谷 好通コラム

2012年08月20日(月曜日)

あと12周からのオーバーテイクショー

朝起きたら”喉”が痛かった。
昨日のレース、如何に大声で叫んでいたかが痛みで分かる。大興奮であった。

 

1000kmレースは約7時間バトルを繰り広げる正真正銘の耐久レースで、
車、ドライバー、燃料、そしてタイヤのマネージメントを計算しつくして、
如何に7時間後にトップにいるかを競うレースだ。
もちろん車の絶対的な速さは必要で、
車自体が遅ければ話にならない。
それでも、たとえ他の車と同等以上に速くても、
たとえば、一回のピットイン、燃料補給、タイヤ交換で、
1分以上のタイムロスが出るので、
これを何回、どのタイミングで行うか。
どんなタイヤを選択するか、いくつもの複雑な計算と読みで、
最終的な順位に大きな差が出る。

 

今回のレースは15台のGT500クラスの車が
ゴール時には10台しか残っていない厳しいサバイバルレースになった。
特に今回の鈴鹿は大晴天が続いて路面温度が50℃を越し、
タイヤに対する熱の負担が大きく、
タイヤのバーストでリタイアしたり、大きくタイムロスする車が多かった。
その中で、”35 KeePer Kraft SC430は、
早いタイムを維持しつつタイヤを大切にするドライビングに徹し、
タイムロスがほとんど無いレースを展開し続けた。

 

ピッとに入るタイミングで、順位はめまぐしく変わっても、
実質的には四位から六位をキープし続け、
最後のバトルに期待をつなぐのがスーパーGTの定番。
最後の二十周近く、他の車の大クラッシュが原因で
セーフティーカが入ったその四周後の再スタートで、
先頭の六車が、ほとんど差がなくなってからのバトルはすさまじかった。

 

日が暮れかかっていて、
路面温度が下がりタイヤのグリップも上がって、
#35 KeePer Kraft SC430は条件的に優位に立っていた。

 

というのも、
鈴鹿1000kmは全173周を走る。
ライバル他車は、
30周と少しを残した140周、142周時点でピットインし、
タイヤ交換、燃料給油を行っていた。
すると、ゴール時にちょうどタンクが空っぽ近くなって、
車が軽い状態で最後のデッドヒートを迎えられるはずだから。
タイヤはミディアムコンパウンド。十分に30周以上走れるタイヤだ。

 

それに対して、
#35 KeePer Kraft SC430は最後のピットインを148周目で行い、
他車よりも数周遅かった。
そして残り25周をなんと、ソフトコンパウンドのタイヤ、
つまり、グリップ力は高いが消耗が早いソフトなタイヤに交換した。
耐久レースの途中では使えないが、
面温度が下がっていて残り25周ならば、
最後の勝負を掛けていいタイヤでもある。

 

しかし、耐久性の高いミディアムタイヤでも
今年の鈴鹿1000kmでは熱でタイヤバーストした車が続出している。
ここでソフトコンパウンドタイヤを使うのはかなりの勇気がいっただろう。
しかし、チームはソフトコンパウンドで決断した。
ミディアムでも四位、五位にはなれるが、
勝つには勝負を掛けるべきだ。

 

148周目、
最終スティントの国本選手は、
ソフトコンパウンドタイヤをはいて出て行った。
その時点で6位のポジション。
そのあと2台がほんの少しの給油の為にピットインしたので4位にアップ。
表彰台までにはあと一台抜けばいい。
前の車とは20秒離れている。
25周で20秒は縮められない差ではないが、
前の車も国本が追い上げてくるのは知っていて、ペースは上げている。
なかなか差は縮まらない。

 

ここまでかと思ったが、
157周目大きなクラッシュがあってセーフティーカーが4周入った。
161周目セーフティーカーが外に出て、
上位6車の差が一挙になくなった状態で再スタート。

 

ゴールまで残り12周の劇的な大バトルが始まった。
前を行くのは3位の#12カルソニックGT-R。
142周目に交換したタイヤはセーフティーカーが入る157周目までの15周、
その前を行く#23モチュールGT-Rも17周もフル走行で走っている。
対して
#35 KeePer Kraft SC430はまだ9周しか走っていない。
しかもソフトコンパウンド。

 

加えて、国本選手の猛攻はすさまじかった。
ストレートエンドで#12をオーバーラップし、
#23はなんと超ハイスピード時速250kmは出ている130Rで、
劇的なオーバーラップを果たし、見事に2位に躍り出た。
場内放送も「国本選手、KeePer SC・・・」と連呼を続ける。

 

それは8万人を超すサーキットの大観衆を総立ちにさせるドラマであった。
ピットのテントでモニターに釘付けになっている私たちも、
その映像にみんな絶叫しっぱなしであった。

 

やがてゴール。
レースを初めて10年余、いまだかつてない感動であった。

 

その後の表彰式も、感動、感動でそれはそれは大変であった。

 

人や明けて今日、
痛む”喉”にタバコの煙を感じながらこれを書く。
スーパーGTは、日本の最高峰レースの一つである。
そのレースでの第2位は、人を十分に感動させるものであり、
とく最後のオーバーテイクは熱狂させた。

 

しかしふと考えると、
私は自分が走る草レースを含めて
レースでは最高がいつも2位であった。
2位の体験は何度もあるが、優勝は一度もない。
まだ一度も、ドライバーとしても、スポンサーとしても経験していない。
これで終わりにすべきではないだろう。

 

9月10日、富士スピードウェー戦。
上り調子のチームと、
このレースでもらったウェイトハンディがまだ40kgのうちに、
ホームグラウンドである富士スピードウェー戦が最高のチャンスでもある。

 

いつも2番は、それで終わりにしたい。

 

詳しくは、チームからのリリースをご覧ください。
http://www.keepercoating.jp/super_gt_5.pdf

 

 

 

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
    読めば読むほど元気になること間違いなし。・・・の、はず。

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