谷 好通コラム

2006年06月09日(金曜日)

1411.谷好通の長い一日

(掲載は日付を超えてしまったが、話は6月8日のものです。)

 

 

今日、大きな講演があった。
今は東京からの帰りの新幹線の中。
長い一日であった。

 

誰でも知っている日本の代表的な大会社の一つ。
その会社の優秀特約店さんとか優秀SSの全国表彰の会があって、
そこで研修としての講演を依頼されていた。
これはとても名誉なことで、喜んでお受けしたのだが、
会の出席者は約350名、主催者の方が50名ほどで、計約400名。
会が開催される日が近づくほどに緊張感が高まる。

 

私はいつも土壇場で何とかしてしまう大変悪い習慣があるので、
(土壇場勝負は絶対にいけない。準備を十分にしてこそいい仕事が出来るのだ。)
今度こそはと思って、一ヶ月ほど前に原稿を作って準備をした。
1389話「苦闘のパワーポイント」で書いたあれがその原稿だ。

 

大切な会なので、絶対に失敗するわけには行かない。
池本部長の勧めもあって
新入社員の研修生相手に練習をする事にした。

 

会議室にギッシリ研修生を詰め込んで、
ホワイトボードにプロジェクターでパワーポイントを写し、
研修生相手に「洗車とは車を洗うと書くが・・・」などと講演もどきを始める。
しかしテンションが上がってこない。
自分の中での盛り上がりがまったく無く、言っていることにも迫力が無い。
いい加減なことでは研修生の人たちにも申し訳ないので、
一生懸命喋るのだが、
心のどこかで“練習”と思っているか、なかなか気が乗ってこない。

 

結局、最後の結論に行き着くまでもなく話は終わってしまった。
同行する畠中君も、「大丈夫かいな」というような顔をしている。

 

 

それでもパワーポイントにいくつかの不具合があったので、
それを東京に行く新幹線の中で直した。

 

東京に着いたのは午後10時近く、
日本でもっとも由緒のある超高級ホテルの一つ「ホテルニューオオタニ」だ。
そのホテルの一番大きなバンケットルームで会は開かれる。
全部で1000坪くらいはありそうな部屋だ。
それを半分に仕切って、片方を表彰式と研修のための部屋とし、
もう片っ方を懇親会に当てる。
とにかくものすごい広さである。

 

当日のこともあるので、そのホテルに宿を取っていた。
会の準備をしている人たちに挨拶だけして、
ちょっと寝酒をと畠中君とバーに寄る。
ちょっとだけと言いながら、ジンとかウオッカとか強いお酒を飲んで、
かなり酔っ払ってしまった。
部屋に帰って、このコラムを少しだけ書いて、
寝たのは午前1時半、
でも当日は午前11時半からのリハーサルから出ればいい事になっていたので
次の朝、つまり今日の朝は午前8時まで寝て
睡眠十分である。

 

朝から時間がかなり余ったので自分の部屋で時間を過ごす。
パワーポイントの原稿を繰って見て、
原稿のストーリーを頭に入れようとするが集中できない。
ただボぉーっと、外を眺める。

 

そのホテルの外は、なにやら由緒ありそうな洋風館と純和風の建物が見える。
東京赤坂のその周辺は日本で最も地価の高い場所である。
そんな場所にやたら面積だけを食っている古い建物が、
なおさら贅沢であり、文化的価値のあるような建物であった。

 

 

そんなことをボオーッとして見ていたら、
時計の針がジワリジワリと進むのが怖くなってきた。
今までに感じたことないドキドキ感がこみ上げてきた。
こんなことは初めてである。
この会は巨大会社が数千万円をかける最大級のイベントである。
その約1時間を預かることの重大さがヒシヒシと感じてられてきて、
心臓がドキドキする。
不安を感じているのだ。
こんなことは初めてである。

 

約4百人の前で話をすることが怖いのではない。
こういうとヒンシュクを買うかもしれないが、
人前で話をするとき、相手が50人を超したら、百人でも四百人でももう同じである。
50人ぐらいまでの人なら、
どんな人が一番多いのか、
その傾向を考えて、話の内容もそのようにするのだが、
50人を越したら、
あくまでも標準的な話をするだけだ。
返ってくる反応も人数がある程度多くなると標準的なものとなる。
それに、
私は話をする時、ホワイトボードやパソコンを見るために、
近眼のメガネをはずすので、遠くの人は見えない。
100人でも200人でも、いっそのこと1,000人でもそんなに変わらないのだ。

 

あの時、私を襲った不安とは、
私をこんな重要な会に起用してくれた方達に、
もし、話が中途半端に終わってしまったら、
とんでもない迷惑をかけてしまうのではないだろうか。という不安。

 

