谷 好通コラム

2007年07月19日(木曜日)

1682.相手の立場ならば

カーディーラーさんが新車を販売する時に5年間保証とかのコーティングを施工販売するようになってから何年経つだろう。
7.8年前か、もっと前か、
私達は、最初、これらのコーティングをバカにしていた。
「5年間も何を保証するのか。
ポリマーを使ったコーティングは、
その構造上、5年間もそのままの形でいられるものは無い。
あり得ないことを保証して、カーディーラーは何を考えているのか。」
そう思っていた。

 

その内にそのからくりが分かってきた。
そのコーティングを買った人は、
「●○○コーティング・メンテナンスキット」なる物を渡されて、
定期的に自分でメンテナンスをすることになっていたのだ。
色々なコーティングのメンテナンス剤と呼ばれている物を調べたが、
そのほとんどは当たり前のクリーナーワックスであって、
市販の一番安い液体ワックスと変わらないものであった。
そのメンテナンス剤を使って磨けば、
“艶・ツヤ”が、5年間保たれるというのだ。

 

数万円もするコーティングのその被膜が保たれる訳ではなくて、
「自分でクリーナーワックスで定期的に磨けば、ツヤは保たれる。」
そりゃそうだ。
最初にやった高価格のコーティングが無くても、
クリーナーワックスで定期的に磨けば、
少なくともある程度のツヤぐらいは保てるだろう。
じゃあ、最初のコーティングは何の役目をしているのだろうか。
たしか、メンテナンス2回目、3回目ぐらいで最初の被膜は、
クリーナーワックスで削られて消滅してしまうと、ある研究機関で聞いた。

 

誰だって、
「5年間保証のコーティング」と聞けば、
「コーティング被膜自体が5年間持続して車の塗装を守るもの。」と思う。
それが、
「自分で定期的にクリーナーワックスで磨けば、ツヤが5年間は保てる。」なんて、
そうは思わないだろう。

 

これはおかしいと裁判を起こした会社があった。
ワックスメーカーのウィルソンだ。
ウィルソンは、このような誰もが間違った解釈をするような表示は違法であり、
その表示によってワックスを掛ける人が減り、
ワックスメーカーである自社は多大な損害をこうむった。
そんな訴訟であったように思う。
この裁判は一審ではウィルソンが勝って、
5年間保証の表示の変更を求める判決が下ったが、
控訴審の2審では、
逆転して「キチンと読めば嘘が書いてある訳ではなく違法ではない」
という結果になって、
今は最高裁で争っているはずだ。
あの裁判がどうなったのか、しばらくその話を聞いていないので分からないが、
少なくとも、「5年間保証」の文字は、ユーザーに大きな誤解を与えるには違いない。

 

そんな問題がある物をカーディーラーともあろう者が、
自らの信用を盾に販売を続けるわけがないと思っていた。
それこそ信用を失ってしまうからだ。

 

しかし、意外にも、そのようなコーティングがいまだに存続し続けているということは、
一般ユーザーからのクレームが少なかったということなのだろうか。
自分でメンテナンスをしなければならないのに、
ほとんどの人がやっていないので、
「しょ~~がない。」ということになっているのだろうか。
だとするならば、
「5年間保証。定期的なメンテナンスをすれば“ツヤ”が5年間保てます。」
この言い方は、
一般ユーザーを納得させるというか、煙にまくというか、
実にうまい言い方であったということにもなる。
何とそれが新車販売の50%にまで通用するとは、思ってもいなかった。

 

私たちにとっては、
カーディーラーさんに新車販売時にコーティングを施工され、
「NO WAX!」とステッカーを貼られてしまうと、
ワックス掛けはもとより、洗車機洗車も、撥水洗車も、
はてはKeePreコーティングまでもが
やってはいけないことと思われてしまうので、迷惑千万であり、
つい、「あんなものは・・」と言いたくなってしまうのだが、
考えて見れば、
ディーラーさんも頑張っているんだなぁとも思う。

 

新車の販売台数はたしか7年ぐらい落ちっぱなしで、
最盛期に比べると80%程度まで落ちているのではないか、
中古車だって何年か販売台数が落ち続けている。
みんなが1台の車を長く乗り続けるようになったということらしい。

 

そんな状況の中で、
新車販売の後のビジネス、つまりコーティングであったり、車検であったり、
新車販売以外の収益を貪欲に求めて、
何とか生き残りを勝ち取ろうと必死の努力をしているのだ。
そういう意味では見習うべきであろう。

 

我々の原点であるSSにおいても、
自由化によって自ら同士の競争において口銭は落ち、
弱肉強食の淘汰が行なわれつつある。
しかし、絶対的保有車両台数は減っていないので
燃料油の出荷自体は目に見えては落ちていない。
車の販売業における販売台数が劇的に落ちている事を考えると、
業界全体の販売規模が落ちていないのは、むしろ好材料であろう。

 

しかし、地球温暖化対策において燃費向上が社会的な要請の中で、
今後、燃料の販売絶対数量が減少していくことは明白であって、
そんな状況の中でも、自らの店舗を燃料販売業の枠組みの中から外れようとせず、
あくまでも枠組みの中でしかビジネスを考えられない経営者がまだいるとしたら、
もはや、生き残っていく術は無いのではないか。
新車販売業であるカーディーラーが、
なりふりをかまわず、1台1台の新車に数万円のコーティングを上乗せし、
収益にプラスαの効果を求めているのは、
そのやり方自体がいいか悪いかは別としても、
経営の姿勢としては、見習うべきではないだろうか。

 

カーディーラーは、その立場として“信用”というメリットを持っている。
SSも、来店台数と来店頻度というカーディーラーがうらやむメリットを持っている。
どちらの立場もメリットとデメリットを同じ量だけ持っており、
どちらが優位であるとは言えない。
あるとすれば、ビジネスに対する厳しさと柔軟性の差ではないか。

 

向こうも必死ならば、
こちらも必死になって、
なりふりかまわず生き残りを考えるべきだろう。

 

 

今日は、朝、名古屋から大宮まで来て、
それから熊谷に近い東松山に行った。
今は宇都宮に来て、ホテルでこれを書いている。
いい事がいっぱいあった。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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