谷 好通コラム

2009年03月09日(月曜日)

2154.独・日車優勢、米車劣勢の理由

本屋さんで見ると、自動車専門誌では
「ベストカー」などの週刊誌は、国産車中心であるが、
上質な装丁の専門月刊誌「NAVI」「CG」「ルボラン」「ENGIN」などでは、
圧倒的なヨーロッパ車賛美で埋まっている。

 

フランス車、イタリア車、イギリス車はそれぞれに独自を味があるが、
自動車の性能としてはドイツ車が圧倒的に優秀であり、
日本車は優秀ではあるが概して「つまらない車」であるとされている。
アメリカ車にいたってはほとんど相手にされず、
韓国車などは記事に載ることすら稀である。

 

なぜドイツ車がここまで持ち上げられているか。
ドイツ車が高速での性能が優秀だからであろう。
エンジンも、足回りも高速での性能はドイツ車がやはり優秀である傾向が強い。

 

その理由は、ドイツに速度制限無しのアウトバーンがあることが大きい。
ドイツのアウトバーンでは本当に時速200km/h以上で走る車が当たり前なのだ。
私はそんなアウトバーンが大好きだが、
200km/h以上で走っても安全なのは、
道路自体の精度が高いことと
とにかくみんな車線をきちんと守って走っていることに尽きる。

 

ほとんどが三車線のアウトバーン。
ゆっくりのトラックは一番外側(ドイツでは右側)の車線をきちんと走り、
150km/h前後の比較的ゆっくり走る中速車はきちんと二車線目を走り、
両方とも滅多にその内側に出てこない。
そして一番内側の追い越し車線を200km/h以上の車がかっ飛ばして走る。
二車線目から150km/h程度の遅い車が内側の車線に出てきたら、
200km/h以上の高速車は無理に追い越さず、ピタッと後ろについたまま追走する。
すると前の中速車は、すみやかに追い越し車線を譲る。
そのすみやかさが見ていて実に気持ちいい。
マナーがいいから200km/hで走れるのか、
200km/hで走る車がいることが前提なので、
危ないから、必然としてマナーが良くなってしまったのか。

 

とにかく、ドイツにおいて車はアウトバーンを走ることを前提として作られている。
特に高性能車では200km/h以上で安定して走るのが当然に造られている。
だから、走る、曲がる、止まる、それぞれの機能が、
200km/hを基準にして造られているのだ。
一つ一つの部品の精度が高く、その設計も、200km/h水準で作られている。
だから、その分、コストも高い。
特にBMW、ベンツ、アウディ、ポルシェなどプレミアムカーと呼ばれる車たちは、
同じ排気量の車ならば日本車の価格の1.5~2倍以上は高い。

 

それに対して日本では高速道路でも100km/hが制限速度。
100km/h以上で走ればスピード違反。
40kmオーバーの140km/hで即免停。
自動車の機能が100kmからせいぜい140km程度を基準に作られている。

 

日本車の主なる輸出先であるアメリカでも約100km/h程度が制限速度で、
しかもアメリカのフリーウェイはとことん真っ直ぐな道だ。
曲がる性能が良くてもあまり意味がない。
アメリカ車は真っ直ぐ、
しかも、中程度のスピードで、延々と走るのに都合がよく出来ている。

 

ドイツ車と日本車・アメリカ車では走るべき道路の条件がまったく違うのであって、
車が持っている目的が違うのだ。
当然、価格も安く出来ることになっている。

 

マニアックな専門誌が車をテストするのは「サーキット」であり、
「箱根ターンパイク」とか絶対的な走行条件の高い道路で行っているので、
走る、曲がる、止まるのいわゆる自動車としての基本性能が求められる。
そういう条件でのテストは、ドイツ車が圧勝するのが当たり前なのだ。

 

ドイツ車は圧倒的な高速で走る能力が高く、コストは高く、価格も高い。
日本車は中速、低速で、比較的悪い路面を乗り心地よく、燃費よく走る。価格も安い。
アメリカ車は中速で延々と続く長距離を燃費を気にせずに楽に走る。価格も安い。

 

