谷 好通コラム

2003年08月21日(木曜日)

“タイヤKeePre”が出来た

前日までのおさらい

 

タイヤワックスとは、ある種のシリコンをタイヤに付着させること。

シリコンは、そのままではタイヤに塗りにくい

シリコンを石油系溶剤、あるいは水で希釈して、タイヤに塗り易くしてある。

石油系溶剤でシリコンを薄めたものが「油性タイヤワックス」
・「油性」は安価であり、性能も上げ易い
・しかし、タイヤのゴムに悪影響の可能性が高いので、使用しない。

水の中にシリコンを“乳化分散”させたものが「水性タイヤワックス」
・タイヤにシリコンを残しにくく、シリコンを高濃度にする必要があり、コストが高い
・タイヤに対する安全性が高いので、全タイヤメーカーも使用する。これが主流。

単価を落とした水性タイヤワックスは、性能の低いものが多い。
逆に、性能を追求したものは、単価がとんでもなく高い。

水性のタイヤワックスは、乳化分散の安定を増せば、性能が落ちる。
逆に分散を不安定にすれば性能は上がるが、液の「分離」が発生する。
乳化分散の安定度は、界面活性剤の強さと添加量で決まる。バランスが決め手。

 

 

ここでSONAXから、新種の水性タイヤワックスが送られてきた。

界面活性剤無しで、超高圧、高温釜で強制的に乳化分散を作り上げたもの。
以後、仮に“高圧強制分散”と呼ぶ

非常に性能が優れているものの、高コストで製品化が難しい。

こちらサイドからの提示価格での製品作りを依頼。

第1回目サンプル→性能が低い
つまり「シリコンの付着が足りない」と指摘

第2回目のサンプル→分離した
界面活性剤を減らして、“分散”を不安定にして、
シリコンがタイヤにより多く付着するように処方を変えてきた。
しかし、“分離”したのでは商品性はまったく無い

第3回目のサンプル→増粘してきた

 

と、ここまでが前回の話の概略
非常に複雑な話なので、すでにギブアップした人が多いと思うが
(今これを読んでいる方は、えらい!よくぞここまで読んでいただきました。)

 

 

続けて、もっと複雑な話しに入っていく

 

第3回目のサンプルで、“増粘(ぞうねん)”してきたのは、予想通りであった。
エマルジョン、つまり乳化分散を不安定にして性能を上げても
その結果、製品が分離しては元も子もないので
液に“増粘剤”、つまり粘度を増す働きをするケミカルを少量添加する手法がある。

 

ちょっと話を整理すると
高圧強制分散で造ったタイヤワックスは
そのままでは、非常に性能がよく、安定性にも優れている。

 

いわば、界面活性剤による乳化分散のジレンマ
(安定→性能が落ちる。不安定→分離する)を、
一挙に解決する新技術であるが、非常に高価であるがために
多分、高圧強制分散の製品を水で希釈、増量して単価を下げたのだろう
しかし、その結果
希釈しすぎて性能が落ちてしまい、もう少し濃度を濃くしても分離の結果が出た。
そこで
奥の手として増粘してきたのだ。

 

性能アップのための不安定な分散の状態を維持しつつ
分離を防ぐための安定性は増粘、つまり、液自体の粘度をドロッとした状態にして
“静止状態での安定”を確保しようとするもの
しかしここまでは、実は、日本ですでに市販されているタイヤワックスの技術であって
私達の研究スタッフも承知のこと。

 

この時点で、私達はわざわざドイツでタイヤワックスを開発する意味を見失った。
このレベルのものならば私たちも造ることが出来る。

 

それに、粘度が高い、つまり、ドロッとしたタイヤワックスは
タイヤ側面の凸凹の文字の部分にたまり、うまく塗ることが出来ない

 

 

加えて、ドロッとしたタイヤワックスは
スポンジの中にしみって行かず、コンモリと山になって残るので
このままスポンジを使おうとすると、山の部分のタイヤワックスがこぼれてしまう。
つまり、無駄が出てしまうのだ。

 

左がドロッとしているもの。右がサラッとしているもの

 

 

粘度の高いドロッとしたタイヤワックスは、使い物にならないと判断していた。

 

 

その旨をドイツに伝えた。
「こういうレベルのものは、申し訳ないが、いらない」と

 

