谷 好通コラム

2007年09月28日(金曜日)

1739.「鬼手仏心」

昔、名古屋の野並という所に住んでいた時、
近くに、鏡味外科という小さな病院があった。

 

近所では名医ということで有名で、
私も家族も何度か治療してもらったことがあったが、まるで神業のような処置であった。
なんと言うか、思い切りの良い、こちらが躊躇する余地を与えない早業で、
痛くても、先生に自然に身を任せていればいいと思わせてくれる空気があった。

 

その鏡味外科の診療室にこんな言葉が書かれた額がかけてあった。
「鬼手仏心」

 

外科の先生が掲げている言葉なので、
「仏の心を持ちながら、鬼の手のごとく躊躇せずメスを入れる。」
という意味なのだったのだろうと思う。

 

今日この言葉を思い出しながら、こんな空想をした。
たとえば、
「今見えている傷は小さくても、
その傷は表面的なものであって、
今すぐ、その周囲まで大きくメスを入れなければ、
命取りになりうるような種類の怪我であった。
しかし、本人にとっては、
今見えている小さな傷さえ直せば大丈夫だと思えるし、
大きく切れば、
今より痛いことなるわけだし、
明日から楽しみにしていた旅にも行けなくなる。
何よりも、大きな傷跡が一生残ることになるので、
それはいやだと思う。
その気持ちを察知したにもかかわらず、外科医は、問答無用で大きくメスを入れ始めた。
患者の命を助けるために。」

 

たとえばの空想の話であるが、
この外科医は本人の同意をはっきりとは得ていないわけで、
ひょっとしたら訴えられるかもしれない。
“鬼の手”かもしれない。
しかし、そうすることが本人の命を助けることになるとしたら、
彼のやったことは間違っていたのだろうか。
自分のリスクを考える前に、相手の命を考える心は、
“仏の心”“なのだろうか。
相手のことを妥協なく考え、
相手にとっては鬼のように思えることでも躊躇することなく実行する。
あの外科医の掲げていた言葉は、そういう意味だったのかな。

 

 

もう一つ、別のたとえば、

 

何かのきっかけで、自分の収入以上の支出を伴う生活を始めてしまっていて、
家計が赤字になっていることに気が付いた時、
自分の家庭ならどうするだろうか。

 

また収入が増えればいいのだからと、生活は変えずに、
どうしても足りなくなったら、消費者ローンでつなぐか。

 

あるいはすぐに、収入に見合った生活に変えて家計の赤字を解消するか。

 

自分の家族のためを考えるならば、
後者でなければならないことは100%当然だ。
収入は増えるかもしれないが、増えないかもしれない。
しかし支出を収入に合わせた生活にさえ変えておけば、
増えても、増えなくても、その家庭は間違いなく平和であろう。
変えた生活が、その前の生活よりも少し不自由であっても、
少なくとも100%、みんな平和である。

 

逆に、その少しの不自由さを捨てきれず、生活を変えなければ、
収入が増えなかった場合、確実に、その家庭の平和は崩れる。
少しの不自由を続けるために、
収入が増えかったら家庭が崩れるという危険を冒すのは、愚かでしかない。
本当に家庭と家族を愛しているものの行為ではない。

 

収入は本人の働き次第であるのは当然であるが、
社会情勢とかさまざまな事情で増えないこともある、
時には、いっそう減ることさえある。
本人にはどうしようもないこともありうるのだ。
しかし支出は自分の意思次第で減らすことは出来る。
まず自分で間違いなくやれるのは支出を減らすことだ。
その上で、収入を増やす努力をすればいい。頑張ればいいのだ。
支出を減らした上で、努力の甲斐あって収入が増えれば、
それは素晴らしい。いいことがいっぱいあるはずだ。
今より少し不自由になるだけで、
収入が増えなくても家族の平和が守られ、
収入が増えれば家族の平和はもちろん、それまで以上の幸福がやってくるだろう。

 

「鬼手仏心」
あの外科医は、患者の命のために自らを省みず鬼の手・メスを振るってくれる。
しかし、自分の家庭においては、
自分の生活に、自分の手で、鬼の手のごとくメスを入れなければならないのだ。
これは、会社というものにおいても同じことである。
自らの会社・社員のために、自らの経営に、自分の手でメスを入れられるか。
自らの体に痛いメスを自らの手で突き立てられるか。

 

もう30年前に住んでいた野並にある鏡味外科の診察室に掲げてあった額に、
「鬼手仏心」という文字があったのを思い出した。

 

 

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