谷 好通コラム

2010年06月06日(日曜日)

2520.別の次元にある400点台の世界

今日はホテルで一人。
今日は一日中、ひたすら睡眠する日と決めた。
それでも24時間は眠れないので、たまにゴソッと起きてこれを書き始める。

 

昨日は、旅行に来た仲間たち7人と一緒に、
朝と昼の兼用のご飯を食べた時、
ビールを飲んで酔ってしまった。
だから仕方なく、なんでもOKのいい加減な射撃場で一回だけ撃った。
ここで少しおかしくなったかもしれない。

 

撃ったのはH&K/USPという銃、ドイツ製の銃だ。
ベレッタM92Fもバランスが良くて好きなのだが、
H&K/USPはすべてがカチッと決まっていて、今一番好きな銃である。

 

本当は、
グァムで唯一の本当にきちんとした射撃場
ウェスタン・フロンティア・ビレッジ」に行くつもりであったのだが、
この射撃場はキチンとしているので酒を飲んだ人には絶対に銃を撃たせない。

 

しかし私は、つい、昼間からビールを飲んでしまったので、
もう一軒知っている他の射撃場に行くことになってしまったのだ。
ここではせっかくのいい銃も、メンテナンスがいい加減なのかどこかゆるい。
問題は「弾丸」で、使用後の弾の薬きょうに火薬を詰め直したリローディング弾であり、
火薬の絶対量が少ない。
それでもH&K/USPは元々優秀な銃なので、割ときちんと作動してくれるが、
ベレッタM92F、シグ・ザウウェル、グロックあたりの新しい銃でも、
リコイル(火薬による反動)が足りなくて、薬きょうがうまく弾かれず、
詰まってしまうことが多い。(ジャムする)

 

と、また、うっとうしくもマニアックな書き方をしてしまったが、
要するに、真剣に撃ってもそれだけのスコアが出にくいのだ。
だから、つい、いい加減に撃ってしまった。
一応キチンと構えて、一応集中して撃つのだが、
「どうせ」と思うと、やはり真剣には撃っていない。

 

私は昨日の深夜3:00にホテルに到着して各部屋に解散する時、
「良かったら、明日の午後4時に射撃に行くから、行きたい人だけ、
午後3時半にロビーに集まってください。
1ゲームおごりますから、良かったら、付き合ってください。」と声をかけた。
(私は昔、ガンシューティングに凝った時期があった。)

 

だからその予約をしようと、午前10時すぎに何人かと
ウェスタン・フロンティア・ビレッジに行こうとしたのだが、
つい、途中で飲んでしまい、
でも、どうしても少しだけ撃っておきたかったので、
前記のなんでもOK、ちょっといい加減な射撃場に行ってしまったのだ。

 

もちろん、そのあと、
ウェスタン・フロンティア・ビレッジ(WFV)に寄って、
午後4時から「たぶん20名くらい」と予約を入れた。

 

午後3時半すぎ、ロビーに集まったのは25人。
29名中25名が集まってしまった。
ひょっとしたら10名位しか集まらないかなと思っていたのに、嬉しい誤算である。

 

みんなでぞろぞろ歩いていって、
WFVで、射撃を楽しむ。

 

実は、きちんとした射撃とはなかなか経験できないものなのである。
海外の観光地によくある「実弾射撃場」は、
好奇心を満たすだけのいい加減なものばかりで、
レクチャーもいい加減で「それで大丈夫なの?」と思うほどで、
銃のメンテナンスも不安だ。
ある程度は銃を知っているからこそ、本当に危険を感じる。

 

その点、ウェスタン・フロンティア・ビレッジは非常によく管理されていている。
初心者へのレクチャーも丁寧で、時間もかかり、
待ち客の多い時などは、こちらが心配になるほどだが、
それでも、やるべきことはキチンとやるのがオーナーの方針であるようだ。
決して急いだり手を抜いたりしない。
銃のメンテナンスも完璧。
レンジマスターのマイクが、いつもガンの手入れ、整備をやっているし、
精度の調整もこまめにやっている。

 

オーナーの山本さんはグァム在住の日本人で、
グァムのサッカーナショナルチームの正式な監督でもあり、
(グァムは米国の一部ではあるが、自治地域として一つの国として認められている)
社会的にも、人間的にもしっかりとした人だ。

 

一回に10名が射撃する場所に入り、
実際に射撃に入る前に入念なレクチャーが行われた上で、
計36発の射撃をするので、1チームで45分以上の時間がかかる。

 

25名、他のお客様も少し混じって3つのパーティーに分かれて撃った。
みんな、緊張して、しかもすごく楽しんでくれた様子で、嬉しかった。

 

 

私が撃ったのは最後のパーティーで、
他のみんなへのレクチャーが終わってから、射撃の場所に入る。
なんか特別待遇のようで恥ずかしいが、ちょっと自慢でもある。

 

