2024年11月21日(木曜日)
11.21. 数字は、機械にとっては単なる信号の羅列でしかない
もう50年近くも昔のことです。
私は、初めて就職した新興の会社を辞めて、
古くからある大会社のガソリンスタンド運営子会社に再就職した時の事です。
その会社に入ってすぐ担当した小さなガソリンスタンドは、
それまではすごく大きな店舗の店長をやっていた私にとっては、
つまらない退屈な毎日でした。
しかし、今思うと、いわゆるガソリンスタンドの
良い部分も悪い部分も知ることが出来、私にとって貴重な一年でもありました。
当時は、
ちょうどPOSがガソリンスタンドに導入され始めた時期で、
女子事務員さんによる集計表と電卓での集計事務から、
POSという機械での集計に切り替わるちょうど境目を経験しました。
私としては自店から女子事務員さんがいなくなることに、
寂しさを感じましたが、それはともかくとして、
POSによる伝票発券から、データの蓄積、
集計の便利さはまさに劇的で感動ものでした。
また、そのデータから掛け売りの状況が一目で分かるのにもびっくりしました。
ところが、私がその会社での1店目から転勤して2店目に赴任した時、
今度は逆の意味で驚かされました。
売り掛け金の状況表に、
ひと月数十万円の売り上げのある個人客(ダンプの個人営業車)の入金が、
何か月にも渡って売上金額よりいつも少なく、いわゆる内金払いが続き、
残高が一千万円を越している人がいて、そんな人が何人もいたのです。
その会社では、この事は問題にはなっていたようでしたが、
なんと、取引は続いていたのです。
前々任の店長が、太っ腹ぶった、だらしない人で、
ダンプの個人営業者が使った燃料代の支払いは少な目でイイと(太っ腹)、
「いいよ、いいよ」で、勝手にOKしてしまって溜っていたのです。
月に20万、30万円が溜って1,000万円を越していたのだから、
何年もかけて、そうなったのでしょう。
当時の会社事務所は、
それが売り掛け金管理表にプリントされた数字としては知っていても、
その実態も、例の太っ腹のだらしない彼に関係している事は解っていても、
その彼に現場を任してしまっていていたので、(現場に手も出さないので)
事務所は支店長を含めて、
彼に文句を言えないような関係があった。(口も出せない)
その会社は、ある時、
同じ系列の東京の会社に吸収される形で合併した。
そして、当然、このバカげた1,000万円売り掛け残の問題が表に出て、
その新しい会社から、実力派の店長がその店に赴任した。
その新店長は、1,000万以上の滞留債権のダンプのお兄さんに、
これまでのようには行かない事を謝って、
(彼らは不良債権の存在を知らず。太っ腹店長が値引きした思っていたので)
今後は毎月の売掛金金額より少しだけ多く毎月入金してもらい、
気の遠くなるような月日をかけて
滞留債権を解消するように話を付けた。ただ、
月一回ダンプの(荷台と下回り迄も)ワックスがけを無料ですることを条件に。
例のエセ太っ腹男は、この時点で会社を辞めていた。
「東京のよそ者に恥をかかされた」と、怒り狂って辞めたそうだ。
それから約1年後、その店舗に私が赴任したのです。
まず、最初に
1,000万円不良債権客との取引を、会社の規定で(と言って)やめました。
一度もダンプカー丸ごとワックスがけをやらない内に、まず取引をやめました。
着任した時点で「止めるように言われている。」と、
会社のせいにして問答無用でやめた。
1,000万円以上滞留のお兄さんは怒って、
私を、スコップを持って追いかけた。
(あの頃、私はまだ走れたので。なんとか逃切れた)
しかし、とにかく、あの最初の時点しか、
あのだらしない太っ腹男が作った腐れ縁から切れる機会は、
二度とないと思ったのです。
(ダンプ丸ごと無料ワックスがけなど絶対にやりたくないとも思った。)
そして、1,000万円以上の滞留債権は法的に回収した。
回収自体は簡単だったが、
一番可哀そうだったのはダンプのお兄さんたち。
太っ腹の前々任店長の「値引き」と思っていたのに、結局払わされた。
それでも前の店長は、少しずつ返せばいいし、燃料も入れてくれて、
