谷 好通コラム

2014年05月25日(日曜日)

5.25.Cドライバー、ちょっとだけかわいそうだったというだけの話。

仙台SUGOサーキットで、
スーパー耐久レースに付き合っています。
TOM‘Sの関係で、
監督の関谷さんが主催しているIPS(インター・プロト・スポーツ)で、
キーパー所有の1台がスーパー耐久のレースに出ているのです。

 

ドライバーは、若手ナンバー1の平川亮選手と中山雄一選手。
そこに予備ドライバーとして弊社の畠中常務がCドライバーとして、
一応登録されております、・・・・なのです。
と思ったら、昨日の予選で、
両若手ドライバーの2.5秒落ちというちょっとしたプロ並みのタイムを出して、
歓喜する畠中自身を横目に、
「勘違いをしなければいいが・・」と、心配をしています。

 

8年くらい前だったでしょうか、
スーパー耐久シリーズの「十勝24時間レース」に、
私もヘボドライバーとして出場したことがあります。
あの時、
スタートしたら24時間やむことのないレースカーの爆音に、
深夜、ちょっとした恐怖を感じたことがありました。
それは、単に大きな音にではなく、
暗闇の中から襲い掛かってくる空冷のポルシェの咆哮として、
あるいは、こんなことに夢中になっている自分の愚かさに
恐怖を感じたのかもしれません。

 

今日のスーパー耐久、
あの時と同じ爆音の中にいて、
菓子をかじりながら、テントの中でこれを書いている今と、
少しだけ同じものを感じるのですが、
後ろめたさはもうすっかりありません。
たぶん、私が鈍くなったからでしょう。

 

しかし、スーパー耐久に参加のドライバーは、
歳を取ったドライバーが多く、
彼らの中に、「まだやっている俺ってカッコいいだろ?」と表情が取れて、
勘違いの延長が意外に多いのかなと思ったりします。

 

スーパー耐久は、参加する人たちのためのレースです。
みんなが参加して、俺ってカッコいい?と思う場所なのです。

 

しかし若いエースの二人にとっては、
そんな叔父さんたちの中に混じって走ることによって
遅い車を追い抜く練習と、
これから参加するであろう超ロングのレース、
とりわけル・マン24時間、ニュルンブルグ24時間のような、
大量の遅い車と速い車が混在して走る24時間レースの練習には、
日本のスーパー耐久への出場は有意義でしょう。

 

今日は中山雄一選手がスタートドライバーで、
3時間のレースを、
約1時間半ずつ平川亮選手と走る予定です。
しかしこのレースは2回のドライバー交代が義務付けられているので、
最終盤に、一回、形だけのドライバー交替をします。

 

 

細かいクラス分けがされていますが、
#37 IPSは、ST1というクラスで、
全部で6段階のクラス分けがされている速い方から2番目のクラスです。
だけど、全出場台数が44台の中で、
ST1は、私達の#37のIPSと、#9のBMWZ-4の2台だけです。
昔はGT-Rやポルシェ911がこのクラスでの花形だったのですが、
あれからスーパー耐久が大幅に変わって、
ST1は、いずれにしても2台だけです。

 

最初の中山雄一選手は、
スタート以降、順調に走って、1時間半の長丁場を
上のクラスである4台のST-Xクラスの内、
1台のST-X、アウディR8をも抜いて、
ST1クラス1位、総合4位で走り終えました。

 

そして平川選手も、快調に走って、
ST1クラス1位、総合4位をラクラク守り、
一度スピンして大きく遅れたST1クラス2位の#9に300秒の差をつけました。
そして、また約1時間以上走って、
3時間レースの15分前には、形だけのドライバー交替をするはずです。

 

そのドライバー交替をピットで見ようと、
ピットの外から帰ってきたら、
ドライバー交替の控えに、
なんと畠中Cドライバーがヘルメットを被って控えているではありませんか。

 

 

「何やってんだ、お前。」と、ヘルメットをこついてやったら、
「あっ、見つかっちゃった」みたいな顔して、
ヘルメットの中で、引きつりながら笑っている。

 

どうも、2位の#9に300秒もの貯金があったので、
関谷監督が、ご慈悲で、
畠中Cドライバーに15分だけ走らせることにしたらしい。

 

監督がしたことなので、何も私が変に口を挟むことではない。
畠中Cドライバーは中山選手たちの2.5秒から3秒落ちまで速くなっているが、
万が一、#9に1周10秒遅くても、15分ならせいぜい6周しかないので、
60秒間を狭められるだけ。まっいいか。です。

 

 

さて、ゴール15分前、
最後のCドライバーへのドライバー交替をし、
燃料の追加給油も無し、タイヤの交換も無し、
平川亮選手から畠中選手への単なるドライバー交替をして、
一度止めたエンジンを、
畠中選手が再びかけようとしたら、
スターターが回らない。

 

 

キュイ、キュイとほんの短く音が出ただけで、
ギヤはニュートラルに走っているのに、
クラッチもちゃんと切れているのに、
スターターモーターが回らない。
Cドライバーだから回らないのではない。
すべてが正常のポジションにあるのに、スターターだけが回らない。

 

メカニックの人が車を前後に押してみたり、
スターターを外から叩いたり、
外部バッテリーにつないで見たり、
挙句の果てには、
押しがけをして見たり、
ありとあらゆる事をやってみて、
最終的に、エンジンは再びかかることはなかった。

 

 

3時間レースの最後の15分で、
原因不明のエンジン再スタートならずで、リタイアです。

 

畠中Cドライバーは、
エンジンの止まっている#37に乗り込んで、
エンジンが再スタートすることなく、

 

 

下りました。

 

ちょっとかわいそうでしたが、仕方ありません。
300秒の大差で、
レースで乗れるはずのなかったCドライバーが、
最後の15秒だけ乗れることになったのは、大ラッキーでしたが
その喜びの直後の、何も成せぬままのリタイアは、
少しだけかわいそうでした。
(たぶん、中山選手が乗っても同じだったろうと思われます。)

 

だからと言って、
次のレースで、走らせてもらえるかどうかはまったく別の話です。
スーパー耐久レースも勝負の世界です。
こんなチャンスがまたあるとは限りません。
たぶん無いでしょう。

 

ただ、ちょっとだけかわいそうだったと言うだけの話です。

 

 

レース前はこんなにハッピーだったのですから、仕方ありません。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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