谷 好通コラム

2006年10月15日(日曜日)

1493.娘の亭主は、刑事

私の娘の亭主は刑事である。
刑事である男のもとに嫁入りしたのではなく、
娘が嫁いだ亭主殿が、刑事になっちゃったのである。

 

その刑事である亭主を、T君と呼ぶ。
T君はある地方の県警に勤めていて、
一応国立大学は出ているが、
エリートとして自動的に出世の将来が約束されている“キャリア”ではない。
巡査から始まって、
昇進試験を受けながら努力を重ねて順に上がっていく普通の警察官である。
昇進試験を二度受かって、ただ今、巡査部長。
最初は交番勤務であったが、今は、ある小さな市の“刑事”になっている。

 

会うのは娘と一緒の時だが、
よく喋る娘に対して、T君はひどく無口だ。
娘と話をしているのを見ていると、
娘が100言喋ってT君の返事は「うん、そうだね。」とか、「へえ~~」とか、
「わかった。」とか、2秒で終わる。
こんな無口で刑事が務まるのかいな、と心配になるが、
刑事とは自分がたくさん喋るよりも、
聞き込みの相手とか、犯人とか、相手にたくさん喋らせることが仕事なので、
自分は無口でも差し支えない。

 

う~~~ん、なるほど、そう考えれば納得である。

 

署では、
刑事1課、2課、3課と分かれていて、
刑事1課は窃盗とか強盗、殺人とかを扱う。
いわゆるテレビドラマなどに出てくる刑事で、私たちのイメージに近い。
しかし一番多いのはやっぱり泥棒らしい。
刑事2課とは知能犯罪を扱う課で、
組織ぐるみの犯罪、詐欺とか選挙違反などの犯罪や、暴力団関係も扱う。
刑事3課は、生活安全課とも呼ばれ、
少年の関わる犯罪、あるいは風俗などの犯罪も扱うらしい。

 

T君は、今は刑事2課の仕事らしいが、
その前までは刑事1課の仕事で、
泥棒を捕まえたり、不法滞在者を摘発などしていた(らしい)。
(とはいうものの何年か前、「里に“熊”が出て、怪我人が出たので忙しい」と
言っていたところを見ると、地方だけあって結構何でもやっていたようだ。)

 

娘やT君たちと一緒に晩飯を食べた時に、私はビールの酔いに任せて、
「今までに何かお手柄はあったの?」と聞くと、
「いえ、何もありません。」とT君は答える。
“あった”と答えれば、
好奇心満々の私が突っ込んで聞いてくるのを解っていて「無い。」と答えたのか、
本当に無かったのか、その辺はさだかではないが、
T君の職業柄、絶対の守秘義務を持っていると同時に、
元々かなりの無口であるT君からは、
ほとんど何も聞けない、に近い。

 

それでも諦めずに、
「1課の仕事は面白かった?」としつこく聞く、
「泥棒は捕まえても、こちらまでミジメになっちゃうような人が多くて、つらかったです。」
「じゃあ、2課は?」と聞くと、
T君いわく、
「2課で相手にするのは、犯罪で金持ちになっている大物なので、やりがいがあります。」

 

T君は今の仕事にとってもやりがいを感じていて、
とても私の仕事などを手伝ってくれそうにないのを改めて思ったのと同時に、
T君は、きっと今、いい仕事をしているに違いないと頼もしく感じ、
うらやましいとすら思った。

 

「勤務時間はどうなの?ほとんど家に帰れないじゃない?」
と聞いたら、
「突発的なことが多い1課の時はそうでしたけど、
2課はこちらのペースで調べを進めていきますので、そんなことはありません。
朝八時半から午後五時半までの定時で帰れることもあります。」
と、珍しく長い言葉で答えてくれた。

 

娘の話によると、
1課の時は本当に忙しくて、
何日も家に帰ってこないことも度々であったらしい。
そんな亭主を、
「官舎で子供と一緒にひたすらじっと待っているのはやっぱりツライ。」
と、しみじみ言っていた。

 

ある時、
刑事1課に勤務していたある刑事がいて、
やはり何日も家に帰らないような生活が続き、
その奥さんが、そんな生活にもう我慢できなくなったのか、
“離婚届”に自分のハンコを押して、
警察署に怒鳴り込んだ。
「もう我慢できない! 刑事をやめるか、離婚するかどっちかにしてっ!」

 

その後、その刑事さんがどうなったのか知らないが、
そんな話を笑って話す娘がちょっと不憫になってしまった。
(その割りには私も大きな声で笑ったが)

 

どんな仕事も楽なことはない。
どんな仕事でも、そこにやりがいを見つけることが肝心なようだ。

 

彼は刑事さんである。
しかし、その素顔はきわめて普通の若者である。
テレビゲームが大好きで、
PCを自分で組み立てるのも大好きだ。
娘の目を盗んで“パチンコ”にも行って、よく負けてくるという。
しかし、とりわけ好きなのは子供を風呂に入れることというのは、
昔、全く子供の面倒を見なかった私にとっては、むしろ尊敬すべきことだ。

 

そんな普通の若者が、
我が娘をもらってくれて、
決して贅沢ではないが、
豊かで温かい家庭を二人で作り上げて、
一人の子供どころか、二人目の子供を宿し、
娘がこれ以上無いほどの幸福感を持って生活をしている。

 

ありがたいと思うと同時に、
自分が年をとって“おじいさん”になったことを、いまだに認めたくなくて
我が孫に「オーキイオトーサン」と呼ばせている自分が、
つまらない自分に思えてきた。

 

もっと素直に、
もっと自然に、
何が大切で、何をすべきなのか、
すべてを原点に戻して考えるべきなのだろう。

 

「日本に新しい洗車文化を」

 

 

誕生日プレゼント代わりの小旅行で、おいしい魚をみんなで食べる。

 

 

今度会ったら、自分のことを「おじいちゃん」と呼べるかな。

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    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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