おまけにダンプ丸ごとワックスがけをサービスしてくれた。
なのに、
今度来たデブでビッコの店長(私の事)は、
来てすぐに、取引を止めると言う。
ひどい奴に当たってしまったと
(私がこう言ってはおかしいが)、 気の毒だった。
怒って辞めて行った太っ腹の前々任の店長は、
「恥をかかされた。」と被害者になって収まっている。
本当はこいつがすべての元凶なのだが、
こういう奴は、なぜか不思議と、最後は被害者になって収まっている怪だ。
このケースでは、「取引停止」しかない。
当然だ。
しかし、このだらしない話が始まったのは、
だらしない太っ腹の前々任店長が悪いのだが。
現場に関わりたくない事務所で座って楽をしていたい支店の責任者が、
見るたびにジワジワと増えてくる繰り越し金額を、
毎月何十万円かだけ数字が変っていくだけで、
「自分のような偉い立場の者が、本社に、報告するまでもない。」と、
本社にいる上司に報告をしなかったので、
本社の事務員さんも、数字は数字だけで、
支店の責任者が報告もしてこないものを、
おかしいと騒いだら、支店から「余計なことを言うな」と叱られる。
この数字が変だと思っても、
数字が変なだけなので気が着かなかった事にしいおけば、自分には関係ない。
支店の責任者は、現場も行きたくないし、例の太っ腹に任せているので、
本社から何か言って来るまで、もうちょっと放っておこう。
というより、忘れておこう。
ダンプのワックスがけを店長がやって、少しずつ減らしているようだし。
本社は本社で、責任ある支店から何も言ってこないのだから、別に気にしない。
もちろん、店長がダンプの丸ごとワックスがけをやっているなんて知らない。
知ったとしても、やめろと言う理由も無いので放っておく。
現場がツラい目をしても、
自分は涼しい事務所で座っているだけだから、
むしろ、それしかできない。
売り掛け債権管理表に並んでいる数字は、二桁多いが、それだけのこと。
店長がダンプ丸ごとワックスがけをしていれば、時間が流れ、すべてが収まる。
こんど店長に会ったら
「頑張っているな、おつかれさん。」と激励しておこう。
そんな状況の中に、私は赴任して、
その全てを、
最初の時点で止めた(やめた)。
止めるのなら、一部を止めることは出来ないので、
取引そのものを止める事にした。
溜っていた不良債権は法的処置に任せればいい。
スコップを持って追っかけられたことは計算外であったが、
とりあえず、すべてを止めることは出来た。
本当は、異常に二桁多い債権金額を見た者が、止めれば良かっただけなのだが。
自分が、数字を、数字の羅列としか見えなくなったら、
自分が人間から機械になってしまった恐れがあると考えなければならない。
しかし、それをイケナイ事だと思えれば、まだ人間に戻れるチャンスはある。
この経験があったからなのかもしれないが、
私が起業してから、売り掛けは1か月以内の回収を基本として、
入金がなかった場合は、その理由のいかんにかかわらず、
入金があるまで取引停止としました。
約束の入金があるまで、機械的に出荷停止です。
それを実行しているからかどうか、
この会社は今現在、約200億円以上の年商がありますが、
貸倒引当金は年間で10万円を越した事は、まずありません。
創業以来ずっとそうです。
普通は入金がなかった場合、相手に事情を聴くのが常識だと思いますが、
また、お客様の事を考えると、
その方が良いと思います。が、
入金が無かった時、入金があるまでを機械的に出荷停止にしたとしも、
それに対して、取引先から苦情をいただいたことは、
私が知っている限り、まだ一度もありません。
だから、それで良いという訳ではありませんが。
太っ腹ぶるのだけは、
みっともないだけでなく実害が大きいことも事実です。
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太っ腹と言えば、
この話とは全く関係ありませんが、
5年前、脊柱管狭窄の手術を受けた時、
手術の翌日、
太くて硬い樹脂製のコルセットをして、
イスに座っていることが出来ました。
この話を書いていて、この写真の事を思い出しました。