谷 好通コラム

2005年04月30日(土曜日)

1164.少し科学のお時間

最近流行のガラス(SiO₂)系コーティングと、
珪素 (Si) 系コーティングという“言い方のマジック”。

 

 

最近、「珪素系コーティング」なる不思議な名称のコーティングが
一部で流行りつつある。
珪素系コーティングという名前からすると、
今流行っているガラスを使ったボディコーティングと関係がありそうな感じがするが、
どうも、そうではない場合が多いことが分かって来た。
珪素系コーティングと称している物と、ガラスとは、全く関係ないようなのだ。

 

私達もアクアキーパーというガラスを塗装にコーティングする製品のメーカーとして、
その辺のことを解説すると共に、考えたことを書いてみたい。

 

 

地球全体で一番多い元素は何かと言えば、珪素(Si)である。
珪素とは、一般的な意味で言えば、
いわゆる“土のほとんど”であり、“砂のほとんど”であり、
“岩のほとんど”であり、“マグマのほとんど”でもある。
地球の約80%以上が珪素で出来ているそうだ。

 

その珪素(Si)に酸素(O)の元素が二つくっついたものが、
二酸化珪素(SiO₂)。ガラスの素である。

 

一般に“ガラス”と呼んでいるのは、
二酸化珪素(SiO₂)が不規則に結晶したもので、
その不規則な結晶の様子を“ガラス結合”と呼んでいる。
言い方を整理すると、
『ガラス』とは、二酸化珪素(SiO₂)が、ガラス結合している物。
こう言う事が出来る。

 

珪素(Si)は、もちろんSiO₂のガラスの形だけではなくて、
さまざまな形で存在している。
Siとは、“シリカ”が呼び名であって、
Siがゲル状になったものを“シリカゲル”。吸湿剤などに普遍的に使われている。
あるいは、コンピューターの集積回路の基盤になっているシリコンウェハー。
コーティング剤によく使われるポリマーで撥水力の強いアミノシリコーン。
珪素=Si=シリカ元素を含む材料はいくらでもあり、
「珪素系コーティング」などと言う名称は、本来的にあり得ない。

 

そのような呼び方は、
たとえば、
基本的に炭化水素(ハイドロカーボン)であり、
何千種類とあるポリマー(高分子重合体)の、ある種類の物を使ったコーティング剤を
「炭素系コーティング」とか、「水素系コーティング」とか、「炭化水素系コーティング」
あるいは「ポリマー系コーティング」などと呼ぶ愚に等しい。

 

極論すれば、
ある個人を指して、「彼は生物系の人物である」と言っているようなもの。

 

今流行っているガラスコーティングが、
ガラスという珪素の一つの形SiO₂から出来ているから、
珪素系コーティングと言えば、
ガラスコーティングのように勘違いしてくれるかもしれないことを期待した。
そんな志しの低いネーミングと言う感じもする。

 

 

 

では、
今流行の“ガラスコーティング”とは、何か。

 

ガラスを、車の塗装上に、薄くコーティングして、
艶を上げ、車の美観を飛躍的に上げることと
表面の硬度を飛躍的に上げて、表面に細かい傷(ヘアーライン)を着きにくくする物。
ガラスは無機物なので、水を弾くことが少なく、
一般的に比較的“親水性”のコーティングである。

 

このガラスを塗装上にコーティングする技術には、大まかに2種類ある。

 

一つは、無機物のガラスをシランカップリング剤を介して、有機物である塗装に密着させる方法。
シランカップリング剤とは、無機物にくっつく基と、有機物にくっつく基を持っていて、
無機物と有機物の間を仲介して、
その両者をくっつける役割(カップリング)を持っている。
塗装上にスプレーガンなどで散布し(塗る方法もある)瞬間的にSiO₂をくっつける。
以後、空気中の湿気としての水分によって、
SiO₂は不規則な結晶(ガラス結合)が進み、ガラスとして硬化して行く。

 

この過程で、コーティング表面に水がかかったりすると、
その部分だけ反応が急激に進んで、ムラになり、そのままでは修復不能となる。
このような場合は、ガラスコーティングを削り取って(困難な作業)、
あるいは強烈に強い薬物によって溶かしとって、
施工をやり直すことになる。

 

また、塗布時での密着の反応も急激なものであって、
作業途中で中断したり、ホコリなどが入り込んでしまうと、
ムラになったり、ゴミがコーティングの中に残ってしまい、美観が損なわれる。

 

多くの場合、外部と遮断されたブースの中で、
入念な研磨による塗装表面の前処理としての平滑化と、
車の隙間に入った水の完全な排除が必要で、
作業環境と、熟練した技術者による長時間の作業が必要である。
そのため、誰でも、どこでも施工できるものではなく、
施工料金が非常に高いことと相まって、普及の大きな障害となっている。

 

しかし、この種のコーティングは数ミクロンもの厚い被膜を形成することになるので、
塗装表面の凸凹を十分にカバーすることになり、
今までのワックスとかポリマーなどの有機物を使ったコーティング剤をものよりも、
数段優れた艶を得ることが出来る。
また、
8H・9Hなどという非常に高い表面硬度を持っていて、
しかも厚い被膜の形成によって磨耗による傷が非常に入りにくく、
傷が入っても厚みによってそれが目立たない特徴を持っている。

 

