谷 好通コラム

2011年06月06日(月曜日)

2801.6月1.2日、日・欧の“違い”を考える

今回のヨーロッパ出張の最後。
6月1日と2日は
ドイツ・ノイブルグ⇒ミュンヘン⇒フランクフルト⇒中部の移動だけの日程。
朝、ノイブルグのホテルで目が醒めて、
朝食を済ませ、ミュンヘン空港へ送ってくれるDr.ピッチを待つばかり。
ほんの少し、ほんの少しだけだがノイブルグの町を眺めた。
正味でいえばたった二日間だけのヨーロッパ滞在であったが、
色々なことを考えた。
ヨーロッパと日本の違いを考えた。

 

日本とヨーロッパの文化の違いとは「木」と「石」の文化の違いではないか。

 

日本はいうまでもなく地震の国である。
先の東日本大震災のマグニチュード9の大地震は稀にしても、
100年サイクルで考えれば
マグニチュード8クラスの地震なら頻繁に起こっている世界でも稀に見る国である。
これはいくつものプレートが複雑に入り組んで
ぶつかり合い、もぐり込みあっている場所なのだから当然のこと。
ヨーロッパのように大地が安定している地域ではない。

 

だから、日本がヨーロッパのような石造りの建造物を立てたら、
石は硬く比重が大きく「重い質量を持った建造物」になるので、
地震が起きた時、地面の速度を持った動きに上に、
大きな質量を固定したら、
地面の加速度についていくために建物を地面に固定している部分と
建物を構成しているあらゆる部分に巨大な力がかかる。
かつ硬い構造なので加速度を吸収することが出来ないので、
たちまち破壊してしまうだろう。

 

だから、日本では軟らかく軽い比重の「木」が建物に使われ、
地震が起きた時に、
地震、つまり地面に縦横の加速度がかかっても
木の軟らかい構造で加速度を吸収すると同時に、
軽い質量なので建物と地面のつなぎ目と構成部分に比較的大きな力はかからない。
木の建物とは石の建物に対して地震に圧倒的に強い建物と言える。

 

それでも、大きな加速度がかかる大地震が来れば倒壊することもある。
だから、古い寺院や神社など建物が残っているのは、
地震の少ない京都とか奈良などに集中している。
京都とか奈良は、そこに文明があったから古い建造物が存在していることも事実だが、
揺れない地盤を持って入る地域だから、
建造物が残って文明が発達することが出来たとも言える。

 

始終揺れている日本には、
基本的に「石」よりも地震に強い「木」の建物が合っているのである。
しかし、木は有機物なので燃える。
有機物、つまりその分子構造の中に炭素[C]を持った材質なので、
空気中の酸素[O]と容易に結合して、つまり激しく酸化して、つまり燃えて、
安定した[CO2]になる。
「火」は文明の源泉なので文明のある所では必ず火が使われるわけで、
「燃える木」で出来た建物は、
燃えない無機物である「石」の建物よりも
「火事によって消失」する大きなリスクを持っているわけで、
木で出来た建物は、石でできた建物よりも平均すればはるかに寿命が短い。

 

だから日本には古い建物が少ない。
対して地震のないヨーロッパには、
地震には弱いが火にはめっぽう強い石の建物が、ごく普通に残っている。
どの町に行っても歴史を感じるような古い町並みが残っている。
それこそ無数を残っている。

 

このことで、
ヨーロッパが文化を大切にしている民族であって、
日本に古い町並みがほとんどないのは
日本が文化を大切にしない民族だからという訳ではない。
地震が有るのか無いのかの違いで、
建物そのものの素材と構造がまったく違うからという所に大きく起因している。

 

ヨーロッパでの建物の消失は主に「戦争による破壊」であって、
火事とか地震ではあまりない。
日本では昔から「○○の大火」とか「△×大地震」で、
何度も町全体が消失している。建物が無くなる要因がまったく違うのだ。

 

ある意味、日本では建物とは「消耗物」であり、
ヨーロッパでは「残る物」なのである。
これが文化の基本となって、それぞれに違う文化の発達があって在り方となっている。
だからヨーロッパの古い町並みを見て、
日本人がコンプレックスを持つことはまったくないのである。

 

では、どちらがいいのか。
古いものが残るヨーロッパには、
地震がなく、燃えない石造りの家なので
城、教会などだけではなく、普通の家でも長く残り、
古い町並みが普通に残る。
だから、古いものを大切に思う価値観が育ち、
古いものの中に血族の連続である民族の意識を持ちやすい。
しかし、古いものが残っていることで、
設備などの更新がしにくく、不便さまで残ってしまうこともある。
今回泊まったホテルでは、インターネットの設備がなく本当に困ったし、
風呂のお湯の出方も十分ではなく不便を感じた。