その日の射撃はこの一回だけ。
まったくダメであった。
点数は376点でもちろんトップだが撃っている回数がまったく違うので、
当たり前であり、賞外である

 

初心者は40cm×50cmの的の紙全体に弾が当たれば上等で、
的自体になかなか当たらない人までもいる。

 

理由は簡単で、「撃つ!」からいけないのだ。
銃を撃てば弾が出て反動が来るのだが、
その反動が来ることに構えてしまって、手全体で撃ってしまう。

 

それは、全弾を撃ち尽してしまったのに気がつかなくて、
また引き金を引いた時によく分かる。
弾が出ていないのに、「よいしょっ」という感じで腕が動く。
射撃では銃が上に跳ね上げられる方向に反動が来るので、
引き金を引く時に、銃口が下に向く方向に腕と手の力を入れる場合が多い。

 

銃は弾丸が出てしまってから反動が来るものなので、
銃をしっかり構え、的をよく狙って、
引き金の人差し指だけをギュウっと絞っていけば、
自然に引き金が引かれて撃鉄が落ち、弾は発射する。
それから反動が来るのだ。

 

銃を構えて、的をよく狙い、
腕も、手も、他の指も動かさずに、的を狙い続け、
引き金にかかった指だけをギュウっと絞って行く。
その結果「あっ出ちゃった」という感じで撃てば、
それで、とりあえず、かなりいいところまでは当たるのだ。

 

ここまではそんなに難しくはない。
たとえば、大阪営業所の吉識君などは、撃ちはじめた最初の十数発までは、
驚くほど的の真ん中に当たっていた。
素直に構えて、狙って、引き金を絞っていたのだろう。
シューティングレンジのレンジマスター、マイクも
「いいセンスだ」と誉めていた。
ところがパッケージで撃った銃が変わって行って、
銃自体が大きくなり、だんだん反動も大きくなると、
手と腕が反動を憶えてしまったのだろう。
その反動に、意識と腕と手が構えるようになって、
それまで素直に引き金を絞っていたのが、
手と腕全体で”よいしょっ”と力を入れて、「撃って!」しまったようだ。
45口径の銃くらいから、まったくいい所に当たらなくなってしまった。

 

結果的に射撃大会の優勝は仙台営業所の渡辺所長。
340点くらいであったか。
(「こんなものはチョロイと豪語の鈴置君はドベ3であった。彼は全くセンスがない)
優勝した渡辺君には申し訳ないが、ここまでは行ける。

 

 

点数は、大きな楕円から小さい楕円まで、
外から6点、7点、8点、9点、10点と1.5cmくらいの刻みで点数が上がり、
真ん中の「×印」の白い3cm×4くらい場所が15点である。
弾は全部で36発。
それぞれの点数、つまり的全体に満遍なく弾が当たると、
6点×7発=36点
7点×7発=49点
8点×8発=64点
9点×7発=63点
10点×7発=80点
これで、真ん中に当たらなくても292点。

 

このうち6点枠(30cm×40cmくらい)が無くなって、
7点×9発=70点
8点×9発=72点
9点×8発=72点
10点×8点=80点
そして2発ぐらいが真ん中をかすれば、
15点×3発=45点で、
これで294+45=339点

 

もっと言えば全部10点枠に当たっても10点×36発=360点にしかならない。
全部9点枠でも9点×36発=324点になる。

 

要は、ど真ん中の15点枠にどれだけ入れられるかで、
400点の壁をどれだけ越せるのかであって、
15点以外は、10点枠でも、9点枠で、あまり関係が無いのだ。

 

だから、300~350くらいまでは「よく当たった」という遊びの次元で、
競技的には、
400点からどれだけ点数を上げられるか、
ど真ん中にどれだけ弾を集められるかにかかってくる。
一度、夢中になってしまった者としては「387」は全くダメで、
真ん中に6発しか当たっていなかった。

 

私の最高はたしか448点で、
本当の競技となれば問題外であろうが、
市中の射撃場で、みんなが使っている銃を使っての点数としてはかなりである。
(完全に自慢話モードになった。)

 

ただ単に遊びできただけの社員旅行なので、ムキになることは全く無いが、
私は、この387で完全にムキになってしまった。
次の日、
つまり今日、一人でWFVに行った。
午前中、腹が減っている時にまず2ゲーム。

 

ダメであった。
またもや三百何十点かで、真ん中の×印に5~6発しか当たらない。
9点枠より大きく出ることはないが、15点の×印の中に入らない。

 

昨日はみんなも一緒にいたので集中できなかった。という言い訳で、
一人でやればいけると思ったのが間違い。
全く変わらない。

 

