谷 好通コラム

2011年08月22日(月曜日)

2852.あくまでも勝ちに行くチームと飯田章監督

昨夜の晩は興奮して眠れなかった。
きのうのSUPER GT鈴鹿戦のことを思い出しているうちに興奮してきたからだ。

 

今のレクサスSC430は、
その戦闘力においてホンダHSVや日産GT-Rに一歩引く。
SC430はデビューからすでに5年目(6年目?)、
対するHSVやGT-Rはまだ二三年目で、油が乗ってきたピークにある車である。
トヨタ最新のレクサスLFAの投入を渇望するも、
それまでは現行のSC430のレベルアップで頑張るしかない。
しかし、エンジンをはじめとしたレベルアップは急で、
現に鈴鹿戦では一昨日の一回目の予選では、路面ドライの状態で、
トップから0.6秒の差に7台もの車がひしめき、
我が#35のSC430もその中にいた。
戦闘力の差は間違いなくあるが、その差はごくわずかなのである。

 

しかしそれは路面がドライならばである。
雨が降って路面がウェットになると、今度はタイヤメーカーの差が大きく出る。
現時点では、雨に圧倒的に強いのはミシュランタイヤ。
そしてヨコハマ、ダンロップがそれでも何とか頑張るが、
今年のブリジストンタイヤは雨になるとその差が多い。少し遅いのだ。

 

土砂降りの時に使う深い溝のレインタイヤではその差は大きくないが、
小雨で路面が濡れている状態の時に使う浅溝のタイヤ(インターメディエイト)は、
ミシュランが断然速い。

 

そんな色々な要素が絡み、ドライの状態でも半歩遅れるSC430は、
浅溝タイヤを使うような路面が濡れている状況ではもう半歩遅れる事になる。
小雨が降ったりやんだりの鈴鹿の決勝レースでは
BSタイヤの浅溝タイヤを履く我が#35 SC430は完全に不利な状況であった。

 

それでもスタートドライバー脇坂寿一選手は、激しかった。
10位スタートから、攻撃的な走りを見せ、
前車を蹴散らし、なんと6位くらいまでジャンプアップしたのだ。

 

そして他車がピットインをする周回になってもピットインせず
(最初からの作戦であった)
最後にピットインした時、
たまたまピットの中でその様子を見ていた私は驚いた。
用意されたのは「深溝」のレインタイヤであった。
そして、
他車よりもかなり多く燃料を入れた。
35秒であるべきピットストップは45秒もかかった。
そのためピットを出て行った時点で順位は10位まで下がった。

 

「雨が強くなる」ことに賭けたのだ。
みんなと同じことをしていたら、勝てない。
ひょっとして雨が強くなって、(十分にあり得る)
他車が浅溝タイヤでは走れなくなるような状況になれば、
他車は大急ぎでまた深溝タイヤに履き替えるためにピットインせざるを得ず
タイムを大きくロスするはずだ。
その間に、もう深溝タイヤを履いている#35は、
余分入れた燃料で、ピットインなしで走り続け、
うまく行けばトップに出ることすらあり得る。

 

飯田章監督はあくまでもトップを狙う賭けに出たのだ。

 

結果的に雨は強くならなかった。
だからもちろんみんなが慌てて深溝に換えるべくピットインすることもなく
#35がトップになることもなかったが、
そこそこ雨は降っていて、浅溝タイヤでも深溝タイヤでも同じようなタイムで走れた。
ここではセカンドドライバーのアンドレ・クートが頑張った。
前を行く車がスピンなどトラブルを起こしている間に8位まで上げて、
2回目のピットイン。

 

なんと2回目のピットインでも飯田章監督は勝負に出た。

 

その頃には。雨がやんで、路面はドライになりつつある。
他車はドライの路面になることを考え、
溝がまったくないスリックタイヤに換えるチームが多かったが、
#35は「また雨が降り出す」ことに賭け、浅溝タイヤに換えたのだ。
あと27周(たぶん)を残した時点だ。

 

ドライのスリックタイヤに換えた他車は速かった。
それまで2分10秒前後で走っていたのが、2分5秒、2分3秒と速くなって、
ファステストはとうとう2分0秒を出す車もいる。
それでもゴールドライバーとして最後に乗った脇阪寿一選手は、
浅溝タイヤで驚異的な走りを見せ2分5秒台まで出して走るが、
それでも乾きつつある路面にスリックタイヤを履いた他車が速くなってきて、
とうとう9位まで落ちた。

 

しかしゴールまであと5周を残したくらいから、
雨がまた降り出したのだ。

 

濡れた路面にスリックタイヤは非常にグリップが低く、タイムがガクッと落ちる。
浅溝タイヤを履く#35は、この時を待っていたように、
まもなく8位に上がり、
ラストの一周で、とうとう7位にまで順位を上げて、フィニッシュ。

 

今季最高のポジションでゴールした。私たちはこれを祝7位と言いたい。

 

車自体の戦闘力と、タイヤのグリップに若干のハンディを背負っている#35は、
他車と同じことをやっていては、勝てない。
だから、タイヤの選定をみんなと変えて、他車が読んだ天候と逆の読みに賭けた。
あくまでも勝つためだ。
勝つとはトップになること。
百歩譲って、少なくとも表彰台に上がること。

 

そのために、1回目のピットインでは「深溝タイヤ」に換え、
10秒余分に時間をかけて燃料をおおく積んだ。
2回目のピットインでは、他車のようにスリックではなく、
非常識とも思えるような浅溝タイヤを履いた。
あと15周前から雨が降り出せば、本当に3位になっていただろう。
それに賭けたのだ。

 

勝つためにレースはする。
勝つとはトップになること。
百歩譲って、少なくとも表彰台に上がること。
そこそこ5位とか、6位とか、7位とかを獲ることではない。
あくまでも、どんな状況でも、
トップ、あるいは少なくとも表彰台を獲るために、#35は賭けに出た。

 

その結果の7位。与えられた条件で最良の結果と考える。

 

どんな不利な状況下でも、
何とか賭けに出てでもトップあるいは少なくともトップを獲りにいく作戦を
かたくなにまで持ち続ける闘将、飯田章監督の姿勢に
そしてチーム全員の方たちに、
私は、大きなものを学んだような気がする。
与えられた条件がどんなものであろうと、
「勝ちに行く」意志と思考、行動を絶対に忘れてはいけないことを学んだ。

 

 

ここに書いたデータや、
作戦の意味は私の勝手な記憶と想像だけで書いているので、
事実とはかなり違うかもしれない。
しかし、いずれにしても、
最後の最後に7位を獲得したのは、
チームの本意ではないかもしれないが、私には少なくとも、祝7位であった。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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