”に従いお金を使い、
お金を使った結果、
買った“物”が残るか、
買ったサービスの恩恵が“楽しさ”とか“快楽”として自分に残る。
その代わり、「お金は無くなる。」

 

 

もう一つのお金の使い方
事業において、ビジネスとしてお金を使うこと。

 

お金は、相手(多くの場合お客様)に対する貢献に対する報酬であると共に
お金は事業を作り上げ、運営していくために“使われる”面がある。
これは楽しくも何ともない。
快感も伴わない。
なぜならば
事業でお金を使う場合は、
事業の目的のための“必要性”に従いお金を使うのであり、
自らの欲求とは関係ないので、それによって楽しいわけではない。

 

事業でお金を使うのは、
より大きな利益を作り上げるためで、
お金を効果的に使い、成果が上がり利益が出れば、
使ったお金より多くのお金が残り、たいていの場合、物も残る。

 

つまり
お金を遣った場合も、事業目的でお金を使った場合も、物は残るが、
事業目的の場合は、うまく行けば、お金も残る。
それも、使ったお金以上にお金が残る。
こりゃ、いいではないか。

 

しかし、この場合
自分の“欲求”に従って使う訳ではなく、
“必要性”に従って使うので、それ自体は楽しいわけではない。

 

それどころか、逆に、使うこと自体が非常に難しい。

 

事業のために用意した資金を使って
店舗(又は事務所)を買い、あるいは借り、
給料を払って人を雇って、
お金をかけてその人材を育成する。
そして、経費をかけて商品を開発し、あるいは仕入れ、
経費をかけて販売活動をする。

 

(販売単価-仕入れ単価)×販売数量-販売ロス=粗利 が、
家賃、人件費、水道光熱費、税金、広告費などの販売経費よりも
大きければ、営業利益が出たことになり、つまり黒字であり、
少なければ、営業損、つまり赤字が出たことになる。

 

黒字が出れば、用意したお金を“使って”、お金が増えたことになる。
赤字が出れば、お金を使って、お金が減ることになる。

 

ならば、赤字が出ても、
買い物でお金を使ったことと同じではないかと言うことになるが、
買い物でお金を使った場合は、買った物が残るか、“楽しかった”が残るが、
事業で赤字を出した場合は、ほとんどの場合、何も残らない。

 

それどころか、事業のために用意した資金とは
(多くの場合)銀行からの“借金”であるが、
赤字を出し続ける事業は、その借金を返せなくなる可能性があるので、
銀行は、その借金を何とかして早く回収しようとする。
(このこと自体は、銀行も事業なので当たり前の事だ。)
つまり、
赤字が出ると、その分の資金が減るだけではなくて、
残っている資金そのものが回収される事にもなり得るのだ。
下手をすると、一挙に事業の清算、あるいは倒産に突き進むことになる。
そんな場合、
残るのは、苦労と後悔と屈辱だけであり、場合によっては負債が残る。

 

逆に、その事業が大きな黒字を出し続けると、
その事業が将来発展する可能性が大きいと判断されて、
銀行は積極的にお金を貸し、つまり資金を提供して、その事業を応援する。
そんな場合の資金調達コスト=金利は、信じられないほど低いものだ。
それどころか、返さなくてもいい資金まで集まってくる。
ベンチャーキャピタルなどによる投資。
つまり、その事業の株式を、プレミアを付けて買ってくれるのだ。
株を買ってくれるわけだから、これは借金ではない。返さなくてもいい訳だ。
(しかし、その事業が株式の上場を果たした場合に、彼らは大きな利益を得る。)

 

その事業が黒字であり、大きく利益が出れば、
安いコストで資金が集まってきて、
はじめに用意した資金にブラス利益だけではなくて、
その何倍もの資金が事業のために集まり、資金は劇的に増える。
本当にその事業に大きな可能性があれば、その事業は急速に成長する。

 

事業を“勝負”にたとえるならば、
黒字が勝ち
赤字が負け
そして、その勝ち負けの差は、
それが進む内にとんでもない大きな差になってくる。

 

