谷 好通コラム

2006年09月08日(金曜日)

1471.逞しき人々、上海

一昨日、名古屋のホテルで榊原英資氏の講演を聞いた。
世界で“ミスター円”と呼ばれる彼の話は明快で解りやすかったが、
それ以上に、経済を全地球的に考えるスケールの大きさに驚かされた。
世の中にはすごい人がいるものである。

 

そんな彼が、今の日本に対して一番憂えていると話したのは
日本の若者たちの学力の低さであるという。
彼が教授を勤めていた慶應義塾大学とか現在勤めている早稲田大学で、
韓国とか中国、インドなどから留学に来ている学生と、
日本の学生の学力の差がかなりあると強く感じたということ。

 

加えて、
日本人の学生は、彼ら留学生に比べて、あまりにも勉強をしないそうなのだ。

 

今、日本の教育現場では、
「ゆとり教育」という名で、
オチコボレを出さないことを第一義に考え、
ゆっくりとした学習のスピードになっていて、
優れた者、向学心の高い者の高い水準の学習を進めるスピードが阻害されている事が、
日本人学生全体の学力水準を低くしている根源の問題だそうだ。

 

しかも生活のためのバイトをしながらも
朝から晩まで必死になって勉強をしている韓国や中国からの学生に比べて、
日本人学生のバイトは遊びのためのものであり、
サークルとか遊びを軸に生活をして、
あまりにも勉強をしない日本人学生との学力の差は、学年を追うごとに開く一方であるという。

 

この先、この学力の差が国の経済力の差、国力の差となって、
日本の国としての凋落に結びつくに違いないと憂慮しているということ。

 

これからの世界経済の力の差は、
ITの発達によって、生産設備、すなわち資本の力から、
ソフトの力、技術の力、
つまり人の能力の力の差によって決まっていく時代に入っているという。

 

だからこそ、日本人学生の学力の低下が、
将来の日本経済の凋落に直接的に結びつくというのだ。

 

※これは、あくまでも平均的な話であって、
一生懸命勉強をして、極めて高い学力を得ている学生が日本にもいるが、
傾向として日本人学生の学力が低下しているということだ。

 

これは実に怖い話である。

 

では、韓国とか中国などアジア諸国の学生達が何故そこまで勉強するのか。
彼らにとって必死に勉強をして、自分に学力を付ける事が、
彼らが今置かれている経済的階層からの唯一の脱出の手段であるからだ。

 

日本に比べてアジア諸国での所得格差は凄いものがある。

 

例えば中国では、
学歴が無く田舎から出てきたばかりの肉体労働者ならば、
月1,000元(15,000円)取れれば良い方で、
地方都市でならば月500元(7,500円)程度の安い所得の者もざらである。
それが、高校を出てまあまあの能力を持っていれば月2,000元(30,000円)となり、
大学を出ていて、
例えば日本語など他国語を話せれば月4,000元(60,000円)となり、
日本などへの留学経験があったり、
営業などがかなり出来る能力があれば月7,000元(105,000円)となる。
これがエリート学校であったりすれば月10,000元(150,000円)も夢ではない。
中国では初任給からすでに20倍もの格差があるのだ。

 

日本で考えれば、
どんな学力の人であっても、
就職さえすれば初任給20万円程度は誰でも取れる給料であり、
これが、中国と同じような格差があるならば、
ある程度の高い学力の者ならば20倍の400万円の初任給となるが、
そんなことは間違ってもあり得ない話である。
普通の若者の初任給20万円の5倍の月100万円もの給料を取っている人ですら
サラリーマンの中でもごく一部の人である。
初任から20倍もの差は、日本では絶対に考えられない。

 

日本は世界的に見て、極めて格差の少ない国であって、
それも、若者の給料が異常に高い国である。
日本は、最初から格差の極めて小さい国であって、
競争が少ない国である。

 

格差の大きな普通の国では、
最初から上位の階層に入って行かないと、
スタートからまるっきり所得が違うので、みんな必死に勉強をするのだという。
貧乏な家に生まれても、
自分が一生懸命勉強して学力を上げ、高い学歴を持てば、
自分に最初に与えられた低い階層から脱出できる。
競争に勝てば、最初から高い所、高い階層からスタートする事が出来るのである。
だから、みんな必死に競争する。

 

日本の学校では、
競争は悪い事とされている場合がある。差がつく事は悪い事とされている。
だから、運動会での徒競走すらやめる学校があるそうだ。
競争をさせなければ差はつかない。
オチコボレを出さないためのゆとり教育とは
遅く走るものに合わせて、皆をゆっくりとしか走らせないようなものだ。
競争をさせない。
そんなことをやっていると、速く走れる者がいなくなってしまう。
日本が、社会主義の国よりも社会主義的な国であると言われる所以だ。

 

人の世界では、競争原理は強い動機になる。
皆がそれそれに負けまいとして、必死に頑張っていると全体が強くなる。

 

皆が負ける者を作るまいと、
競争をやめると、頑張る者が減る。
競争をしないと、全体が弱々しい集団になってしまう。

 

過去、社会主義の国々が、
経済活動の活性化が出来ず、
資本主義の国に経済的に負け、壊滅的な状態で崩壊して行ったのは記憶に新しい。

 

競争の原理は、人を頑張らせる一番大きな動機である。
弱者を切り捨てるということとは違う。
弱者は社会全体が守るのが文化的国家であって、当然のことだ。
しかし、勝とうともせずに、
努力もしない負けるべくして負ける者を、負けさせない社会とは
公平な社会とは似て非なるものではないだろうか。

 

今、上海にいる。
いつものように「一獲千金」を狙う逞しい中国人が押し寄せるトレードショーに
アイ・タック上海が出展しているのだ。

 

彼らの逞しさ、好奇心、金儲けに対する執着心丸出しの姿を見ると、
日本は飲み込まれてしまうのではないかと、ふと不安になる。

 

 

中国のスタッフが想像以上に成長していて、
出番が無く、ひたすらチラシ配りをしている日本からのスタッフその1

 

 

瀋陽からやってきてくれたユーさんは、
東北地区でタイヤをひと月10,000本も販売しているのだそうだ。

 

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