谷 好通コラム

2010年09月21日(火曜日)

2616.未来のサービス業として

私がガソリンスタンドに就職したのは約40年前。
当時の給料としては破格に高い6万円/月で、
トラック専門のガソリンスタンド(軽油スタンド)での深夜の専門勤務だった。

 

25年前に独立した時もガソリンスタンドとして店舗を持った。
今は洗車・コーティングの仕事をしているが、
その顧客はガソリンスタンドの人たちが多く、
考えてみるともう半世紀近くガソリンスタンド深い関わりを持って仕事をしている。

 

その間にガソリンスタンドの在り方も大きく変わった。
今は多くのガソリンスタンドが「セルフ」になっていて、
経費のかかると言われる「フルサービス」昔からの形態の店がどんどん減っている。

 

しかも「セルフ」が増えてその分「フルサービス」が減るのではなく、
それ以上のペースでガソリンスタンドの数全体が減る一方なのは寂しい。
私のガソリンスタンドに関わり続けた40年の歴史の中、
一番大きな変化が起き始めている。

 

 

そんなに遠くない未来に、
ガソリン、軽油などのいわゆる「化石燃料」が
車のエネルギーとして大きく減少する事態になることは確定的であり、
そのような事態に見合った体制が作られつつあるということなのかもしれない。

 

いずれにしても遠くない未来に向けて自動車用燃料の使用量が減ることは確実で、
それを供給するビジネスであるガソリンスタンドの数も大きく減ることも確実だ。

 

供給ビジネスの規模とは「供給(販売)数量」×「利益単価(口銭)」。
そのビジネス全体の規模が、
何年か後に減少することが分かっているので、
今まだ「販売数量」が減少していない時点で、
先に「利益単価」を減少させれば、ビジネス全体の規模は縮小する。
すると現在存在しているインフラの量(店舗数)を支えきれず、
販売数量が本格的に減少する前に、インフラが減少することになる。
つまり、来るべき本格的な需要の減少があっても支えられる量のインフラに減少できる。
今の業界の動きは、供給側の能動的なビジネス縮小の方向だと捉えることも出来るか。

 

 

先日、研修用のビデオを作る目的でセルフのスタンドを2軒たずねた。
両方ともセルフらしい大きな出荷量を確保しながら、
燃料以外の収益、とりわけ洗車・コーティングの収益は水準以上を確保している店舗だ。

 

その店長達のお話をお聞きする中で共通していることがあった。
お二人ともフルサービスのスタンドを経験してからセルフのスタンドに来たのだが、
「セルフのスタンドのほうがお客様とじっくりと話が出来るようになった。」
「フルサービスの時は出来なかったようなサービスが出来るようになった。」
「フルサービスの時より、お客様とのコミュニケーションの量が増えた。」
とおっしゃる。

 

私自身はガソリンスタンドの現場から離れて10年以上も経っているので、
感覚的に遅れてしまっているのだろうか、
セルフスタンドになると、
お客様とスタッフとのコミュニケーションは
フルサービスのそれよりも希薄になるとばかり思っていたが、
むしろ逆であり、
セルフになってコミュニケーションの量も増え、深さも増したという。

 

フルサービスの場合、
給油と窓拭きなどに手間を取られて、
その合間に「窓越し」の短いコミュニケーションしか取れなかったのが、
セルフになるとその手間がなくなるので、
じっくりとお客様とお話ができるというのは理解できる。

 

しかし、セルフのお客様はご自分でガソリンを入れているわけなので、
そのお客様にスタッフが話をしに行くのは、
お客様に給油をやらせておいて、自分は何もせずにお客様と話をするのは、
感覚的にお客様に対して失礼な感じがしてどうにも抵抗がある。
しかしお話を聞くと、
そうばかりでもないようだ。
もちろん、セルフスタンドで話しかけられるのを嫌うお客様も多いそうだが、
多くのお客様がこちらから話しかけて言っても、
よく話を聞きいてくれたり、お話をしてくれるそうなのだ。

 

話しかけられるのが嫌なお客様と、
話しかけられるのがむしろ嬉しい人がいて、
その見分け方は、
お客様の車がセルフのスタンドの入ってくる時、
「いらっしゃませ」とこちらが元気な声で挨拶をすると、
こちらを向いて「目線を合わせてくれるお客様」は話しかけても大丈夫で、
声のするほうを見向きもせずにとっとと計量器に行く人は、
話しかけられても、かえって嫌がる傾向があるという。

 

