谷 好通コラム

2009年01月27日(火曜日)

2122.冒頭に「私利私欲はきっぱりと捨てた」

何日か前、ある上場会社の社長のブログを綴った本の冒頭に、
「私はこの会社を経営するに当たって私利私欲をきっぱりと捨てた。」
というような言葉が書いてある。
「おっ最初からそう来るか?」と思った。
読み始めたばかりなので、
その本の内容についてはまだ何も言えないが、
頭から「きっぱり私利私欲は捨てた」と書けるのは相当なものだ。
面白い。実に面白い。

 

会社が発展、拡大するのは、
その会社が作り出す付加価値を、
消費者などの“社会”が必要とするからで、
社会あるいは消費者は“買う・使う”という行為で、
その会社の提供する付加価値に対して報酬を与え、発展させる。
つまり、社会のためになれば会社は大きく発展できるということになる。
だから会社の意志を決定する経営者と、それを実践する会社の構成員は
社会のためになり、役に立つことを考えればいいのだ。

 

単純なことで、
相手のためになることを考え、作り、提供すれば
相手はそれを必要と思い、欲しいと思って、買う、使い、報酬を与える。
逆に、
自分のためになることだけを考え、作り、提供しても、
相手は自分のために作られ物ではないので必要とは思わず、欲しいとも思わず、
買わず、使わず、もちろん報酬も与えない。
あるいは、
報酬が欲しいという自分のために、
相手のためを仮想して考えても、根底に“自分のために”があるので、
相手が必要である物、欲しい物を作り、提供したつもりでも、
それはあくまでも“つもり”であるだけで、
相手が必要と感じ、欲しいと感じてくれることは稀である。
よほど想像力が豊かでも、根本的な目的が違うのでそのズレは隠しようがない。

 

会社というビジネスを実行する者は、
ビジネスの相手である“社会のために”を本気で考えるべき宿命を持っていることになる。
少なくとも、現代ではそうであろう。

 

だから、会社の意志である経営者は、
会社が発展し、社会一般を相手にする規模になっていくどこかの時点で
「きっぱり私利私欲は捨てた」が必要になってくるのだ。
少なくとも現代社会ではそうだ。
どこかで「ふっ切る」必要がある。

 

そうすると、社会全体がその会社を必要とし、
その会社が発展することを望むので、必然的に会社は発展、拡大する。
当然、経営者としてのたゆまざる経営努力が必要ではあるが。

 

加えて、
会社が、社会のために役に立つ存在になろうとする姿勢を持つと、
会社の構成員、社員、アルバイト、パートさん全体に大きな効果を持つこともある。
仕事に誇りを持ち、目的意識を共有することによって
全体の仕事が非常に活性化することだ。
誰だって、社長の私利私欲を満たすために一生懸命仕事をしようとは思わない。
自分のやっていることが社会の欲求と必要を満たし、役に立ち、
ある時は感謝され。
それが結果として自分の生活を豊かにし、家族を幸せにできるなら、
これ以上のモチベーションはないはずだ。

 

そうすると、
会社の構成員すべてが、
相手のためになることを真剣に考え始め、
相手のことを我が身のことのように思うようになる。
そうすることが、自分も含めて、会社も、相手であるお客様も、
すべてが喜ぶ結果になる事を知っているので、
当たり前のように、相手の身になることが出来るようになる。
そうすると、本当に相手が喜ぶような仕事が出来るようになって、
仕事にいい結果が出る。

 

しつこく、別の言い方で書くと、
仕事においてのいい結果とは、
こちらが提供した付加価値が、相手にとって、相手からいただく報酬を上回り、
相手に満足を与えた上に、
その相手からいただく報酬が、
その付加価値を作り出すコストを上回って、つまり利益が出る。ということ。
・「相手にとっての付加価値」>「報酬」>「コスト」の関係。
そして、
「報酬」-「コスト」=「利益」となる。

 

キーになるのは「相手にとっての付加価値」の大きさである。
「相手にとっての付加価値」>「コスト」であることが絶対条件で、
「相手にとっての付加価値」<「コスト」であっては、
・「相手にとっての付加価値」<「報酬」>「コスト」・・・相手は買わない。
・「相手にとっての付加価値」>「報酬」<「コスト」・・・赤字になる。
このどちらかであって、ビジネスは成立しない。

 

では「相手にとっての付加価値」>「コスト」の関係を作り出すためには、
「コスト」を小さくするか、
「相手にとっての付加価値」を大きくするかということになるが、
「コスト」は、どうしても必要なだけは必要なわけであって、小さくするにも限度がある。
それに対して「相手にとっての付加価値」は、
相手が決めることであって、
相手の満足と喜びが大きければ大きいほど、大きくすることが出来る。
限度はあるかもしれないが、ある意味どこまでも大きくすることが出来るはずだ。

 

だから、ビジネスとして成功したいならば、
相手にとっての満足と喜びをどこまで大きく出来るかが勝負になってくる。

 

相手の満足と必要と、喜びは、相手になって考えなければ解らない。
だから、仕事を考える時、自然、相手の身になるのは必然なのだ。

 

私利私欲だけでビジネスをすると、
「報酬」>「コスト」=「利益」だけに目が行き、
その大元になっている「相手にとっての付加価値」を見失ってしまう。
ビジネスにとって一番肝心な「相手にとっての利益」を忘れてしまう。
会社が小さいうちは、
大きな会社から仕事をもらっている場合が多いので、
結果として「相手にとっての付加価値」を作り出す片棒を担ぐことになっている。
しかし、ある程度会社が発展し大きくなってくると、
自分自身の会社が「相手にとっての付加価値」を直接作らなくてはならなくなって、
そこまで成った時点でも、相手の立場になれないでいると
「相手にとっての付加価値」を見出せず、
その製品やサービスという付加価値は、相手と社会にとって不要な存在になっていく。
成長が止まり、ある時点で下降線をたどり、
やがては消滅するか、
また「相手にとっての付加価値」を作り出している会社の下請けに戻る。

 

会社はその規模があるレベルの大きさになった時、
その経営者は「私利私欲はきっぱりと捨てた。」と宣言する必要がある。
ということになるのか。

 

私が読んだ「私利私欲はきっぱりと捨てた。」と
冒頭に書いてある本の著者が経営している会社の方が、
私たちの会社が求めているニーズに関係するであろうすべての人、
幹部からスタッフの方までが揃って来社された。
そして始まったのが、
その人達が、私たちの会社のスタッフに成りきっての議論。
「こうしたほうがいい。」「これはああした方がもっといい。」
「お客様はこれを見て、こう感じると思うから、これはだめだと思う。」
なんて、ヘタすると私たちそっちのけで議論が盛り上がる。
私たちの会社のことを、自然にわが身のこととして議論しているのだ。

 

私は、
「ああ、この人達なら、
私達が大切にしているお客様のことを、私たちと同じ視点で考え、
パートナーとして力を合わせてくれるかもしれない。」と思った。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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