谷 好通コラム

2005年12月11日(日曜日)

1301.”自動的”の横暴

あるメーカーの車でイライラとしたことがある。
そのメーカーは、日本の中堅メーカーで、
車のメカにうるさい“通”好みの車を作るメーカーである。

 

その空調の設定がどうしても私には合わない。
「頭寒足温」の考え方に基づいた空調なのだそうだが、
外気温が低い場合、足元の噴き出し口からは常に暖かい空気が出続ける。
そして、メーターパネルの高さの噴き出し口からは、ひんやりした空気が常に出る。
デフロスターからは暖かい空気だ。

 

空調モードの設定で、
「足元のみ」「足元&メーターパネル」「メーターパネルのみ」
「デフロスターのみ」「デフロスター&足元」と5種類のモードが設定が出来るが、
足元からは、必ず熱せられた空気が出るし、
メーターパネルからは、必ず、ひんやりした空気が出る。
特に、足元からは、足元からの設定が無いモードにしても、
少しではあるが常に熱せられた空気が出続けている。

 

足元から熱せられた空気が出ていると、特殊な靴を履いているせいか、
足の指先が火傷をするように熱く感じる。
逆に、お腹が冷えると痛くなるほうで、(腹が出ているからか?)
メーターパネルからひんやりした空気が出ていると辛いのだ。
その上、メーターパネルの噴き出し口は空気の流れを変えるためのルーバーが
平行の位置より上に行かないように作られているので、
どうしてもおなかの周りはひんやりした空気となってしまう。

 

だから、空調を「AUTO」にしておくと、
足はたまらないほど熱くなって、お腹は冷える状態になる。
たまったものではない。

 

しょうがないので、「メーターパネルのみ」のモードにすると、
パネルの噴き出し口からのひんやりした空気が強くなって、
それでも少しだけ足元から熱い空気が出てくる。

 

ひんやりした空気がいやで、「足元のみ」にすると、
足元から熱せられた空気が勢いよく出てきて、足が火傷しそうになる。

 

「デフロスター」にすると、頭の方に熱せられた空気が覆ってきて、
のぼせそうになってしまう。

 

どうしようもなくなって、空調をOFFにしてしまっても、
足元からはチョロチョロと熱せられた空気が漏れてくる。

 

この車においては、どんな設定にしても“自動的に”「頭寒足温」になる。
“自動的”にである。
私は今まで、車の空調はAUTOにしておいて、
足元が暑い過ぎると思ったら、
メーターパネルの噴き出し口からのみ温風が出るモードにして、
「足温」の温度を調整していた。

 

また、AUTOの状態で、
顔の部分が暖かすぎると思ったら、窓をほんの少し開いて
「頭寒」を好きなように調整していた。

 

それがこの車においては、
“自動的に”、いつも頭寒足温を強制されるのだ。
しかも、いつも必ず足から熱風が出るという「頭寒足温」の度合いに。

 

寒くなってきてから、私はこの車に乗るのが本当にいやになっている。

 

この車の初期設定をした人の“好み、あるいは理想”を、
“自動的に”強制されるのは、身勝手な横暴と言うほかない。
「通」が好むような車を作っているという自負が、
間違った思い上がりになっているのではないか、
製作者の作った設定を変えることが出来なくしてあるのは、
自動車という道具を、ユーザーが自分の好みによって使うという基本を忘れている。

 

ディーラーの人に聞くと、
この車は上位車種だから、「自動的にが」多用されていて、
マニュアル要素が減らされている。

 

 

私がいつも使っているカメラは、
不思議に味のある色調を出してくれることがあり、今でも大事に使っている。
かなり古くなったし、
シャッターのタイムラグが時には我慢できないほど大きいのだが、
それでも使い続けている。

 

しかし、一つだけいつもイライラしてしまう事がある。
それは、撮影モードにすると、
“自動的に”、暗い時にはフラッシュを焚く設定を強制されることだ。
だから、ダイヤルで撮影モードにしてから、
フラッシュモードのボタンでフラッシュをいつも焚かない設定にして使っている。
しかも、ダイヤルで撮影モードをOFFにすると、
“自動的に”、元のフラッシュモードに戻り、
撮影モードを使うたびに、
毎度、ボタンでフラッシュを焚かないモードに設定しなければならない。