「目線を合わせる」は、コミュニケーションのベースであって、
こちらが目線と声を送って、目線をこちらに返してくれる人は、
その時点で、最初のコミュニケーションを成立させてくれた人であり、
給油中のお客様にこちらから話しかけるという一歩進んだコミュニケーションを、
受け入れてくれる可能性が高いということなのだろうか。
なるほどな、と思った。

 

もう一つ、セルフで喜んでくれるサービスが「タイヤのエアーチェック」だという。
フルサービススタンドの時は、
給油と、給油に付随する窓拭きサービスが忙しくて、
お客様が「タイヤの空気見てくれる?」と言われると、
スタッフにとってはもう一つ余分な仕事が増えるわけで、
言われて嬉しくはない。
私も昔の長いガソリンスタンド生活の中で、
特に店が給油客で混んでいる時に
「長距離行くんだけどタイヤの空気見てくれる?」と言われたことはよくあって、
そんな時、正直言って、面倒だなというマイナスの感情を持った。
そのマイナス感情はお客様にも敏感に伝わっていたはずだ。

 

しかし、セルフになると
給油と窓拭きの手間から解放されているので、
お客様とのコミュニケーションを取るきっかけとして、
「よろしかったら、タイヤの空気圧の点検をしましょうか」と声をかけることが多い。
これはお客様にとってはありがたいことである。
タイヤのエアーチェックはお客様にとってはぜひやってもらいたいことの一つであり、
フルサービスのスタンドでは、ちょっと面倒がられていたのに、
セルフではむしろ進んでやってくれようとするのだから、
「セルフってサービスいいねー。」ということになる。

 

消費減少を見越したインフラ(店舗)数の縮小方向を実現するために、
単価利益の圧縮をしても店舗を経営的に維持できる形態として、
コスト削減を実現できるセルフスタンドが出現したとしても、
(セルフ出現の理由はもっと複雑なのだろうが)
それが結果的に、
お客様と店舗とのコミュニケーションを広げ、深めていることは新鮮な驚きだ。

 

ガソリンスタンドの長い歴史において、
ガソリンスタンドは車用の燃料を個々の車に供給するための店舗であり、
安全運転のための必要商品と必要サービスを提供する店舗であったものが、
お客様とのコミュニケーションを軸とした
「欲求商品」「欲求サービス」の販売を実現する
まさに「サービス業」に変化しつつあることになるのではないだろうか。

 

これは新たなる時代への適合の第一歩になる可能性を感じた。

 

もともとガソリンスタンドは、
地域に密着し、地域の車生活を担う一つのコミュニケーションの場でもあった。
それが、時代が進むにつれて、車が丈夫になりフリーメンテナンス化して、
主に燃料供給の場に限定されて地域に提供できる付加価値も減り、
経営が苦しくなる中、地域においてはガソリンスタンドの閉店が相次いでいた。

 

車用の燃料の需要が一方的に減少する未来に対して、
燃料の供給拠点としての店舗から、
車生活(車以外も)を豊かにするあらゆる付加価値を提供する「サービス業」に
質的に転換をすれば、今ある燃料供給のための店舗、インフラが、
社会に貢献する重要な位置を持っていけるのかもしれない。

 

この最も根幹になるお客様との広く深いコミュニケーション力が、
今、セルフのスタンドに芽生えて来ているとしたら、
それはすごく明るい材料である。
フルサービスのスタンドも、自分達がサービス業であることを強く意識すれば、
質的転換することは十分に出来るはずだ。

 

今後、考えられるサービスとは、
車を美しく維持し、車の価値を維持するサービスである洗車、コーティングはもちろん、
急速充電サービス、簡便なレンタルサービス、
セキュリティーサービス、板金塗装サービス、
車を出来るだけ安く買うためのサービス、
出来だけ高く売るためのサービス。
車検を通すサービス、出来るだけ有利な保険のサービス、
・・・・・・・・・・・・
考え始めるといくらでも出てくる。
これを車以外の生活にまで範囲を広げれば、もっともっとあるだろう。

 

それぞれの地域に根付き、お客様との広く深いコミュニケーションを軸として、
車生活から、あらゆる生活に役立つサービス業が、
未来において供給すべき燃料が、車社会に必要でなくなった時、
今持っている立地を活かした新しいビジネスに進化しているのかもしれない。

 

サービス業とは、お客様との広く深いコミュニケーションを基本としている。
今大隆盛の「美容院」のように。
キーパープロシッョプ、キーパーラボは、
燃料に次ぐ来店頻度と需要の多さ、大きさにおいて、
新しいサービス業の一つの基本になれるかも知れない。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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