谷 好通コラム

2002年12月01日(日曜日)

584話 一番得な職人技

今日は、大ハッピーであった
ムチャクチャうれしい

 

素晴らしく安い靴を買うことが出来たのだ

 

簡単に言ってしまえば、それだけのことだが
話はちょっと複雑なのである

 

私は足が悪い
2歳の時、脊髄性の小児麻痺にかかって
左足の膝から下にほとんど筋肉がなく、また左足全体が短い

 

しかし、そんなことは
人生の中において、ほんの些細なことであって
ドオってことはない
本心そう思っている
歩く時に少しビッコを引いたり、長く歩くことが出来ないことは
一般的には珍しいことなので
「大変ですね」と言ってくれる人もいるが
そんなことはない

 

この程度のビッコは
ハゲより目立たないし
ハゲのように育毛剤を探す必要もないし、カツラ代もいらない

 

おまけに
自動車税免除、自動車取得税免除、高速代半額、JR乗車料金半額
航空運賃・全便・常時30%レス、駐車違反免除
挙句に、毎月4500円のお手当てまでが出る
特典だらけである

 

ハゲにはこんな特典はない
(ハゲの人ごめんなさい。私は今、ビールを飲みながらこれを書いております
酔っ払いのたわ言とお許しください)

 

私にとっては、ビッコより
自分の“デブ”の方がよっぽど悩みである

 

しかし
ちょっと深刻な悩みが“一つだけ”ある

 

具合のいい靴を見つけるのが、ホントに大変なのだ

 

20歳前半ぐらいまでは
どんな靴でも平気であった
それどころか、高校のころには柔道で“段”を取ったことすらあるのだ

 

ところが年齢を経るにしたがって
足首以下が、変形してきて
当たり前の靴を履けなくなってきた

 

30歳を過ぎた頃には
革靴が履けず、いつも運動靴ばかりになってしまった
だから
独立した(32歳)頃は
運動靴に背広は、あまりにもおかしいので
ジャンバーとか、Tシャツしか着ることが出来ず
仕事でキチンとした場所に出ることがいやだった
というより出られなかった

 

そんな時
店の近くの靴屋さんで見つけたのが
「ECOウォーキングシューズ」の一つのタイプ
履いても痛くない“革靴”を初めて見つけた

 

ウォーキングシューズとはいえ
黒い革靴であったので
その時から背広を着ることが出来るようになったわけだ
あの靴がなかったら
今の仕事はやっていなかったかもしれない
それほどの意味があった

 

何足も、何足もその同じ靴を履いた
しかし、何年か後には、その靴も製造中止になってしまった

 

それから、たくさんのタイプの靴を試して
やっと見つかったのが
月星の「普通の安いビジネスシューズ」
それでも1足7000円ぐらいであったろうか
なぜか解からないが、不思議とピッタリで、ECOより快適であった

 

しかし、この靴は長持ちしない
かかとの左端が削れて少し減ってくると、辛くなってくる
だから
ひと月に一足ぐらいのピッチで
新しい靴を履くしかなかった
1回に6足ずつまとめて買って
年間に7000円×12=84000円ぐらい靴代が掛かったわけだ
だから結果的には、ずいぶん高い靴になっていた

 

私はいつも安い靴を履いていたが
実は、靴にはものすごくお金を使っていたことになる

 

また何年か、その靴ばかりを履き続けたが
最近その靴も、とうとう製造中止になってしまった

 

製造中止を靴屋から聞いたのは
こちらから注文を出した時で
だから、問屋に残っていた3足をキープするのが精一杯であった

 

口惜しい思いをしながら
新しい靴を
私の変な足に合う変な靴を、あと3ヶ月で探さなければならない

 

今回の靴探しは難航した
何軒も何軒も靴屋を巡ったが、なかなか見つからなかった

 

靴探しの仕事は
私はすごく嫌いであった
何足も商品の靴を履きまくって、歩いてみて
また一足も買えない、そんなことの繰り返し
靴屋さんにとってもいやな客であったろうと思う

 

3ヶ月を過ぎて、3足目の靴がダメになっても、今回はまだ見つからない
仕方ないので
ダメになった靴で、まだマシなのを引っ張り出してきて
つなぎで履いたり
今回は、ちょっと参った

 

神戸にあるという身障者専門の
オーダーメイドの靴を作ってくれるという有名な靴屋さんは
インターネットに
「今注文をもらうと出来上がりは2年後」と、書いてあった

 

どうしよう・・・

 

真剣に思い始めたとき
お袋が教えてくれた
「すぐ近くにオーダーで靴を作ってくれる靴屋があるよ」と言うのだ

 

早速、行って見た
「どうせ、何ヶ月も掛かると言われるんだろうなぁ~」
と思いながら

 

店に行くと
いかにも“職人”という感じのオジサン
歳は私と同じくらい

 

私が話をチョコチョコとすると
早速
一つの黒い靴を持ってきて
はじめからその靴に入っている中敷(インソール)を引っ張り出して
ゴチョゴチョと
別のインソールをいじくって
それを、その黒い靴に突っ込んで
「履いて見て」と
自らの手で、私の足に履かせてくれた

 

それも靴紐をグッと引き、かなりきつく締める
(私はいつも靴紐を緩めていた)

 

歩いて見た
不思議な感覚であった
今までに経験したことのない感覚であった

 

いやっ!そうではない
若い頃の足の感覚がこうであったかもしれない

 

この職人のおじさんは、一発で、私の足を読んでしまったのか
飛び跳ねたいような感覚が足に戻った
「う~~んっ」
唸りながら、私は、小さな店の中を何度も歩き回った

 

「不思議な感じだなぁ~、これでいいです。これ下さい。」
私は、嬉し涙が出そうであった

 

「でも、この辺にちょっとだけ違和感を感じます。」
と、言ったら
ここからまた
あれやこれや、いじっては、履かされ
しばらく靴談義をオジサンは喋って、またいじっては、履かされ

 

何回も、何回も修正して
私の体の一部になってしまったか
そんな
“一足の黒い靴”を買ってきた

 

「足の底が削れてきたら、また来なさい
ここから切り取って、底を付け変えて上げるから
5年ぐらいは持ちますよ、この靴は」

 

帰り際に
「履いている間に痛くなったら、我慢せずにすぐ来なさい。すぐ直しますから」
とも言った

 

その職人のオジサン
つまり、ご主人の靴を見たら、私が買った靴と一緒であった
「これは、ドイツの靴で、最高なんですよ。
だから私も履いています。」

 

「へぇ~~~~っ」
私は心の底から感心した

 

この靴、33000円
修正費は込みである
履く人に合った靴にしてから渡すのが、靴屋として当然
そういうことらしい

 

そう、この人は「靴屋さん」なのである
靴を売っている販売員ではないのだ

 

本職の「靴屋さん」から買ったこの靴
結局、一番安く、とんでもなく安かったような気がする

 

本物の仕事は、客にとって、結局一番安い!

 

 

この話は、次の話に続く。
本論はこのあとの話です。

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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