谷 好通コラム

2005年03月29日(火曜日)

1144.では日本の洗車は

世界の洗車を考えて見たが、
一つ共通していて、しかし日本にはない事がある。
それは「洗車屋さん」の存在。

 

たった数カ国だけの訪問だが、
そのどこの街角には当たり前のように「洗車屋」がある。
中国のどの街に行っても、韓国でも、フィリピンでも、台湾でも、香港でも
四月に行くことになっているアメリカでも、
先に行った谷常務の報告によれば、洗車屋さんは必ず存在していて、
いずれも大繁盛しているそうだ。
話に聞いただけならば、イスラエルにも、ロシアにも、モンゴルにも、
洗車屋さんがあることは間違いなさそうだ。
2度行ったドイツにも、
数は少ないがディテーリングショップに付随した洗車サービスが存在した。

 

その洗車屋が、不思議なことに日本には無い。
セルフのコイン洗車場はあっても、
サービス業としての洗車屋は日本にはほとんど無い。
日本で、洗車を“やってもらおう”と思ったら、
ガソリンスタンドに行って、洗車をしてもらうしかないのだ。
それも、ちょっと前までは以前は洗車機での洗車しかなかった。
これは、特異なことである。

 

何故、日本には洗車屋というビジネスが無いのであろうか?

 

 

ふり返って考える。

 

中国で洗車をしていたのは、
田舎から出てきたばかりの若者たちであった。
彼らの給与は極端に安い。
比較的所得の高い上海などにおいても
600~1,000元/月(8,000円~12,500円)ぐらいが相場で、
地方都市に行けば、300~600元程度の給料である。
もともと中国の工業はこういう地方からの若い労働者の
低い人件費コストで支えられてきた。
中国においての洗車は、そのような安い労働者が従事する仕事である。

 

それはフィリピンにおいても、台湾においても同じような傾向であり、
アメリカにおいても、
谷常務がロサンジェルスで見た洗車屋さんにおいて、洗車作業をしていたのは、
安い労働の提供者としてのメキシカンがほとんどであったという。

 

このような国には、
「安い労働者層」というものが存在していて、
洗車屋さんの労働はそういう人によって支えられているのだ。
洗車とはそれだけ単価の低い商品ということも出来る。

 

最も一般的な水洗い洗車の標準的な単価。
中国で、10元≒125円
台湾、フィリピン、などで300円ぐらい。
アメリカで、9.99ドル≒1,050円
日本のGSで、300円~800円

 

洗車自体は、とこの国でも単価が安くて収益性が高いものではない。
だから、今では、
どこの国の洗車さんも「磨き」に力を入れている。
韓国で言えば「光沢」。
中国で言えば「汽車美容」というやつである。
洗車で客を寄せて、いかにその客を「磨き」に持っていくかが、
その店の収益性を決めていると言っていい。

 

「洗車屋さんは、
洗車を本業としているから、収益性を上げたいので、
車を洗うだけではなく、もっとキレイに磨きたがる。」

 


洗車屋さんが日本にはほとんど無いのは、
日本には、他の国のように「安い労働者層」という存在が無いからである。
日本は世界の中でも驚くほど平等であり、
特に若者が給与面で恵まれている。

 

 

その代わりに、
日本では「洗車機」が発達した。
異様に発達して、世界で最も精巧であり、もっとも高度な洗車機として発達した。

 

世界中を見回しても、
日本の洗車機ほど精密な動きをする洗車機はない。
変なお世辞抜きで、日本の洗車機は世界一のクォリティと付加価値を持っている。

 

そして、この機械は安い。
日本の高い人件費に比して、日本の洗車機は大変安い。
たとえば500万円の洗車機をリースで買ったとすると、1ヵ月約9万円位だろう。
それに対して日本でかかる人件費は、
どんなに若い、たとえば未経験者で手取り15万円程度の若者であっても、
会社が負担する総額は1ヵ月最低30万円はかかる。
高い月給に加えて、健康保険、厚生年金、賞与、退職金、福利厚生など、
たくさんの経費がかかり、とにかく高い。

 

若者の人件費の三分の一で、最高品質の日本の洗車機が
使えるのだ。
こと車を洗うことに関して、
標準的な洗車機の三倍の効率を持ったスタッフは有り得ない。

 

これが中国であったら、
安い労働者が、総人件費でも10,000円/月以下で使えるので、
洗車機一台の費用に比して、若者を九人以上雇えることになる。
人間九人分の効率を持った洗車機も、またなかなか無いものだ。

 

ざっと中国当たりの安い人件費の30倍もの人件費がかかる日本では、
洗車機による洗車が当たり前となった。
洗車機を設置できる場所はガソリンスタンドがぴったり。

 

