谷 好通コラム

2012年07月03日(火曜日)

労働者としての権利は何一つない起業

何年か前までは、当時の快洗隊は火曜定休であった。

 

26年前、私がガソリンスタンドとして独立した1年後に火曜定休日を作った。
火曜日とは、近所で一番繁盛していた「カーマホームセンター」が
火曜定休だったので、それに合わせただけで特に大きな意味はない。
あれ以来、店舗の休みを作る場合、たまたまいつも火曜日だった。

 

独立してから1年間は、お正月の三日間休んだだけで
残りの362日、一日も休まず働いた。
それから1年経ったある日、どうしようもなく疲れを感じ、
「休みたい」と体の芯から思って、
火曜日を「半定休日」などと訳の分からない定休日にして、
店は開けるけど「火曜日は給油だけ、洗車も何も一切の作業はしない日」
として、私か当時の相棒のどちらか一人だけでの営業をやった。
だから「半定休日」。

 

当時、ガソリンスタンドはガソリンの販売量=命であり、
何があっても絶対に販売数量だけは落としたくなかったから、
収益が落ちてでも給油だけはやりたかったのだ。

 

しかし1年間ほぼ全日働いたあとの久しぶりの休暇は新鮮であった。
火曜日はどこの観光地に行っても空いていて、気分もいい。

 

しかしずっと休みなしで働き続けていた緊張感が、
一日休んでしまうと、そこでプツンと切れてしまいそうな気もした。
それを怖いとは思わなかったが、
それからは相棒と交代での月に二回の休みが楽しみになったことは事実だ。
子供の学校を休ませてでも遊びに行った。

 

あれ以来、快洗隊を造ってからも何軒かまでは火曜日定休にしてきた。
何年か前に、その定休日を撤廃して、
年中無休の体制にした時には、
当然、スタッフからの抵抗も大きかった。
店のみんなでどこかに遊びに行く機会がなくなって、
コミュニケーションが薄くなるといった危惧を持ったのだ。
26年前に約1年ぶりに休みを取った時の私の新鮮な喜びと安堵を思い出すと、
その気持ちも良く分かったが、
人員の体制も整ってきていて、
スタッフが交代で休めば、店舗の年中無休営業が出来るのに、
あえて定休日を設定し続けることに理不尽を感じたし、
贅沢であり世間に申し訳ないような気がして、時間をかけみんなを説得した。

 

今では、トレーニングセンターを兼ねている2店舗を除いて、
すべての店舗が年中無休(お正月三が日休み)になって、
ドライブショップ併設店舗では元旦のみ休みの無休営業に落ち着いている。

 

洗車・コーティングという商品は、
ガソリンなど燃料のように生活必需品ではないので、
週一日の定休日を設けてもすぐさま困る人はいないだろうし、
無休にする事で得られる売り上げアップ分もそれほど多くはないだろう。
売り上げ上昇があっても5%以下と試算したことがある。

 

逆に、週一回の休日を設ければ、
みんなが休みを取りやすくなるので、
大きな店舗では確実に社員スタッフを一人は減員できるだろうし、
休日はゼロに近くなる水道光熱費などのことも考えれば、
定休日を設定しても収支の上でのマイナスは最小だろうと想像する。
逆を言えば、無休にしても収支的なメリットは大きくはなく、むしろ小さい。
ならば、なぜ無休で営業するのか。

 

それはお客様の便宜をはかることに尽きるのだろうと思う。
お客様が定休日を知らずご来店されて、
「なーんだ、せっかく来たのに定休日なんだ。来て損したなー。」と
がっかりされることを無くす為と言っていいのかもしれない。
あるいは、お客様に無駄な時間を使わせることになり、
ご迷惑をおかけする事を防ぐためと言ってもいいかもしれない。
それだけで年中無休で営業する意味は十分にある。

 

昔、コンビ二ストアは午前7時から午後11時までの営業が普通であった。
コンビ二最大手「セブンイレブン」の名前は、
その営業時間に由来していることは誰でも知っている有名な話だ。
それが今では
24時間の年中無休で営業する事が当たり前になっている。
町が24時間起きている時代になって、
午後11時~午前7時の間の深夜早朝のお客様が増えたこともあるし、
毎日閉店し、開店する手間と時間のロスを考えれば、
いっそのこと24時間無休開けっ放しのスタイルが合理的なのかもしれない。

 

しかし、そのことで、
コンビニエンスストア運営者のフランチャイジーである個人事業者たちは、
とんでもない苦労をする事になった。
コンビ二運営の主力であるアルバイトさん達は勤務シフトによく穴を開ける。
突然のお休みの連絡で、
それが本当は自分がどこかに遊びに行くためとか、
サボりたくなっただけだとしても、
「体調が・・・」と言われれば、何とも言いようがない。
そうなるとオーナー自身が24時間、32時間と連続勤務をすることも
しょっちゅうだったと、コンビ二オーナーを経験した竹内君が言う。
「今に比べれば地獄だった」とも。

 

コンビニエンスストアのオーナーになると、
法事とか結婚式とかに出席できなくなって、
親戚づきあいが全く無くなるという話も聞いたことがある。

 

それに比べれば、私達の店舗が午前9時から午後8時までの営業を
正月休みは確保したまま無休で営業する事なんて、全くどおってことない。
だいいち今はガソリンスタンドもセルフが多くなって、
24時間営業が当たり前になってきている。
牛丼屋、ファミレスなども24時間で営業し、
食品スーパーなども深夜11時までの営業は珍しくなくなった。

 

世の中が年中無休はもちろん、
24時間、たくさんの誰かがどこかで動いているので、
そんな世の中に、すべからくが変化してきているということだろう。

 

しかし、店が無休運営になったとしても、
たとえばこの会社の場合でも、
社員は1年間に114日の休暇を取るようになっている。
遠い昔、
私が1年間休まず働いた末に、
やっと、ひと月に2回の休日を取れるようになって感動したのとは、
全く別の次元の話である。

 

しかし、
これから独立を考えている人がいるとしたら、
これだけは言っておきたい。
独立して
自分の店を持つとしたら、
奥さんと一緒に働くことは最低限の条件で、
CoCo壱番屋の独立制度も、コンビニオーナーになるにしても、
これだけは絶対的な条件であり、
奥さんを専業主婦のまま家庭に残せるような独立、起業はあり得ない。

 

さらに、
年間の休日は良くても月2日×12=24日であり、
一日も休まず働き続けるなど普通のことであることは覚悟すべきだろう。
独立したからには、すべてが自己責任であり、
つらくて誰かのせいにした時点で、負けたと言ってもいい。
もちろん労動基準法も適用されなければ、守ってくれるものは何もない。
労働者としての権利は、独立した自分には何一つないのだ。

 

それでいて、
起業したその事業が最初から成功することはほとんどなく、
起業当初、サラリーマン時代の所得には遠く及ばない。
やっと軌道に乗ってきたころには、
家族がついてきてくれなくなっていることもある。
家族サービスなど別の世界の出来事になるから。

 

残念ながら、それが一般的な起業の姿である。
そこを乗り越えて、自力で成功する者は実に少ない。

 

しかも自力ではなく、
誰かに依存して生き延びた事業は、
依存するその力がなくなった時点から、
崩壊が始まることに気がつかないというおまけまでがついている。

 

起業は利口な選択でなく、
何の保証もないが”可能性”のみが無限にある、冒険と言えるのかもしれない。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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