やっぱり腹が減っているとダメかと勝手に考えて、
向かいのラーメン屋でラーメンを一杯だけ食べる。
ラーメン屋の中国人は、もう他に要らないのかと不機嫌そうにするが、
あまり腹が膨れすぎてもいけない。
ラーメン一杯だけである。(だからか水も出なかった)

 

そして午後のラウンド。
気合を入れてまず1ゲーム。
同じだ。
ほとんど同じで、レンジマスターのマイクは点数を言っても来ない。
「言ってもしょうがない点数だったよ。」ということだ。

 

 

今日は日曜日で、
グァムの空軍基地「アンダースン基地」の米兵がよく歩いている。
WFVの中にも何人かが何組も入ってくるが、
普段、仕事で銃を撃っている彼らがお金を払って銃を撃つ意味はない。
少しの時間だけ様子を眺めて、すぐに出て行く。

 

午後からの2ゲーム目。
いつものように、射撃台の上には、
H&K/USPと9mmパラベラムの弾が36発置いてある。
オートマチックの拳銃は、カートリッジに弾を詰めるのにコツが要るので
レンジのスタッフがやってくれるのだが、
私の場合はほったらかし。
自分で好きなように弾を詰めて、自分の好きなように撃てと、
ガンと弾がぽんと置いてあるだけ。
カートリッジには一回に9発詰めて、4回に分けて撃つ。

 

 

撃ち始めてすぐ、
一人の米兵が怖い顔をして的の方をじっと見ているのに気が付いた。

 

本気で、私のシューティングを見ている奴がいると思い、
やっとここでスイッチが入った。
たまたま最初の9発で2発が真ん中の×印に入っていたので、
この米兵も、本気で見ていたのだろう。
この表情に「よし、見とれよ。」と思った。
スイッチが入ったのである。

 

「構えて、狙って、ただ引き金を絞る」だけでは、
そこそこ当たっても、
ど真ん中に入らないのだ。

 

本当に×印に当てようと思ったら、
的の×印と、銃の照星がピタッと合った時に、
スッと自分の意識で引き金が引かねばならない。
集中しようとがんばっている時は、これが出来ないのだ。
自然に集中して、×印と照星がピタッと合ったまま、スッと自然に自分で引き金を引く。
このタイミングが、本当に集中した時にしかできないのだ。

 

それが何のきっかけで出来るかは、私には自由にならない。
そのスイッチが入ったのだ。
残りの27発中、11発をど真ん中に入れ、
合計13発をど真ん中に入れた。
それで
8点×1発=8点。
9点×10発=90点
10点×12発=120点
15点×13発=195点
で、やっと合計413点である。

 

387点は真ん中に6発、
真ん中に13発入れてやっと413点。
この26点の差は、真ん中に何発入れるかの勝負で、
ものすごく大きな差なのだ。

 

 

ボーリングでも150とか170の点数を出す人はいくらでもいる。
何回かはストライクは出せる。
しかし、200点をオーバーしてからはストライクをどれだけ続けるかの次元に入って、
もう、ちょっとやそっとでは立ち入れない世界になる。
「次元」が変わるのだ。

 

射撃で言えば、それが400点になる。
ここを境に、次元が変わるのだ。
私は昔、射撃だけのためにグァムに通ったことがあって、
(ヒマな時代であった)
タイミングとコンディションがよければ、
ど真ん中に半分くらいまで入れられることもある。

 

しかし本格的な競技になると、それが、
「何発入れた」の世界から「何発外したか」の世界になるのだろう。
アーチェリーの競技などを見ていると、
ど真ん中に入れるのが当たり前で、何発かを外すのが失敗であって、
失敗が1発なのか、2発なのか、3発なのか、
想像だが、たぶん500点台の攻防なのではないか。

 

私なんかの次元とは、もう2つぐらい別の次元の世界なのだろう。

 

次元を突破すると、別の世界が見えるという。
別の世界では今まで大変であったことが普通になって、その上を目指したくなる。

 

仕事の上でも全く同じ事が言えて、
今限界までがんばってやっていることが、
次元が変わって見えるものが変わると、
今までやってきたことで大変だと思っていたことが、
そんなものは当たり前のことであって、
もっと目指すべき上の世界が見えるようになってくるのではないか。
今の次元を自分の限界だと思っては、必ずその次元で終わってしまう。
そこを突破するのは、
自分が何を目指すのか意志をはっきりと持ち、今の自分を正当化しないこと。

 

・・・・・
だから、今回グァムの射撃では、
どうしても400点を出したくてこだわってしまった。

 

しかし結局、今回の私にとってのグァムは、
413点ですべてが終わってしまったのかもしれない。

 

あとはまた飲むだけである。

 

 

グァムの空と海は美しいが、モノクロームには合わない。
それでカラーで撮るが、何か絵のようで面白くない。
まだしばらくモノクロで撮ろう。

 

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    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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