勝つか、負けるか、その差は天と地の差がある。
それが“事業”であると言える。

 

 

お金を買い物などで使う場合、
自分の欲求に従い使うだけで、それ自体が楽しい。
そして
そのお金の金額分だけ、買った“物”、あるいは受けたサービスの恩恵が残り、
使った分だけお金は無くなる。

 

事業でお金を使う場合、
いかに商売に良い場所に、いかに消費者に喜んでもらえる店舗を造るか
悩みに悩み、
全力で学び、全精力を使って工夫して店舗を造る。

 

いかに消費者に欲しがってもらえる“商品”“サービス”を開発し、
あるいは仕入れるか、
事業を共にする者達は知恵を絞る。
そして、費用をかけて開発しても、仕入れても、
消費者から欲しがってもらえない場合もあり、
それでもそこから“学び”、
新たな商品を開発し、仕入れる努力をする気力と能力が要る。

 

一番大きなお金が要り、事業者の努力が要るのが、“人”だ。
事業は「人」「物」「金」という。
その事業を実際に動かす“人”が、事業を成功させる一番のキーになる。
事業に貢献できる人、
つまり消費者に受け入れられる店舗を運営できる人、
消費者に欲しがってもらえる商品を開発し、仕入れられる人、
その能力を人の中に作り上げることが、事業の根幹に関わる仕事だ。
これに成功しなければ事業の成功はあり得ない。

 

人件費という一番大きなお金を使いながら、
すべての人が能力を身に付けることを実践するのは至難の業である。
しかも、ある程度能力を付けても、その人が辞めてしまえば、
それまでの資金投下はすべてゼロになる。

 

事業のためにお金を使うということは、
大変大きな苦労を伴うものであって、難しいことだ。
楽しいなんてものではない。

 

しかし、事業が多くの人に受け入れられ、成功すれば、
事業自体の成長という大きな成果が得られる。
その意味では
買い物でお金を使うより、ずっとエキサイティングであることは確かである。

 

 

会社の活動の中で、
いかにも無駄な出費をしている場合があって、

 

その当事者に
「この無駄な経費のかけ方、つまり金の使い方、これが自分のお金だったら、同じ事をするか?」
と聞くと、

 

「そうですね、自分のお金だったらやりませんね。出来ませんね~。」
と言うことがある。

 

これには2つの間違いがある。

 

一つ目は、
自分のお金だったら出来ない事が、会社のお金だったら出来るという価値観。
つまり、
自分の損だったら、しないことでも、
会社の損=みんなの損=他人の損なら、出来る。という価値観は、
商売とは、あるいは仕事とは相手に対する貢献であって、
利益とは、その報酬であるという
商売・仕事の基本的な原則に相容れないものであり、
その人は良い仕事は出来ないであろう、ということ。

 

2つ目は、
自分のお金だったら、
それを使うのは買い物・消費であって
無駄な使い方でも、そのお金が無くなるだけであるが、
仕事上のお金は、
安易に無駄=赤字の使い方をすることは、
お金が無くなるだけでなく
やがては、事業の、勝負の勝ち負けにつながることであって、
仕事上でお金を使う事とは、
自分のお金を使うことよりも非常に難しいものであるという
原則的な意識の欠如であること。

 

過去「バブルの時代」のように
世の中の経済自体が膨らみ続け、
少々の無駄などその膨張の中に飲み込まれて、
ドオッてことの無かった時代の悪習が、
現代においても、過去の遺跡の中に残っている。

 

バブルの時代のように「居ること」で報酬が得られる時代は終わった。
現代は、極端に勝ち負けがはっきりする時代だ。
いかに「貢献すること」が出来るか、それによってしか報酬が得られない時代である。
意味の無い無駄は、徹底的に排除されなければならない。

 

私も含めて、いや私自身こそ
しっかりと自戒の上で、事業を作り上げていかなくてはならない。

 

私達は、この模型の中に大きな可能性を見ている。

 

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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