 

日本の建物は石造りの家よりも地震に強いが、
それでも大きな地震には倒れ、燃えてなくなる率が大きいので、
普通の家では、何百年も残るような建て方をしてこなかった。
だから、普通の家は何十年単位で建て替えられるのが普通であり、
古い町並みはごく一部にしか残っていない。
だから歴史を身近に感じることがあまりないので、
古いものを大切にする価値観が少ない。
民族意識も日本列島という閉ざされた国であるゆえに弱くはないが、
ヨーロッパのようには強くない。

 

しかし、建物の寿命が短いこととは
町が常に更新されると言うことでもあるので、
設備の面でも、街並み全体としても更新されるのが早い。

 

しかし、
日本において家がなくなる時、つまり大きな地震があったり火事で燃えた時には
ほとんどの場合、人が亡くなることを伴うのでこれは辛い事である。
先の阪神大震災でも何千人という人が亡くなっているし、
東日本大震災では二万人に近い数の人々が亡くなっている。
またその何倍もの人々が避難生活を余儀なくされ難儀をしている。
不謹慎ではあるが、それでも
阪神大震災後の神戸は新しいピルが立ち並び日本で一番近代的な街になった。

 

ヨーロッパの街と、日本の街のどちらがいいのか。
どちらが優れているのか。
そのどちらも優劣は無いのだろうと思う。
優劣、善し悪し、ではなく、「違う」と言うしかない。
日本とヨーロッパではその大地の構造が“違う”から、
文明の証でもある建物の在り方が“違う”し、そこで育つ文化も“違う”。

 

日本人に比べて、
ヨーロッパなどの欧米人の「鼻」が高く
顔の「彫り」が深いので、
日本人より優れているかといえば、まったくそんなことは無く、
「違う」だけであることと同じだ。

 

しかし、
地震国「日本」においても、
免震構造や、柔構造、新しい防火建材などの発達で、
地震が日常的にあっても「残る建物」を作れるようになって来た。

 

日本の建物は、近代において、
地震国というハンディキャップを克服した。
ヨーロッパなど欧米の建物と同じ質を持った。
ヨーロッパにおいても、コストの面で新しい建材を使った建物になり、
日本で造られている建物と同じような構造になってきている。
もともとある文化の違いで、まだその様式に違いはあるが、
ここにいたって、
エントロピーの法則のように、その“違い”はどんどん無くなっていく。

 

いくら燃えない(急激な酸化反応をしない)無機物で出来た建物と言えども、
地球レベルでのCO2の増加によって、降り注ぐ雨は明らかに酸性を増し、
ゆっくりと石灰岩を溶かして行く。
石そのものももろくなっていく。
時間は際限なく長いがいずれは溶ける。

 

何百年か、何千年かの未来において、
石で出来た建造物も徐々に消えていく。

 

エントロピーの法則の前には、
いかなる物も今のままで在り続けることは出来ない。
今はただその過程であって、
その大地が違い、文化が違っていても、いずれは同じになる。

 

少なくとも、今の日本とヨーロッパには違いがある。
大きな違いがあるが、そこにあるのは“優劣”ではなく、“違い”があるだけだ。
それも今と言う時点での“違い”があるだけ。

 

古い町並みを大切にし、それを自らの誇りとしているヨーロッパの人々に
大きな尊敬の念を持とう。
と同時に、日本の無常のサイクルが早いが故の
わが日本文化の在り方に、独自の大きな誇りを持ちたい。

 

 

 

ドイツの田舎町ノイブルグにも世界遺産にしたくなるような立派な遺跡が残っている。
しかもそれが教会として現役の建物として使われているのだからすごい。
Dr.ピッチもこのノイブルグの城の中にある教会で結婚式を挙げたそうだ。

 

ホテルの目の前を流れるドナウ川。
その水量は相変わらず豊かである。
この光景は何百年前と変わらないのだろう。

 

 

ドナウ川にかかる橋を近代の車が走り、小学生が学校に走る。

 

 

私達が泊まったドナウ川岸にあるホテル。
日本で言えば民宿の規模であり設備である。

 

 

帰りのフランクフルト空港で、
世界最大の総二階の飛行機エアバスA380がいた。
実物を初めて見て私は大興奮であった。
ヨーロッパ産の最新の飛行機である。

 

 

ヨーロッパはもう夏。
飛行機の巡航高度10,000mに届かんとするばかりの入道雲。

 

 

地球の回転に逆らって飛ぶ東向きの飛行機では、
あっという間に日が暮れる。
北極圏に近いところを飛ぶので夕日は南の方向に沈む。

 

 

約3時間後、同じ南の方向から朝日が昇ってくる。
地球が丸いことで初めて説明できる現象である。
おもしろい。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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