谷 好通コラム

2015年05月20日(水曜日)

5.20.その② 行列が出来る「つけ麺屋」から行列が消えた。

ある小さな「つけ麺屋」が、
一度、テレビのグルメ番組に取り上げられて、
行列が出来るようになりました。
私も昔、一度、
たまたま行列が途切れていて、すぐに店に入れそうに見えた冬の冷たい雨の日、
思い切って、店の扉を開けて入ってみました。

 

店の中にはカウンターの後ろの椅子に座って待っている人がいっぱいいて、
若い女性店員さんから
「あっ、すいません。中はいっぱいなんで、外で並んでいただけますか~」
と言っても、外は冷たい雨が降っています。
屋根の囲いもない野ざらしで、
傘を差して、待つしかないのか。
行列嫌いの私は、そのまま黙って帰りました。

 

あれからそのつけ麺屋さんには行きませんでしたが、
二三年後には
行列はいつの間にか短くなっていて、
行列が短くなると出来る「風よけの壁と屋根」の小屋が出来ていました。

 

それからまた数年経った先日、急に、
そのつけ麺屋に行ってみる気になったのです。

 

入った店は客席がすべてカウンターで8席しかありません。
これではすぐに行列が出来るはずです。
2席に先客が座っていただけで、私たちはすぐ座れました。
でも、自動券売機で「つけ麺」の食券を買って、
券売機の前に立っている店員さんに渡して、
「つけ麺」を待ちました。
不思議に店員さんは誰もこちらと目を合わせようとせず、空(くう)を見ています。
こんな暇な時は珍しいのだと主張しているような静かな時間です。

 

出てきたのはドロドロのつけ汁の珍しいつけ麺でした。
でもたまたま、私にはおいしくは感じられません。

 

ひょっとしたら、この店のつけ麺は、
それが珍しいつけ麺だったので、
その珍しさでテレビに出たのですが、
テレビに出た「つけ麺屋」は、それだけで、たくさんのお客様で行列が出来て、
その行列が、また新しいお客様を呼んでいたのではないでしょうか。
でも、
味は、それほど美味しかったわけではなかったので、
あまり多くの人が、また食べたいとは思わず、つまり、あまりリピートすることはなく、
だんだん暇になったのではなかったでしょうか。

 

何かの拍子で行列が出来ると、
その行列が、またお客様を呼ぶのですが、
このつけ麺の味がうまいから行列が出来ていると勘違いした店員は、
いつか傲慢になり、威張ったような客に対する意識が、
一旦短くなり始めた行列に、
行列が短くなると出来る「風よけの壁と屋根」の小屋を造っても、
行列を維持することは出来ません。

 

きっとこう店主は、
行列が出来たのは、
ドロドロつけ麺が珍しくテレビに出たからだけであって、
行列がなくなったのは、
そのつけ麺がたいして美味しくはないからとは気づかず、
こんな暇な時は珍しいのだと主張しているような静かな時間のまま、
いつの間にかなくなっていくのでしょう。

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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