給油のついでに洗車が出来ることは、利用者にとって、とても便利なことだ。
こうして、日本のビジネスとして洗車は、
もっぱらガソリンスタンドにおいて、洗車機を使用しての商品となったのだった。
石油製品の販売を本業とするガソリンスタンドの副業として、
洗車は売られてきた。

 

そのガソリンスタンドにおいて
かつて、燃料油は大変利益の出る商品であった。
昔、特定石油製品暫定措置法(略して“特石法”)という石油製品輸入を規制する法律があって、
石油製品の末端販売価格をコントロールし易い環境にあったからだ。
だから、
かつての洗車は、ガソリン等の販売のオマケのようなもので、
洗車自体で利益が出るかどうかは問題外であった。
だから、その単価も大変低いもので、
いくら洗車機を使った洗車といえども、
仕上げに人の手を要する洗車が水洗いで300円/台とか、
セルフの洗車になると100円/台などと、
物価が十分の一ほどの中国の洗車よりも安い洗車すら存在した。

 

圧倒的に高い物価と、バカ高い人件費から考えれば、
日本の洗車は世界一安いと言っていい。

 

日本の洗車は世界一安い。

 

人件費が高いので、
日本ではもっぱらガソリンスタンドが、洗車機を使っての洗車で、
商業としての洗車をほぼ独占的に担った。
が、しかし、
それは、ガソリンスタンドのガソリン等石油製品の販売という“本業”に対して。
あくまでもオマケであり、“副業”であった。
だから、
日本の洗車は世界一安い商品になったのだ。

 

そして、あくまでも副業であり、
これで収益を上げようという意欲は低く、
洗車よりもっと車をキレイにしたい人のための「磨き」などには、力が入らなかった。
高い収益を出してくれるはずの高付加価値商品には、
あまりにも力が入らなかった。
ガソリンスタンドにおける「洗車」は、ビジネスとして成り立っていない。

 

 

ここまでガソリンスタンドが洗車を安く売ってしまうと、
人件費と土地がバカ高い日本では、
とても洗車をメイン商品においたビジネスは成り立たない。

 

 

これが、日本に「洗車屋」が存在しない理由なのではないかと思っている。

 

 

その代わりに日本には「磨き屋さん」という特殊なビジネスが存在しているが、
その作業単価は異常に高いものであって、
普遍的なビジネスとはなっていず、
一部の特殊な嗜好を持つマニアのためのビジネスとなっている。
(最近のディーラーによる特殊コーティングについては、またの機会に書く。)

 

かつて5年近く前までは、日本において、車をキレイにする方法は二つあった。
一つは、
ガソリンスタンドで、洗車機で洗ってもらうこと。
もう一つは、
コイン洗車場あるいは自宅で、自分で洗うこと。

 

違う言い方をすれば、
洗って欲しければ、GSでの洗車機の洗車で満足しなければならない。
それに不満ならば、満足の行くように“時分で洗う”しかない。

 

そんな状況の中で、
「“値段は高い”が、技術の高い訓練されたスタッフが洗う“高品質”の洗車を提供する店」
そんなコンセプトを持った「洗車屋」が日本にも登場した。
それが「快洗隊」の意義であると考えている。
その洗車(磨きなども含む)の1台あたりの平均単価は、実に5,000円を越し、
高い人件費に見合うビジネスとして、
世界一高い洗車をする「日本型の洗車屋」が出現、注目を集めている。
そこでは、洗車を本業とし、
だからこそ、洗車だけよりももっと顧客満足度の高い、
すなわち付加価値の高い、つまり収益性の高い、
「磨き」であり「塗装保護」であり、
より技術的に高い商品が収益の中心となっている。

 

日本は人件費が高い。

優秀な洗車機が発達した。

洗車機を設備出来る店舗としてはガソリンスタンドが最も適している。

副業として、日本の洗車をガソリンスタンドが担った。

副業なので、洗車自体での収益性は無視され、世界一安い洗車が出来上がった。

その洗車を収益の源とする洗車屋は、日本において出現出来なかった。

ユーザーは、洗車機で洗ってもらうか、自分で洗うという選択しかなかった。

 

その一方で、値段はかなり高いが(人件費が高いから)、
洗車の質もすごく高い“日本型の洗車屋”快洗隊が出現し、
所得の高い日本において、注目を集めている。

 

 

そんな状況の中で、
特石法の実施期限が切れ、製品輸入が解禁・自由化になった時、
ガソリンをはじめとする石油製品の末端価格のコントロールが効かなくなった。
商品として本来的に差別化の無い石油商品は、
当然のごとく値崩れを起こし、
経営は窮するガソリンスタンドが増え、廃業に追い込まれる店舗もあった。

