谷 好通コラム

2006年01月27日(金曜日)

1335.場違いな人間一人

ラスベガスは私の想像していた物とはかなり違った。
ホテルが繰り広げる巨大なエンターテイメントが、
テレビなどで時たま紹介されていたが、
ディズニーランドぐらいのものかいな、くらいにしか思っていなかった。

 

ところが空港を降りてびっくり、
いきなり空港の搭乗口にまでスロットマシンがあって、
それはもう、どこへ行っても必ずギャンブルの機械が設置してあって、
しかも、その機械でギャンブルをやっている人が必ずくっついているのだ。
そうなのだ、ここはギャンブル天国なのだ。

 

ラスベガスの街を、タクシーでトニーが案内してくれた。
とにかくデカイ。どのホテルもデカイ。
一つのホテルに5千人とか、それ以上の収容能力を持ち、
それぞれのホテルが嗜好を凝らした派手な格好をしている。

 

これなんか、「ニューヨーク」という名前のホテルで、
外観はニューヨークの摩天楼を表現し、
中はニューヨークの街並みが再現されていると言う。

 

 

これはエッフェル塔、もちろん複製だが1/4か
ひょっとしたら1/3の縮尺なのだろう、かなりデカイ。
本物を見ているようなすごい迫力がある。
何とかというホテルの名物だそうだ。

 

 

写っているのは、何とかいうホテルの玄関の“部分だけ”である。

 

 

にぎやかな街角

 

 

とにかく、とにかく、デカイホテル。

 

 

私たちのホテルは「シーザーズパレスホテル」という、かなり一流のホテルらしい。
トニーお勧めのホテルである。
しかし、フロントでチェックインする際、ちょっとしたトラブルがあって、
かなりの時間、フロントの前で立って過ごす事になる。
私は立っているのが苦手なので、
フロントのスタッフを色々と眺めて気を紛らわした。

 

よく見ていると、
フロントのスタッフとお客と比べて、スタッフの方が圧倒的に立派に見え、
風格があって、カッコイイ。
それが男であっても女であっても同じで、
お客は、いわゆる一般人・観光客であって普通の人であるが、
スタッフは、ラスベガスのホテルという超一流の
しかも、カジノという危険なにおいがする特別な存在の身内である。

 

明らかに、客よりもスタッフの方が存在感がある。
フロントスタッフもそれをしっかり意識しているようで、
身振り手振り、顔を表情の一つがそれをムンムン感じさせる。

 

 

カジノを持つホテルが、人寄せのためにショーをやっていて、
そのショーがとにかく素晴らしく、
世界一の芸人ばかりが集まっているとも聞いた。
そのショーを見る目的で来る客も多く、私たちもその仲間だ。

 

いずれにしても、
ここラスベガスでは、途方もない金が動いている。
絶対的な金額という意味だけではなく、
すべての金の単位がすさまじく高いのだ。

 

ホテルも、大きさも桁外れならば、
その内部の仕様にもとんでもない贅が凝らされていて、
建物のあちらこちらに「これは高いだろうな。」と思えるような材料が使われ、
凝った細工がされていて感心させられる。
部屋だって下手なマンションの全面積より大きな部屋であり、
今まで使ったことがないようなジェットバスとか、とにかく贅沢なのである。
ホテル全体がとてつもない高級感に溢れている。

 

そういう意味では街全体が高級であり、豪華であって
そこにいるだけで、自分が大金持ちになったような気分になれる。
子供がディズニーランドで、王子様かお姫様になったような気になるのと同じで、
ラスベガスでは、大人が
自分がいつもの俗世界の中での苦労しているのを忘れて、
まるで、大金持ちになったような気になるのだ。
まさに、
大金持ち気分という別世界が、砂漠のど真ん中に忽然として存在する。
それがラスベガスなのであろう。

 

そして、ここにいると
「本物の大金持ちになって贅沢をしたい。あ~大金持ちになりたい!」
という欲求が掻きたてられる。

 

子供が王子様になったりお姫様になるのは非現実的な“夢”でしかないが、
ここラスベガスではそのチャンスが目の前にある。
一夜にして大金持ちになる方法、つまりギャンブルである。
勝って勝って、勝ちまくって
何の努力も無しに一夜で大金持ちになれる可能性がここにはあるのだ。
確率は低いかもしれないが、ゼロではない。
万が一以下の確率であったとしても、ひょっとしたら、可能性はあるのだ。

 

「よしっ! ここは一発大勝負。カジノで大もうけをして大金持ちになるぞっ!
負けたって、どうせ、はした金しかないんだ。
こつこつ働き続けたって、たかが知れている。
生まれてきたからには、一度ぐらい一発勝負を賭けて、大金持ちになるぞっ!」

 

これを「気が大きく」なるという現象と言うか、
「現状からの離脱欲求の開放」と言うか、
なんと言うか、
実際にラスベガスに行って見ると解るかも知れない。
そんな気持ちを掻きたてられる人が、
確率的にはうんと少ないが、きっと、たくさんいるのではないかと思った。

 

このラスベガスを成り立たせているのは間違いなく「カジノ」である。
ギャンブル、博打(ばくち)である。
この街は、博打のためにすべてが作られている。
そう言ってもいいのかもしれない。
すべてが豪華に作られ、豪華に扱われ、豪華な気分になって、
ここ一発、大勝負を賭けて「本物の大金持ちになるぞ!」という気にさせる。
それがラスベガスの仕組みなのではないだろうか。

 

