谷好通コラム

2007年11月12日(月曜日)

1773.肯定的エンターテイメント

その昔、
結婚式は家と家との縁が結ばれる儀式であった。
主役はあくまでも両家であって、
新郎と新婦はその象徴であった。
そのこと自体は今も形として残されているのだろう。
親族の控え室で親族同士の対面が行われ、それぞれが自己紹介をして縁を作る。

しかし今や、その披露宴は、全く別物になっているようだ。
純粋に個人と個人との結びつきを、たくさんの人の前で披露して、
その結びつきをみんなで祝い、肯定して、事実として認め合う。
夫となる者は、妻となる者の幸せをみんなの前で保証し、
妻となる者は、幸せになることを誓う。
言ってみれば、それは儀式と言うよりもエンターテイメントに近い。
主役は、もちろん結婚する本人たちであり、
彼らがすでに持っている個人的な社会、会社であり、友人、知り合い達である。
新郎、新婦の過去、現在すべてを肯定して、
すべての肯定の上に立った新たなスタートを切るお祝いである。
肯定的エンターテイメント。

その昔、大昔、結婚は子孫を作る意味の儀式であった。
血族と血族とが共通の子孫を作り出す新たな縁を祝い、
新たな血族と血族との結束の儀式であった。

しかし今は、パーソナリティとパーソナリティが
一つの家族を作り始めるための新たなスタートのための宴になっている。
社会が変わったのであろう。
社会が、血族というものをそれほど必要としないようになって来ていて、
単家族とパーソナリティの集合体になってきているのだろう。
だから、
単家族の中から個人が出て、
その個人同士が、また新たな単家族を作るスタートのためのお祝いなのだろうか。

何十年も前から、何十組もの結婚式に出席してきて、
その時代、その時代で、大きく結婚式、披露宴の変わり方を感じてきた。

その昔、
結婚式は大体が神前結婚式で、たまに仏前結婚式があったが稀であった。
それがいつの間にか、
結婚式はなぜかキリスト教式が当たり前になって、
40年ほど前に出現した結婚式産業のビルからにわか神前が消え、
カトリック式のミニ教会が乱立した。
神主さんは、地鎮祭とかお正月だけの出番になってしまったようだ。
もっと昔に、お寺のお坊さんの出番が葬式だけになってしまったように。
その昔、
結婚式には必ず仲人さんがいて、それを「大役」と言っていたが、
それがいつの間にか仲人さんがいなくなり、過去の遺物となって、
仲人の組数を自慢にしていた有力者さんたちを嘆かせることとなった。
時代の流れは速く、
キリスト教式の結婚式も個性派には飽きられたのか、
人前結婚式とか、あるいは、
個人とか家族にゆかりのある場所で純宗教的に行われたりして、
結婚式産業の脅威になっている。

その昔、離れた地方の出身者同士が結婚する時には、
それぞれの血族の長、あるいは喉自慢が、それぞれの地方の民謡とか地の唄を唄って、
それぞれの地方を紹介し合ったりした。
それが、いまや、
個人の友人たちのカラオケ合戦になって、
とうとう、結婚する本人たちが歌いはじめた。

昔のことを引き合いに出して、今を嘆いているのではない。
社会の文化が大きく変わってきていることに思いをはせ、改めて驚いているのだ。
社会全体が、日本式の”家”という血族文化から、
中国式でもない、ヨーロッパ式でもない、
あえて言えばアメリカ式の、個人と単家族の集合体である文化に変わってきている。
そんなことをつくづく思った。

そんな文化の変化に伴った、結婚式、披露宴のあり方の変化に、
その昔を知っている私たち年代の人間も、素直に、その変化を受け入れる。
私たちが、その文化の変化を作った張本人なのだから。

二人のすべてを肯定し、
その肯定の上に立った新たなスタートを切るための素晴らしいエンターテイメント。
これが日本の新しい文化なのだろう。

今日は、当社名古屋営業所所長の熊澤俊典(しゅんすけ)君と
まさしく才色兼備の多恵さんとの結婚式。
カラオケ自慢の熊澤君は、もちろん歌った。
気持ちよく、すべてを発散するように歌った。
そして、泣いた。
素晴らしい新しい家族のための肯定的エンターテイメントであった。

オメデトウ!