谷 好通コラム

2012年02月10日(金曜日)

2972.人件費が先行して急上昇する中国

上海からの帰りの飛行機の中。
上海ではかなりタフな交渉事をやってきた。
私達の製品のみならず、
中国で生産され海外に輸出される製品の価格が上昇し続けている。
値上がりの主な要因である人件費の上昇が半端ではないのだ。

 

私達が上海に通い始めてから約9年。
9年前の当時は、
地方から出てきた若者など労働者の給料は700元/月程度であった。
当時のレート12円/元で換算すると8,400円/月であり
しかし実際は、その給料に加えて所得税と保険はすべて会社もちであり、
彼らの宿舎、食事まで会社が面倒を見るので1,000元はかかっているから、
実質12,000円程度だろうか。
それでも当時の日本の若者の15分の1程度でしかなかった。

 

中国はその安い労働力をフルに使い、
圧倒的に低い製造コストで商品を造りまくって、
世界中に「Made in China」が輸出されて、世界中マーケットを蹂躙した。

 

意外かもしれないが、彼らは「競争」を知らない。

 

彼らの製造品の価格の計算のやり方は原理的だ。
単純に言えば、
(原料費+人件費+設備機器費+輸送コスト+経費)×(1+利益率)=製品単価

 

・(原料費)は中国の低い物価に比して安い。
・(人件費)は圧倒的に安い。先進国の15分の1。
・(設備機器)は効率の悪い古く安い物を調達し、効率の悪さを安い人件費でカバーする。
・(輸送コスト)も人件費が安い分だけ安い。経費もしかりだ。

 

上記の四点すべてをひとまとめにして「製造コスト」と呼べば、
中国は、最初から圧倒的に安い「製造コスト」を持っていたことになる。

 

製造コストにおいて最初から圧倒的な競争力を持っているので、
それに一定の利益率をかけても、製品価格においての競争力はなお圧倒的であった。
だから、先進国との価格においての競争はせずとも、
最初から、圧倒的な人件費の安さに裏付けられた勝てる構造になっているので、
彼らは、労働の効率化とか機械化によるコストダウンの競争をした事がほとんどない。
ただ、要求されるとおりの品質を守っていれば良かった。
だから、
彼らは省力化とか効率化など一層のコストダウンのための競争を含め、
本当の「競争」を知らないのだ。その必要がなかった。

 

ところが、その人件費が中国でものすごい勢いで上昇している。
かつては700元で十分に労働者が集まったものが、
今ではなんと2,500元も出さなくては集まらなくなったという。

 

政府が設定する最低賃金は1,450元であり、これも数倍に上がっているが、
世界を中国製品が蹂躙するほど仕事が多くなって
相対的に労働者が足らなくなってきたので、
もう最低賃金で募集しても誰も働く者はいなくなったそうなのだ。
これに所得税と保険、宿泊、食事が付帯するので実質は3,000元程度になる。
それに、「元」も今では14円/1元になっている。

 

9年前の労働者の人件費が実質10,000円/人・月だったものが、
今では3,000元×14円=42,000円/人・月ぐらいになっているそうだ。
なんと9年たらずで人件費が4.2倍になってしまったのだ。
それに、昨日の新聞で読んだのだが、
中国では今後5年間毎年13%ずつ賃金を上げ、
複利的な計算では5年間で賃金を2倍にする計画なのだそうだ。

 

圧倒的な競争力であった「製品の安さ」は、
先進国のわずか15分の1であった人件費によって得られていたものが、
9年で人件費が4.2倍になって、先進国の4分の1の人件費にまで差が縮まった。
5年後にはそれが2分の1の差にまで縮まる。
人件費の安さという面においては、もうすでに圧倒的な競争力ではなくなりつつある。

 

その上、過去の圧倒的な競争力と一定の利益率で得られた莫大な利益は、
設備の近代化、すなわち省力化に投資されることは多くなく、
9年前とほとんど変わらない設備機器で、
多くの労働力を必要とする製造の体質はあまり変わっていない。

 

多くの個人の場合、
利益は不動産投機にあてられてバブルを増長している。
製造現場の省力化に当てられた分は比して少ない。
世界中から集められた外貨は、計22%もの(製造税+増値税)の形で政府に蓄えられ、
急速なインフラ整備と、過激なまで軍備増強を果たしている。

 

なぜ人件費がここまで急激に上がったのか。
中国は共産主義の国であることを忘れてしまいがちだが、
中国は中華人民共和国という共産党の一党独裁の国である。
その中で一部の人間が大儲けした富裕層の総成金的な派手な振舞いに、
労働者が大きな不満を持たないわけがない。
あまり報道されない国内の暴動は、
労働者賃金を上げることなくして収めることは出来ないから、必然的に上がった。

 

 

その昔、戦後の日本でも「安い労働力」で、
短期間に世界の市場を席巻した。
その時期、
韓国では軍事政権が続き、
中国では自由経済が封じられ経済的な鎖国が続けられて発展を妨げてきた。
数十年前の時代は日本の独壇場であったのだ。

 

日本は大きな利益を上げた。
そしてインフラの整備も急であった。
しかし狭い国土でありインフラ整備も限定的であった。

 

むしろ、日本は人口も多くはないので、
限度のある労働者数で生産を上げるために、
工場の省力化のための機械化、生産過程の効率化に熱心であった。
税金も一律に22%もかかるような税金はなく、
なによりも賃金について政府が決めるような共産国ではなかったので、
賃上げは各企業ごとに要求された。
そして暴動の経験の少ない日本人は、急激な賃上げを果たすほど迫れなかった。

 

日本は世界でも稀に見るほどの急成長の時代、
世界一の利益は工場の近代化、省力化、効率化に投資され、
人件費の上昇は、それを後追いする形で果たされてきたのだ。

 

一方、現在の中国では、
巨額の利益は広大な国土のインフラ整備と軍事費、そして不動産投機に費やされた。
そして人件費が先行して上昇し、
工場の近代化、省力化、効率化は、いまだに果たされていない。

 

そうこうしている内に、
インドネシア、ベトナム、タイ、バングラデッシュなど、
いまだに人件費が圧倒的に安い国が、
かつての中国のような製造コストにおいての「安さ」の競争力を持ち、
中国製品に取って代わるような勢いになってきている。

 

「安さ」にしか競争力を持っていない産業は、
他がもっと安さの競争力を持った産業が来ると、勝つことが難しくなってくる。

 

「安いだけ」は、他の「安さ」に抵抗できない。

 

安売りが得意なだけの安売り店が、
近くにもっと安い店が出来るとひとたまりもないことと同じことだ。

 

中国は、これからどんな戦略を持って、未来を作っていくのか。
なかなか難しい問題が山積しているような気がする。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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