 

私はフラッシュが嫌いなのだ。
画調が平べったくなってしまうので、いかなる場面でもフラッシュを焚かない。
いかなる暗さであろうと、秒単位のシャッターで撮ったほうが、
味のある画調と色調になると勝手に信じている。

 

自分の好きな設定にしておくことができる大型の一眼レフのカメラも持っているが、
私は、古くから使っているこのカメラの画調が好きなので、
“自動的に”フラッシュを焚くモードになってしまう“不便”を、
“面倒な”毎度のボタンによるフラッシュモードの切り替え操作をしながら、
“我慢して”使っている。

 

撮影モードした時の初期設定を、
フラッシュを自動的に焚かない設定にしようとかなり頑張ったが出来なかった。
カメラ売り場の係りの人に相談して、
その人も一生懸命設定をしてみたが、やっぱり出来なかった。

 

このような小さな簡単なコンパクトカメラでは、
自分の好きなように設定することは出来ないとのことであった。
高級カメラになれば、どのようにでも設定できるのだが、ともおっしゃっていた。

 

不思議な話である。
カメラでは、自在な設定が高級機になれば出来ると言い、
車では、上位車種だからすべてが自動的になっているのだという。
変な話である。

 

「自動的に」つまり「オートマチック」は、私たちの生活を大変便利にしてきた。
しかし、その反面、
そのオートマチックの設定した便利性の中に、使う側の自由が埋没している。
それにしても、オートマチックは今後もさらに進むに違いない。

 

その象徴的な話を一つ。
最近デビューしたフォルクスワーゲンの「ゴルフGTI」に、
最近のオートマチックMT「DSG」が設定された。
これは今主流のトルクコンバーターを介したATではなく、
ギヤとギヤを直接つないでいくことをクラッチを介せずオートマチックにしている物で、
DSGは、その最先端であり、常時2段噛合わせという革命的な構造を持っている。
これをゴルフのスポーツバージョン「GTI」に搭載した。

 

今年からこの車を使ってワンメイクレースが開かれるという。
そこでの逸話なのだが、
このDSGでも、
車のスピード、加速、減速などを検出して
自動的にシフトアップ・ダウンをする“自動シフトモード”と、
ドライバーが自分の判断でパドルを使い
人間がシフトアップ・ダウンをする“手動シフトモード”がある。
サーキットでは、当然“手動シフトモード”を使ってのレースになると思うのだが、
実際は、“手動シフトモード”でのタイムより、
“自動シフトモード”でのタイムのほうがかなり速いと言うのだ。
一流のプロドライバーをもってしての“手動シフトモード”でも、
“自動シフトモード”でのタイムにどうしても追いつかないというのだ。

 

実は、レースの最高峰「F1」でも、
もっともっと複雑なプログラムで、サーキットごとの設定を使い、
高度な自動シフトモードで走っていると聞いたことがある。
世界のトップドライバーの神業よりも、自動シフトのほうが速い、ということか。

 

そこまでコンピューターの“自動的に”のプログラムは発達していて、
人間のマニュアル操作を追い越しているのが現代なのであろう。

 

しかし、
これは、速くサーキットを回るという単純な行為に対する結果であって、
前出の車の空調とか、カメラのフラッシュ設定は、
人間の好みという複雑な問題が絡んだ行為なのである。

 

好みという複雑かつ“たくさんの答え”がある行為に対しては、
まだまだコンピューターのプログラムによる“自動的に”という要素は、
ほどほどにしておいて、
自分の意思で自由に選択できる要素を用意すべきである。
機械はそれを助けるのが役割であって、
人間の選択を制限するような“自動的に”は、
“いらぬお節介”と言うべきなのではないだろうか。

 

人間工学という言葉があるが、
それは機械を人間に合わせることが目的であって、
人間を機械に合わせることではない。

 

そんなことを思った。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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