そんな博打の胴元の“思うつぼ”にはまる人は、
比率的にはそんなに多くはないだろう。
それでも、何百万円、何千万円を失ってしまう人もたくさんいて、
一晩ですべての財産を失い、破滅する人も毎日いるとも言う。

 

しかし、ほとんどの人には、
ディズニーランドとはちょっと赴きの違った遊園地のようなものだろうし、
どんな贅沢が自分の周りを囲んでとしても、
それは虚像であって自分とは関係のないものであることを見失ったりはしない。

 

あるいは理性の範囲の中で、
破滅的なレベルまで負けることなく、
ポケットマネーで、ギャンブルをゲームとして楽しむ人のほうが多いのだろう。
しかし、
日常の中で、たとえばパチンコだとか、競輪、競馬などで
小銭での勝負で楽しむ人でも、
このラスベガスに来たら、
“ひょっとしたら”と、一瞬の“夢”を見て、
いつもより、一ケタ上、二ケタ上のお金をつぎ込ませるだけの魔性が、
このラスベガスにはある。
人々のこの街での“損”は、
普通の街でのちっぽけなギャンブルの一ケタも二ケタも大きな物であるが、
また、それを大きな損と感じさせずに、
“一瞬の夢”の代償と納得させるだけの不思議な魔性がある。

 

超が付くほどの豪華なホテル。
すべてが豪華な街全体が、
そのほとんどすべてが、ギャンブルで人が負けたお金で出来上がっている。
私にはそんな風に見えて仕方なかった。

 

たまにギャンブルに勝って、大金を得た人は数少ないがいる。
その人は、その夢のような話をたくさんの人にするだろう。
負けた人は誰にもそんなことを話したくはないだろうが、
勝った人は自慢げに多くの人に話す。
勝った人、そんな人の数は少ないが、非常に有効なカジノの宣伝マンである。
だから出来るだけたくさんの人に話す人、
影響力を持った人にカジノも勝たせるであろうし、
カジノにとって、そんな勝たせた金はハシタ金であり、必要経費のようなものであろう。

 

ギャンブルそのものは確率論で組みあがった勝負だが、
必ず、一定の確率で“胴元”が有利に出来上がっている。
また、カードなどの人為的なギャンブルは訓練されたディラーが圧倒的に強い。
プロの人間が介在するギャンブルに偶然の勝ちなどないのだろうと想像する。
間違いなかろう。

 

驚いた事にラスベガスのホテルは安い。
私が今までかつて泊まったことのないほどの広さで、
今まで経験をしたことがないほどの豪華な設備で、行き届いた管理で維持するのは、
あの一泊一万数千円の値段では絶対に採算は取れない。

 

あの超ホテルとラスベガス全体は、
カジノで維持され、カジノで繁栄し、巨万の富を胴元にもたらしている。

 

そう思いを巡らした時、
私は、私もカジノをやらなくてはならないと、強く思った。
そうでなくてはラスベガスを体験したことにはならないと思ったのだ。
ゲームはルーレット。
カードを使ったゲームの方がギャンブルらしく、ふさわしいとも思ったが、
なにせカードはさっぱり分からない。
分からないゲームをやって、分からないまま負けたのでは、
ギャンブルをやったことにはならない。
だから子供でも分かる「ルーレット」をやる事にした。

 

200ドルをチップに変えて、最初に5ドルずつ単数6箇所に賭ける。
一つの数字が当たった。
一つの5ドルが34倍になり、200-30+170=340ドルになった。
たった3分ほどで140ドル、つまり16,100円勝った。
別に感動はしないが、悪い気はしない。
そのあと続けて5回ほど無造作に無規則に賭けて、全部負けた。
チップは元より減った。
それでもかまわず、また無造作に賭けたら、
今度は、続けて2回勝って、手元には400ドル分くらいに増えて、
飽きた。
増えたり減ったりで、続けても大金持ちにはなれそうにないし、
次の日、朝早く起きなければならないので、
あと一回だけでやめる事にした。
そして、全部を3倍になるポジション1箇所に賭けた。
そして、負けた。
15分ほどで200ドル、2万3千円負けた。
これでいい。
最後のその前に、手元に400ドルくらい持っているときにやめて、
200ドルだけ元より増えたら私は勝ったのだろうか。
いや違う。
ここで勝ったというのは大金持ちになって初めて勝ったということなのだろう。
ここではそうなのだと思ったのだ。
だから、私は大金持ちになる勝負をするより、
寝なくてはと思ってしまったのだから、負けるしかなかった。
それでこそ、ラスベガスのカジノを経験した事になるのだと思ったのだ。
私はギャンブルが嫌いだ。

 

 

しかし、しかし、
トニーが連れて行ってくれたショーは素晴らしかった。
世界一のショーと言ってもいいくらいで、
この先、これ以上のショーを見ることはないかもしれない。
チケットはびっくりするほど高かったが、
それ以上に、何億円、ひょっとしたら何十億円かかったかも分からないほどの
すさまじいほどの“仕掛け”と、
世界一と断言してもいいくらいの素晴らしい出演者、というよりアスリートたちの
素晴らしい演技、演技というよりも芸術は、
私を深い感動と、体が震えてくるほどの興奮を与えてくれ、
何度も涙があふれ、
ショーのあと、しばらく私は機嫌が悪くなったかのように無口になってしまった。

 

このラスベガスにおいて、
ただ一つ、ギャンブルに依存せず、
自立を許された存在であるのではないだろうか。
このショーを見ただけでも、アメリカに来た価値があったと思った。

 

あ~素晴らしかった。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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