ここからドイツで何があったのかは分からない。
しかし、何かが変わった
ドイツのピッチ博士、切れたのか、奮起したのか
次のサンプルが到着するまでしばらく時間がかかり
ようやく届いたサンプルは
力が入っていた
何がどうなのか、いつものように梱包したサンプルなのだが
なぜか、「オッ今度は力が入っているな」と思わせたのだ

 

私達の要求は
?最初のサンプル「VP56」同様のずば抜けた性能
?増粘していないサラッとした液体状のもの
?絶対に分離しないもの
?競争力のある単価

 

この、力を感じさせるサンプル「VP1172」
今までのサンプルは「VP56」から始まって8種類
今回から、サンプル番号が4桁になった
これも何か意味があるのだろうか

 

やはり期待通りであった
まるで最初のVP56のようで、「これVP56じゃないの?」とも思ったほどだ

 

サラサラの液体状で
スポンジにも良くなじむ

 

そして、ものすごく良く延びる
他の市販品のタイヤワックスと比べても、同じ量で倍以上も延びる。

 

 

1本のタイヤに使う量も
一般市販のタイヤワックスに比較して半分で済んだ
市販品16gの使用量に対して、VP1172は半分の8g

 

今までのタイヤワックスに比べて
半分の使用量でOKである。

 

あとは、分離が起きるかどうか
残念ながら、1週間の完全静止状態で分離が起きた。
惜しい!

 

 

それから
何度かまた、サンプルの提出があって
「VP1173」「VP1174」「VP1175」
と、サンプル番号も上がっていく
分離の問題は、「VP1173」で解決した
1週間でも、2週間でも完全静止状態でまったく分離は起きない
GOODである

 

それでもなお、開発部からしつように性能アップのお願いが続き
面白いように性能が上がっていく
ドイツのピッチ博士、調子に乗ってきたようだ

 

「VP1175」で、快洗隊での実施テストに入った
その頃には
最初の「VP56」より、もっと良い性能すら出しているように感じていた

 

 

ここまで来て、もう一つテストを加えた
今まで、タイヤワックスを塗るスポンジには
ハンドスプレーでタイヤワックスを吹き掛けていたが
この方法だと
スプレーで出来たミスト(霧状)が、スポンジにつかずに周囲に散って
無駄になってしまうばかりでなく
飛び散ったタイヤワックスが
車のボディーに着いて、せっかく洗ってきれいになった車が汚くなってしまう。
そこで、「とんがりポット」にタイヤワックスを入れて使ってみた

 

もともとこのVP1175は、従来のタイヤワックスの半分の量で済むので
むしろ、とんがりポットの方が使い易い
それに、噴霧でタイヤワックスが飛び散る“無駄が無い”ので
そのロスがなくなったことも考えると
とんがりポットでVP1175を使った場合は
従来のタイヤワックスを“スプレー”で使った場合の、1/3の使用量で済んだ。
これは大収穫である。

 

 

結局、大満足のものが出来上がり
快洗隊でのテストも
「いいですね、すごくいいですよ。もうアー○○―○なんて使えません。」
「ものすごくしっとりとしたツヤが、1週間以上も持ちます。OKです。」
と、抜群の反応

 

とんがりポットも
「これが一番使い易いですね。」であった

 

結局この組み合わせが最高

 

 

ドイツのノイブルグに住むマンフレッド・ピッチ博士
とうとう、素晴らしいタイヤワックスを作ってくれました。

 

これは、ピッチ博士と
キーパーのアイ・タック技研の合作と言っても良いオリジナル商品
敬意を持って
「タイヤKeePre」と名付けさせていただきました。

 

今、ドイツから船に乗って長い旅の終わりに掛かっています。

 

※去年、ドイツノイブルグを訪れた時に撮った
ピッチ博士とフィアンセのクラウディアさんの写真

 

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2003年08月21日(木曜日)

実録・タイヤワックスの話

今日はタイヤワックスの話をします。
とんでもなくめんどくさい話ですので、読むのにはチョッと覚悟がいりますよ。(^。^)

 

 

予備知識として
?まずタイヤワックスとは

 

一言で言えば、タイヤの艶出しシリコンワックス
タイヤワックスとは、ある種のシリコンをタイヤに付着させること

 