ただ、
もう一つの欠点として、ウォータースポットが着き易いという点がある。
ウォータースポット(水輪紋とも言う)とは、
洗車での水、雨などに含まれているカルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)などの
無機物であるミネラル分が、水と一緒に塗装上に残り、
洗車後(雨後)それを拭き上げないと、水が乾燥する過程で塗装上に濃縮され、
乾ききった時に、輪状に硬く固まってしまった物。
一度付着すると、洗車・雨のたびに、その縁にまた蓄積していって、
非常に硬く頑固な汚れとなる。
シランカップリング剤を使ったぶ厚い被膜のガラスコーティングは、
このミネラル部が残りやすくなって、
非常に頑固なウォータースポットが出来やすいものが多いと聞く。

 

分厚いガラスコーティングは、
頑固なウォータースポットが着きやすくなった訳なので、
洗車の時は必ず拭き上げること。
雨が降ったあとも、自然に乾いてしまうようなことを避けることが必要なようで、
これは大変面倒なことだ。

 

作業環境と技術難度の問題と共に、このウォータースポットの問題が、
この方式を我が社が採用しなかった大きな問題点でもある。
ところが最近、SiO₂の被膜上に特殊な仕掛けを加える事によって、
このウォータースポットの付着を防ぐ技術が開発されつつある。
私達の開発部も、その技術を一生懸命テストして、
一般的な技術に進化させることを試みている。(今はここまでしか言えない。)

 

 

もう一つのガラスコーティングの方法は『アクアキーパー』が採用している。
ナノテクノロジー・ガラスコーティングの方式。

 

その方法とは、
まず、SiO₂と硼酸を中心とした成分で焼き固められたセラミックスの粒を、
筒にぎっしりと詰め、
その中に水を通して、SiO2と硼酸を溶け出させる。

 

その水を、ある圧力で塗装面上にぶつけると、
表面に静電気が置き、メッキの原理で硼酸が塗装にくっつき、
それが導きとなってSiO₂が塗装上にくっついていく。

 

SiO₂は、塗装上にカビが生えたように(表現が悪いが)くっついて、
塗装面を覆う。

 

覆うと言っても、シランカップリング剤で着けたガラスのように
塗装を密閉するように覆うわけではない。
カビが生えたように(やっぱり表現が悪いが)、
塗装の表面もある程度出ていながら、ガラスの不規則な結晶が塗装を覆うのだ。
これで、塗装上の性質は、ガラスの表面の性質のようになる。
つまり、有機物である塗装のように汚れを引き寄せることなく、
つまり、汚れにくくなり、
汚れても、汚れを洗い流しやすくなる。
というより、雨が降っただけでもかなりキレイになってしまうほどの性質になる。

 

こんな不思議な現象は、
化学的なイメージではどうしても理解し難いのだが、
無機の世界の科学での現象で、
その結果を原子間電子顕微鏡での写真とかで見たり、
実際にアクアキーパーを施した車を洗車してみると、納得をせざるを得ない。

 

このカビが生えたようなSiO₂の被膜は、一週間程度の時間を経て、
空気中の二酸化炭素の力(触媒的)を借りて、不規則な結晶化が進み、
つまりガラスとなって、強い(カビの生えたような)被膜となる。

 

その被膜は、20~30ナノ(1ナノとは1/1000ミクロン)の厚みしかなく、
その表面硬度は、塗装の表面硬度に依存することになる。
しかし、そのコーティング作業は、専用のブースを必要とするわけでもなく、
特殊な技術を要するわけでもない。
下地となる塗装を、専用のノンシリコン研磨剤によってきれいに研磨して、
アクアキーパーの水をぶつけるだけである。

 

だから、施工の失敗もほとんどあり得ず、
鈑金塗装をしなければならない場合などでも、通常の塗装研磨で、
コーティングを除去し、塗装が出来る有機の表面に戻すことが出来る。

 

私たちは、その無機のガラスコーティングの良さも、
ユーザーの好みによっては有益であり、普及すべきものとして、
施工が容易で、失敗がない方法であるアクアキーパーの方式を選択した。

 

ウォータースポットも、
表面がガラス100%のものよりも、
はるかに着き難いことは、実績としてあるとだけは言えるが、
何故そうなのかは、私の知識ではまだ説明しきれない。
やはり、カビが生えたような被膜の出来方にその原因があるであろうとは思うが。

 

 

 

では、冒頭に言った
「珪素形コーティング」とは、
実際にはどのようなものであったのか。

 

かなり名の売れたブランドの珪素系コーティングと称するものは、
私たちの研究所の見解では、
ごく普通の、一般にコーティング剤に使用されているシリコーンを、
界面活性剤によって、水の中に分散させたものであった。
他の製品においても、同じような方向のものが多くあった。

 

 

もう一つのタイプにシリコンレジン系が考えられます。
内容的にはシリコン塗料タイプでモノマーが
空気中の水分で架橋して3次元に架橋重合するタイプです。
これは厚い被膜を形成するので、非常に滑らかな艶を作り得ますが、
SiO₂のガラス状態のの被膜とは違い、
硬い被膜にはならず、造り出された艶もそれほど長くは持たないものです。

 

 

このようなシリコーンとは、たしかに珪素の元素を持ったポリマーであり、
珪素を持っているから、珪素系コーティングという呼び名は、
冒頭にあったように、
「あの人は、生物系の人物である。」と言っていることと、
あまり変わらないように思える。

 

そういう意味で言えば、
ファイナル1も、ホワイトロンも、ベースアップ2も、
ハイパーコートも、ベースコートも、180コートだってそのバインダーに、
いっそのこと、ベストブラックだって、
爆白だって、RA-300だって、
その成分に、珪素元素を持った色々な形の材料を含んでいるので、
「珪素系コーティング」と言うことだって出来る。
もちろん、
そんな呼び方が間違っていることは百も承知なので、
そんな風に呼ぶことは出来ないし、しない。

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