・1時間という時間はほとんど経験が無い。
・それに、今までほとんど使ったことのないパワーポイントを使って話をする。
しかし、
第一の不安は、
話に余談を入れず、たとえ話を減らして、
具体的な行動に至るための部分を、先に文章にして渡してしまう。
これで多分大丈夫。
第二の不安は、
自分の話の進行を「主」にしてパワーポイントを「従」の関係にすれば、
何とか進められると踏んでいた。

 

それよりも、やはり不安なのは本格的な練習をしていなかったことだろう。
・・・・・・
というより、出来ないのである。
私は、人に対して気持ちを送るつもりで話をする。
気持ちを送って、それを誰か、あるいは多くの人が受け取ってくれて、
受け取った人の気持ちを、今度は自分が受け取って、
また、自分の気持ちを送る。
そんな感じで話をさせてもらうので、
一人では練習が出来ない。
また、相手がよく知っている人であったり、
会社の部下であったりすると、送るべき気持ちが違い、
帰ってくる気持ちも違っているので、
講演などの練習にはならない。

 

本物の聴取を前にしないと、
そのやり取りが出来ず、話が進まない。
気持ちを送るべき相手がいて、初めて話が進んでいくのだ。

 

だから、時間が迫ってきて畠中君が「練習しましょうよ」と言っても、
練習のしようがないのだ。

 

しかし練習をしていないということは、
リハーサルができていないことなので、
結果的に、ぶっつけ本番と言う事になってしまう。
これなら大丈夫だという根拠がないまま、本番で一発勝負になってしまう。

 

こんな大事な会で話をさせていただくのに、
大丈夫である根拠がないまま、ぶっつけ本番をする事に
もし、何かで失敗したら、
取り返しのつかない迷惑をおかけしてしまう。
そう思うと不安が襲ってくるのだ。

 

胸がドキドキするのが止まらない、
参ったなぁ~。
長い長~い時間がゆっくりと過ぎていく。

 

 

午後1時半に会場に入って、この会のメインイベントである表彰が行われる。

 

私の出番は午後3時半。

 

この頃には、やっと度胸が据わって、
ドキドキもなくなってきた。
私は、講演の練習は出来ないのだから、
練習をしていない事に不安を感じても仕方がない。
解決の方法はないのだ。
いつものようなやるしかないのだ。

 

2時半頃、会場から一旦、控え室に戻る。
少し気持ちを集中させたかったから。

 

この頃から担当者のスタッフの様子がおかしい。
とにかく私にくっついてくるのだ。
この会を主催している電通の子会社の社員であるという可愛い女性Aさんが、
何かにつけて、私のそばにいつもいる。
そして、私の存在を確認する。
「私が逃げたら困るので、見張られているのかな。」
なんて、冗談を畠中君と言う。

 

午後3時になって、
Aさんが控え室を開けて、
「そろそろ行きましょうか」
多分ずっと、控え室の外にいたのだろう。

 

Aさんに連れられて会場に行き、
会場横の秘密の扉から楽屋裏に入った。
コードや何かがいっぱい張り巡らされたまさに楽屋裏である。

 

演台への登り口に近いところに小さな机と椅子が置いてあった。
この机と椅子は、11時半からのリハーサルで存在を知っていたし、
そこで15分待つ事も聞いていたので不思議ではなかったが、
机の上にお菓子かごと水がコップに入れてあったのには笑った。
なんか死刑囚の最後の晩餐のようではないか。
やはり私は、すでに隔離管理されていたのだ。(笑)

 

かごには大きな「エンゼルパイ」とか、ビスケットとか、飴がいっぱい入れてある。
ここで15分、お菓子を食べていろということか。

 

その光景に自分を当てはめて想像すると、
おかしくっておかしくって、お菓子食って。
それに、主催の会社のよく知っている社員の方が、
私に話しかけてきてくれて、なぜかレースの話になって、笑っていたら、
すっかりリラックスしてしまった。
(高橋さんありがとうございました。)

 

 

私はミントの飴を一つ食べた。

 

 

やがて、出番が来て、
舞台、じゃなくて演台に出て行く。
「うわっ、ライトがすごいな。こりゃ暑いわ。」と心の中でつぶやきながら、
第一声
「こんにちは!アイ・タック技研の谷です。よろしくお願いします。」
話をし始めたら、
あとはいつもと一緒であった。
気持ちを込めて話をして、向こうから帰ってくる気持ちを感じ取って、
もっと強く気持ちを込めて話をする。

 

いつもと一緒であった。
心配も不安も何もなかった。

 

いつものように話をすることが出来た。
時間も1分をオーバーしただけ。

 

私は、恥ずかしいくらい図太いのかもしれない。
今日も大丈夫であった。

 

しかし、体中がすごく疲れているのは、やっぱり緊張していたのかもしれない。
ひょっとしたら、私はけっこう繊細なのかもしれない。

 

いずれにしても、
無事に終わり、
私を起用していただいた皆さんに御迷惑をおかけせずに済んだのは、
本当に良かった。ホッとしている。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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