ザクッと表現すれば、こんな風になるだろうか。

 

しかしどんな車が本当に優秀なのかは、その目的と使う条件によって変わるのであって、
必ずしもドイツ車があらゆる面で圧倒的に優秀であるとは言えない。

 

日本において100km/hの制限速度で走っている分には、
ドイツ車の持っている高速性能は無用であると言える。
しかし、200km/hで走ることが出来る車は100km/hで走っていても余裕たっぷりで、
その安心感に価値があるとも言える。
しかし、その安心感に1.5~2倍もの価格の価値があるかどうかは、
その人の価値観によって変わるが、
しかし高い値段の車に乗っている事実にステータスの意味があって、
多くの場合、いばり車としての意味が大きいのは残念だ。
それでも、走る機能としてのドイツ車は、やはり圧倒的であり、
機械として自動車を楽しむ人には、
ドイツ車はもっとも開発に金をかけられた進歩的な優秀な自動車と言える。

 

日本車の場合、走る機能よりも、
乗って使うための機能が消費者に重要視され、
多くの場合、便利な車である。
1BOX、ミニバンなど重心が高く自動車としての性能が基本的に低い車でも、
低コストで広い用途が得られ、
出来るだけ大きくて、居住性の高い、乗って気分がいい車が大流行だ。
また、ガソリン代の高い日本ゆえに省燃費技術も高く、ランニングコストも安い。

 

それに対してアメリカ車は、
高速性能を要求されるわけでもなく、曲がる能力もそこそこで、
1人一台の文化が続き、多人数が乗れる能力もさほど要求されず、
燃料の税金も安く、燃費がいいこともさほどは要求されない時期が長く続き、
デザインとか外観の魅力が“売れる”大きな要素で、
車としての機能の部分に、
利益を圧迫する莫大な開発費をつぎ込んでもあまり意味がなかった。
だから、経営者も、株主の当面の要求である目先の利益に走り、
マネーゲームにものめりこんだ。

 

ドイツ車は値段は高いが、アウトバーンでの高速性能を競うために
高いコストをかけた開発を受け、
アメリカでも日本でもその性能を評価されて(必要・不必要は別にして)
売れる車に育っている。

 

日本車は高速性能はそこそこで、ヨーロッパではあまり売れていないが、
そこそこの性能に、その安いコストが受けて、
アメリカをはじめとする世界中で爆発的に売れた。
もちろん日本国内では、日本車のシェアが圧倒的である。
今ではそこそこに走って、乗り心地がよく、
安く乗れる車として世界中で最も売れる車に育っている。

 

ところがアメリカ車は、
何十年も前に開発されたOHV・V8の5ℓクラスのエンジンが
いまだに主流で、燃費についても、高速性能についても大昔のままに近い。
アメリカは自動車の機能としての開発にあまり力を入れなくても済んでしまう道路条件と、
車の使用条件と、デザインで売れる文化であり、
アメリカのマーケットがあまりにも巨大で、
アメリカ国内で売れていればある程度の売上が確保されるので、
ほとんどの車が、世界レベルで機能的にもっとも遅れた自動車として
アメリカ国内だけでしか売れない車になってしまった。

 

そのアメリカの金融バブルがはじけて、
消費者がローンを組めなくなって、車の購買が極端に下がった今、
直接的な金融損失と、売上げの激減が、
世界中では売れていない余裕のなさが重なって、
アメリカンビッグスリーの先行きのまったく見えない破滅的な凋落の原因だろう。

 

アメリカ車は、自動車としての開発がそれほど重要ではない風土的条件があったので、
必然的に窮地に立たされていると言えるのか。

 

商品の商品としての競争力のための開発が、
目先の「売れる」ことよりも大切な時点が必ずやって来る。
自身にふり返って、自省しなければならない。

 

 

先日行ったドイツのアウトバーン。
小雪が降っているのに、
内側の車線の車は200km/h近くで走っているのは、圧倒的にドイツ車が多い。
正直言って怖かった。

 

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    代表取締役会長兼CEO

    谷 好通

    キーパーのルーツであり、父であり 男であり、少年でもある谷好通の大作、名作、迷作コラム。
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