シリコンをタイヤに付着させると、タイヤに艶が出ると同時に
タイヤのゴムを傷める色々なものから、保護する能力を持っている。

 

タイヤワックスをタイヤに塗るということは、すなわちシリコンをタイヤに付着させること

 

?水性と油性
シリコンは、そのままでは粘土が高く
タイヤにスムーズ、かつ均一に塗ることが出来ない。
そこで、“石油系溶剤”とか“水”の中に、シリコンを混入させることによって
つまり“薄めて”、
タイヤに、容易に、しかも均一に塗れるようにしてある。

 

?油性タイヤワックス
一般に“油性タイヤワックス”と呼ばれているものは、
シリコンを、石油系溶剤の中に“溶かし”
タイヤに塗り易くしてあるもの。
※“溶けている”状態なので、一般的に「透明」である。
(長所)
油性タイヤワックスは、シリコンと溶剤が両方とも“親油性”であり
やはり親油性であるタイヤに密着し易く、塗りやすい。
油性のタイヤワックスは、タイヤに塗られたあと、
石油系溶剤が揮発して、シリコンをタイヤの上に固定する。
密着性が良いので、シリコンの濃度が低くても、良い性能を出し易いので
どの油性タイヤワックスも比較的安価である。
(短所)
しかし、石油系溶剤はゴムに少なからず浸透するものであり
度重なる使用によって
タイヤの組織を破壊する性格を多かれ少なかれ持っている。
そして、タイヤのひび割れとか
膨潤(溶剤が浸透してタイヤの組織が膨れること)によって
ゴム質の強度劣化、タイヤ内部の材質のはがれ、空気漏れなどの恐れがあり
各タイヤメーカーでは、きまって油性タイヤワックスは使わないようだ。

 

(結論)
油性タイヤワックスは、安く、塗り易く、よく艶が出るが
タイヤそのものを損傷する傾向があるので
タイヤのメーカー、ディラー、販売店では使われないことが普通である。
少なくとも私の知っている限りでは
どのメーカーも油性タイヤワックスは使っていない。

 

?水性タイヤワックス
水性タイヤワックスとは、界面活性剤により、シリコンを水に“乳化分散”させたもの。
この場合は、油性の物質が水に分散しているので
専門用語で言うと、“O/W”エマルジョン
(W=水ベースの、O=オイル=油性物質分散型のエマルジョンという)

 

“O/Wの乳化分散”とは、分子同士が交じり合う“溶ける”状態とは異なり、
油性の物質の微細なカタマリが、水の中に浮遊している状態。
身近な例で言えば「牛乳」がある。
※水性ワックスとは、乳化分散で出来ているので、その名の通り「乳白色」である。

 

水性のタイヤワックスの場合では
シリコン自体の油性が強く、それを水に分散させるのに
界面活性剤という“親油基”と“親水基”をその分子の両端に持っているケミカルを
液内に混入媒介させて、強制的に分散させるのが普通である。
水性タイヤワックスは
タイヤに塗られたときに、親油性の強いシリコンが選択的にタイヤに付着して
水の部分は流れ落ちてしまうか、蒸発をして、
タイヤの上から無くなってしまう。

 

(長所)
シリコン自体はタイヤのゴムに対して、破壊的な要素を持っていないし、
もちろん“水”も、タイヤに対して無害である。
だから、水性のタイヤワックスを繰り返し使用しても、タイヤに対する破壊性は無く
きわめて安全性の高いタイヤワックスと言える。
タイヤメーカーでは、この水性ワックスを必ずと言ってよいほど指定としている。

 

(短所)
もともと溶け合わない水と油を、“分散”という特殊な技術で
希釈してあるものなので、安定性に欠ける。
不安定な“分散状態”のものでは、静止させておくと、簡単に分離してしまう。

 

そこで、分散の安定性を増すためには
より強力な界面活性剤を使用すれば良いのだが
強い界面活性剤を使用すると、
シリコンがタイヤにくっつく前に、水と一緒に落ちてしまい
タイヤワックス本来の性能が出ない。

 

タイヤワックスとしての性能を上げるためには、できるだけ“不安定な分散”
安定性を取るか、性能を取るか
そのバランスが最も重要であるのだが、所詮、水と油であり
より多くのシリコンをタイヤに付着させるためには
シリコン事態の濃度を上げることになり、コストが高いものに成りがちである。
タイヤワックスの価格は、シリコンの濃度でほとんどきまってしまうのだ。