 

その様な状況の中で、
「油外収益、とりわけ洗車収益の見直し」が叫ばれ、
ガソリンスタンドが、こぞって「手洗い洗車」をやり始めた。

 

 

しかし、考えるべきは、
日本の洗車の収益性を落としているのは、
安い洗車であり、洗車機そのものではないということ。
洗車機での洗車は、それとして日本の洗車の文化の中心を今でも担っている。
そのことは否定されるべきものではない。
洗車機洗車は今でも健在でいいのである。

 

問題なのは、
GS洗車=洗車機洗車の図式にはまりきった今までの状態から脱出し
洗車機の洗車では満足しきれない客層までを取り込もうと、
新たに手洗い洗車を始めたのに、
ただ単に手洗い洗車を始めただけで、
洗車の質を上げることを忘れ、
洗車機洗車の時と同じように“数”を追いかける手法をとった所が多かったところだ。

 

つまり、洗車機洗車に満足できなかった客層とは、
実は質の高い洗車を求めている客層であるのにもかかわらず、
洗車機を否定し、手で洗うこと自体に価値を求めてしまったところだ。

 

手洗い洗車とは、
人間が洗うから、その人間の技術が高ければ洗車の品質が上がり、
よりきれいな洗車を求めている客層を満足させることが出来るのに、
その人間の技術の向上を忘れ、
“数”を求めたばかりに、
その単価までをも下げ、やたら数を追い求めることに専心してしまった。
そんな所が多かった。

 

数を追えば、
ましてや単価を下げる手段を講じれば、
その洗車の質が低下することを避けることは難しい。
洗車の質が下がれば、「もっとキレイに」の磨きなどの技術商品に、
お客様の期待が行くことも少ない。

 

特に人件費の高い日本においては、
安い手洗い洗車などは、ビジネスとしてあり得ない話である。

 

安い人件費の層が存在する世界の各国においても、
洗車自体では収益を有効に確保できないので、
よりきれいになる“磨き”などのプラスαに商売の方向を向けている。

 

特に人件費の高い日本においては、
どんなに高い洗車を作り上げても、それだけでは採算を取ることは難しく、
より技術的に高い“磨き”、
たとえばKeePreなどの高付加価値商品を販売することが必須となる。

 

その店の技術が、高付加価値商品を買うだけの価値のあるものなのか、
お客様は、それを洗車というベーシックな商品で判断するもので、
その洗車が技術的に低いものであったら、
より高い商品にエスカレーションすることなどあり得ず、
その洗車にすらそっぽを向かれてしまうことにもなる。

 

人件費の高い日本において、
安くて大した技術もない手洗い洗車には、
お客様の嗜好をつなぎとめる術も無ければ、ビジネスとして生き残る術も無い。
こう断言してしまうのは乱暴であろうか。

 

モータリゼーションが高度に進化した日本においては、
そのユーザーの幅も広く、
ユーザーの幅が広い分だけ、車のキレイに対する嗜好の幅も広い。

 

?自分で車を洗い、磨くことが好きな人には、
より環境の良いセルフ洗車場が、これからも繁盛するであろうし、

 

?気軽に、燃料の補給ついでに洗車機で手早く洗ってもらうことをよしとする人は、
これからもいるだろうし、

 

?訓練され高い技術を持ったスタッフに比較的高いお金を払って、
洗うだけでなく磨くことまでしてキチンとキレイにしてもらう人も増える。

 

今後の日本の洗車を考えるに、
この三つのスタイルが、ビジネスとして生き残っていく日本の洗車のスタイルであり、

 

特に?のスタイルが、新たに、日本における“洗車屋”の出現として、
日本の新しい洗車文化を創っていく、新しい現象となるのではないだろうか。

 

それが快洗隊の意義であると考えている。

 

 

先週の末、
新しい快洗隊が岐阜県と福山県にスタートした。

 

 

27日の午後5時過ぎ
キャセイパシフィック機で、中部国際空港化に飛び立った。

 

途中、台北に降りて、1時間のトランジットの上、香港に到着したのは、
現地時間10時過ぎ、日本時間で11時過ぎであった。
約6時間の飛行機の旅。ヘトヘトであった。

 

香港で一泊の上、翌日、香港→広州の特急で、広州に到着。
中部国際空港→広州の直行便が、噂によるとトヨタ社員の独占で格安航空券が無く、
シブシブこんな遠回りをしたわけだ。
アホらしい。

 

明日は、この広州でセミナーである。
この原稿もいい加減にして、寝なくてはならない。

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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