谷 好通コラム

2006年05月11日(木曜日)

1394.夢のごとき蝶の舞

最初から私のヒガミの話。

 

石垣の街を外れ川平に向かう途中、
さんご礁のリーフを見渡せる所に
何軒かのカフェが並ぶ。
居宅の一部を喫茶店のようにして「home café ○▲◇」と看板を上げていて、
それぞれちょっとした食事も出来るようになっている。
こじゃれた店だ。

 

こんな感じの店が中部から北部にかけても、
まばらではあるが点々とあって、その数は何十軒にもなるだろう。
ほとんど人家のない海沿いの道路端に多くある。

 

都会っぽいセンスで出来ているので、
オーナーは都会から出てきた人たちではないだろうか。
さしずめ、都会の生活に嫌気が差して、
のんびりと石垣の自然を満喫しながら、片手間でhome caféなるものを経営し、
質素ではあるが優雅に暮そうという人たち?

 

あるいは、
退職金が入って、あるいは何かまとまったお金が入って、
残りの人生を静かに、しかもカッコいいライフスタイルとして、
こじんまりした夫婦だけの喫茶店・レストランを開く。

 

ちょっとこだわりの料理も出して、
必ず「わ~おいしい!」と誉められ、
「添加物を一切使っていない材料ばかりで作っているんですよ」と答え、
お客様から「こんな自然の中で、うらやましい人生ですね~」と言われながら、
毎日を過ごす。
何とも優雅で、知的で、かっこいい人生ではないか。

 

そんな店が最近どんどん増えているという。

 

このような店は、
自分たちの優雅なライフスタイルのために作られたものであり、
お客様のために作られたわけではないので、
私の経験では、この手の店の居心地は良くない。
他人の家を訪問しているようで、
客として店に入っているような気がしないのだ。
建物を誉め、内装を誉め、眺めを誉め、主人の趣味の良さを誉め、
料理を誉め、夫婦のライフスタイルをうらやましがって見せ、
その上で金を払ってくるのは、どうも割に合わないような気がする。

 

私達が泊まったホテルの威勢のいいバーテンダーのお姉ちゃんが、
「あんなのが急にいっぱい増えちゃって、
どこもお客さんが少なくて経営苦しいみたい。
そんなに甘くないですよ。」と、つぶやいた。

 

意味もなく「そうだそうだ」と合い槌を入れる私。

 

本当は一生懸命にやっているだろう小さな喫茶店やらレストランのオーナー達
都会から出てきて、何一つ思い通りは行かない事に苛立ちながらも、
やってきたお客さんたちには、
理想的なライフスタイルを実践する者として、
赤字に苦しみながらも、優雅に振舞わなくてはならない。
これはこれでなかなかツライのではないだろうか。

 

しかし、最初から“ひがんだ”書き方をしてしまったのは、
そののんびりとしたムードに、
うらやましさ半分とイライラを半分ずつ感じてしまうから。

 

3日前の午後石垣島から帰って来て、夕方からすぐに戦闘モードに入る。
一昨日は、東京に行き小田原を回って日帰り。
昨日は朝一で大阪に行って日帰り、
今日は朝一の飛行機で福岡に飛んでいる。午後からは広島で仕事をして日帰り。
私は、今、日帰りの鬼と化している。
長い出張生活をしてきて、ホテルで泊まるのが大嫌いになっているのだろう。

 

私たちの会社は、今、新しい段階に入って、
スタッフ全員の負荷が大きくなってきているが、
むしろこれからが本番であって、もっともっとそれぞれの負荷は大きくなっていく。
IPOという当面の大きな目標を設定したのだから、
2~3年は大きな負荷を全体が負う事は当然のことであって、仕方がないことだ。

 

それは解っていても、
激しく動く間に、
体調を崩して戦線を離脱していく者がいたり、
夜遅くまで仕事をして、深夜になってからもメールを送ってきたりする者もいる。
みんなが、激しく仕事をする間に
腰を痛めたり、頭が痛いと心配なことになったりする者もいて、
みんなが体や心の部分を崩したりしないかと、ハラハラする。

 

私自身は、体力はないくせに
風邪を引いたり、体調を崩したりすることがほとんどなく、
何日でも続けて仕事をやっても苦にならない体質なので、
ただただ心配するだけ。

 

それでも一度進め始めた駒は止めるわけにはいかない。
世間の期待が大きい分、責任も大きいのだ。
何とかコントロールをしながら事態を進めて行かなくてはならない。
歯を食いしばるしかない。
そう思ったとき、
自然に囲まれて静かな生活を過ごす
優雅なライフスタイルを実践しようとしている人を見ると、
うらやましいと思う反面イラッイラッとするのだ。

 

これは、私のただのヒガミであろうか。

 

生きていくスタイルは、人それぞれだが、
与えられた自分の一生を精一杯使って、やれるだけのことをやり
行けるところまで行きたい。
それが自分のスタイル。

 

自然に囲まれて、
静かに生きている喜びをじっくりと味わいたいというのも一つのスタイルであろう。
しかし、それは私にとっては叶えられない姿に思えてしまうのだ。

 

静かに生きるより、激しく生きていたい。
何が自分にそう思わせているのか解らないが、
静かに生きている人を見るとイライラするのは、
私の方に原因があることは間違いない。

 

 

石垣島で蝶を見た。
静かなレストランが並ぶ道路の一つ奥の路地に
蝶館カビラという民家のような建物があって、
その一階部分が蝶のミニ博物館のようになっている。
形態はミニレストランと同じような造りになっているが、お客さんは多い。
入場料300円だが、私たちがいた間だけでも10人近くが入ったり、
美しい標本にした蝶も売っていて、
ミニレストランよりも採算はいいだろう。
奥さん一人が番をしていて、求められれば説明を行なっている。
ほとんど蝶だけの展示は迫力があった。

 

その建物の横に、細かい網で造られた大きなケージがある。
おおよそ横5m×縦10m×高さ5mくらい。
中にはたくさんの種類の蝶が舞っていた。
色とりどりの蝶がヒラヒラヒラと舞って、まるで夢の中にいるようだ。
じっとして見ていると、
その中の一羽の蝶が、お袋さんの周りをつきまとうように舞い始めた。
白い羽根に黒く細い線が網目のように入っている
日本最大の「オオゴマダラ(?)」という蝶だ。
最大と言ってもアゲハチョウを一回り大きくした程度、可愛い蝶だ。

 

そのうちに、
差し出したおふくろさんの手に待ちかねたように止まり、
じっとしている。
おふくろさんが目を細めて、
「あんたとこんなところで縁があって会えたねえ」と
小さな声で蝶に話しかけた。

 

私は見てはいけない神聖な出来事を見てしまったような気がして、
目が熱くなってしまった。

 

 

 

初めてのお袋さんとの旅行は、私にとって深い記憶となって残った。
石垣島の話はこれで終わりです。

 

名古屋に帰って来て、
また激しく動き始めて、一昨日東京から帰って来た時、
名古屋の新しいシンボルとなっているツインタワービルが、
低く垂れ込めた雨雲の中にけむっていた。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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