 

(結論)
水性ワックスは、タイヤに対してきわめて安全性が高い。
しかし、その構造上、油性タイヤワックスより高いものに成りがちである。

 

と、ここまでが
今までのタイヤワックスの常識的な、かつ化学的なお話

 

では、私達・快洗隊としては“油性”“水性”のどちらを使うか
当然、迷うことなく“水性”を使う

 

お客様の立場から考えてみれば
タイヤの艶出しをするたびにタイヤが傷んでいくことなど、うれしいわけが無い
私達は、お客様のため、お客様のお車のためになることをしているから
その報酬をいただいている。
だから当然、迷うことなく“水性”を使用している。

 

しかし、値段は高い
安い水性タイヤワックスでは、満足な性能が無いので
シリコン濃度の高い
つまり、価格がとんでもなく高い
某外国有名メーカーのタイヤワックスを使用していた。
10リットル換算で18000円もするものであった。高い!

 

と、そんな時
約半年ぐらい前であったであろうか
ドイツのSONAXでの研修開発の責任者であるマンフレッド・ピッチ博士から
乳白色のケミカルサンプルが2種類送られてきた。
わずか4リットル程度ずつであった
「VP-56」と「VP-59」

 

「ボディーの樹脂部分の艶出し、あるいはタイヤの艶出しに最高です。
しっとりした上品な良い艶になります。試してみてください。」とある

 

早速、開発部がテストしてみる。
「ホホ~~~ッ」
いいではないか
ではということで、今度は快洗隊に持ち込んでみる

 

いつも辛口の酒部マネージャーが
「このタイヤワックス、すごいですよっ!
いつも使っているアー○○―○より、はるかにいいです。
ものすごくしっとりした艶で、
しかも、超塗りやすいです。こんなイイの初めてですよ。

 

早速、ドイツSONAXに報告
大変気に入ったので、これを欲しいと申し出た

 

しかし、「これはダメ」だと言う

 

訳を聴いたら
「これは非常に特殊な設備で造ったもの
今までのものとは桁違いの大変な高圧、高熱の釜で
海面活性剤を使わずに、強制的に“エマルジョン=分散”にしたものです。
シリコンも特殊なもので、このまま製造しても非常に高い価格になってしまう。
それでもいいですか?」

 

私達は業務用のケミカルメーカーだ
消耗品であるタイヤワックスを高いコストで作っても、販売は出来ない

 

私達の研究所のスタッフS氏(ハンドルネームDr.サンコン)ともジックリと相談した
確かに、高圧高熱下でのシリコンの水エマルジョンの技術が
最新の物として開発されているらしい

 

とりあえず、高いと言ってもどれぐらいなのか
こちらから指値(買上価格提示)をしてみる

 

とても無理だとの返事が来たが
「その価格でやれるものを、新しく作ってみる」とも言ってくれた

 

それから何回サンプルが来たことやら
最初のころ送ってきたものは
性能的にまったくダメで、「話にならない」と報告する
すると
「そりゃそうだろうね」と言って来る

 

しかしすぐに
「これならどうか?」と、すぐさまサンプルが航空便で送られてくる

 

性能的には、かなり良いものが出来てきた
しかし、静止テストをすると
案の定「分離」する

 

先に書いたように
水性タイヤワックスの性能を上げるためには
分散の安定を、不安定な方向に振ればシリコンがタイヤに付着しやすくなり
性能は上がる
しかし、当然のように「分離」がしやすくなるのだ
こんな子供だましのようなことは分かりきっているので、チョッと失望した

 

それを伝えると
また、すぐに、サンプルが送られてきた
あまりにも早い対応だったので
何をやったのかはすぐに分かった
「増粘」である
・・・・・・
・・

 

もう日付が変わってしばらく経った
これ以上は、今日はやめます。
この3日間、強行軍だったので
もう目がだめです。
ここからの話は、明日のなるべく早い時間に書きます。

 

ここまでの話をもっと分かりやすくしたチャートと
話の結末、つまりいよいよ製品化に成功した話をまとめて
明日書きます。

 

ごめんなさい

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